ー神有の章12- 【秤】
吉祥は想う。さて、【対話】が開始されたものの、何から質問したものかしら?質問した内容で下手に大きな情報を手に入れると、こちらがそれに見合ったものを提示しなければならなくなる。
うーーーん?ならば、自分から情報開示を行って、相手にも情報開示させる方法を取ろうかしら?それなら、自分の情報量を抑えつつ、相手からも同じ情報量が得られるし。だけど、それでは、自分の聞きたいことには中々たどり着けないわ?
吉祥が長考していると、突然、信長は口を開き、声を出す。
「先生は、第六天魔王波旬くんと合一を果たした織田信長です。そして【理】は【欲望】です。先生の神力は相手の【望む】ことを叶えることができます」
うわっ。やられたわ。先手を取られてしまった。しかも、自分の神力の情報まで【秤】に乗せてくるなんて!こうなったら、僕がここで開示できる情報となれば!
「僕は、思兼と合一を果たした吉祥よ。【理】は【知識】だわ。そして、神力は相手のことを【知る】ことができるわ」
「うむ。まずまずの均衡ぶりなのじゃ。ちなみにわかっているとは想うのじゃが、この【秤】が互いの情報の重さを測ってくれるのじゃ」
天照の言っていることは、天照の前で金色に光っている両天秤だ。どちらかが一方的に重要な情報を乗せれば、一気にその一方に傾く。その一方に傾いた両天秤を元に戻すためには、同程度の情報量を秤に乗せなければならないのだ。
だが、当然、情報量には完全に同質と言うことは無い。だからこそ、そこは【納得】と言う許容がある。相手が提示された情報量が同じだと【納得】すれば両天秤は均衡を保つのである。
「僕の神力【知る】は相手の神蝕率を【知る】ことができるわ。それだけじゃないよ。神蝕率によっては相手がどんな大神と合一を果たしたのかも【知る】ことができるのよ!」
信長は、その情報を提示されて、ほっほうとつぶやく。
「じゃあ、先生も自分の神力について説明しなければなりませんね?」
信長がそう言うと同時に吉祥が右手を前に出し
「そんな情報いらないわ。その代り、ひとつ質問させてもらうわ」
「えええ?先生、自分の神力について、吉祥くんに聞いてもらいたかったんですが?」
いるか!と想わず叫びそうになる吉祥である。大体、あんた、【対話】じゃなくても、勝手にしゃべりそうだもん。そんなことより、すっとぼけてしゃべらなそうなことを聞きださなくては。自分の神力についての秘密に対する対等な情報を引き出す質問。それを吉祥は考え、そして発言する。
「信長さま。あなたの家臣のひとりにある男が居るはずだわ。それは【神殺し】楮四十郎が今でも、あなたの家臣をやっているかどうか?それを聞かせて!」
吉祥が【神殺し】と言うキーワードを言ったとき、天照はぴくりと右の眉を動かす。
「ほう。彼の所在を聞きたいのですか?しかし、これはまた、奇怪なことを聞きますね?まあ、良いでしょう。彼は今、ある任務に従事しています。まあ、先生の天下取りとはまた別の任務なので、正確には、先生の家臣をやっているかと言われると、応えにつまってしまいますが、まあ、一応は先生の家臣だと明言しておきましょう」
信長がそう応えた瞬間、両天秤は一方にガタンッ!と一気に傾く。その両天秤の傾き度合いに吉祥は想わず冷や汗が背中に浮かび上がるのである。
「あらあらあら。先生、質問への応えを言いすぎましたねえ?これ、今から言い直すことは可能なんでしょうか?天照くん」
「一度、開示した情報を引っ込めることなどできるはずがないのじゃ。まったく、少しは小娘のことを考えて応えるのじゃ。これでは、相当量の情報を小娘は吐きださねばならなくなったのじゃ」
天照はやれやれと想う。だが、【神殺し】楮四十郎の名を知っているだけでも、この小娘は何か重要なことを知っているのじゃ。しかし、どうするのじゃ?この小娘。これ以上に第六天魔王から情報を引き出す前に、自分から第六天魔王に与えらえれる情報はあるのかじゃ?
「おいおいおい。吉祥、やばいんじゃないのか?あんなに両天秤が傾いてたら、挽回できないんじゃないのか?」
「う、うるさいわね!いいから黙って見てなさいよ!」
万福丸の心配そうな視線を背中に感じながらも、吉祥はどうしたものかと逡巡する。ったく、これだから質問は怖いのよ。でも、これくらいのリスクを背負わなければ、僕が知りたいことには辿り着けないわ!
「じゃあ、僕は情報を開示するわ。そこに居る万福丸は信長さま、あなたが滅ぼした北近江の大名、浅井長政が残した息子よ!」
吉祥がそう発言すると、ジワリジワリと両天秤は均衡に戻ろうとしていく。だが、ガタッと言う音とともに傾いたまま、止まってしまう。
「ちょっと待ってくれよ、吉祥!なんで俺の情報を開示してんだよ!吉祥のことを言えよ!」
「うっさいわね!あんたは僕の所有物でしょ?僕が自分の所有物をどうしようが勝手じゃない!」
「なんだよ、そんなことかよ。えへへ。俺、吉祥にそんなに愛されてるのかあ。所有物なんてもってまわったおうな言い方しなくても良いのにさあ?」
万福丸がうへへ、えへえへと笑っている。本当、万福丸は馬鹿で助かるわ。と想った吉祥であるが両天秤がガガガガッ!と音を立てて、今度は吉祥のほうが情報量としては大きくなるような傾きとなる。
その両天秤の動きに、想わず、吉祥が、へっ!?とすっとんきょうな声をあげてしまうのである。
「なるほど、なるほど。いやあ、若いって良いですねえ?先生、なんだか心がホカホカとしてしまいますよ」
ちょっ、ちょっとどういうことよ!と想わず吉祥は叫び出したくなる口を無理やり心で抑える。これって下手したら【偽情】にならないわよね?ねえ?そうよね?と心配する吉祥である。
「いやあ。想わずのことでしたが、先生は聞きたいと考えていた情報を手に入れることができました。口は災いの元ってよく言ったものですねえ?」
信長はそう言いながらニコニコと笑っている。くううう。あの顔を想いっきり、ひっぱたいて違うわよ!って言いたいわ!でも、そんなことしたら、【偽情】で、2倍の情報量を開示しなきゃならないし。抑えて。吉祥。これは仕方がないことだわ。逆にチャンスだと想わないとだわ。
吉祥は、んんっとひとつ咳払いをし、信長に質問をしかけることにした。
「どうやら、万福丸が僕の所有物だってことは、信長さまにとって重大な情報だったみたいね。こちらが有利になった分、さらに質問させてもらうわよ?」
「ええ。どうぞ、どうぞ。先生、【欲望】を司る大神と合一を果たしていますので、吉祥くんが望む限りは情報を与えますよ?」