ー神有の章11- 【対話】における【理(ことわり)】
「失敬、失敬なのじゃ。それは笑い過ぎて、悪いことをしたのじゃ。しかし、男と言うモノは人間でも大神となっても本質が変わらないモノじゃ」
天照がそう感想をもらす。一応、謝ってるつもりなのではあるが、やっぱりなんとなく納得がいかない吉祥である。だからこそ、ほっぺたをぷくうううと膨らせたままなのである。それに気づいた天照は
「すまんかったのう。おぬしの男を笑ってしまって。じゃが、向こう見ずすぎるのもいけないことなのじゃ」
「なんでこんな奴が僕の男なのよ!こんなのに惚れるほうがおかしいのですわ!」
真っ赤な顔で抗議をする吉祥を見て、天照はケラケラと笑う。
「さて、そんなことより【対話】を始めるのじゃ。おぬしは第六天魔王に聞きたいことがあるのじゃろ?」
「ま、まあ。そうだけど。でも、【見届け神】を買ってでるのは何故なのですか?天照さま」
吉祥からの問いかけに天照はふむと息をつく。
「ただ単純に暇だったからじゃ。だから、面白いことがないかと下天を観察していたところに、第六天魔王と思兼が【対話】を始めようとしていたのじゃ。そういうわけで、天から降りてきたというわけじゃ」
本当に暇だったのねと想う吉祥である。だが、この申し出は吉祥としてはありがたい。天照さまは公平に【対話】の【見届け神】をしていただける可能性が高いからだ。まあ、さっき、信長さまを口説いていた点は気になるけど。まあ、信長さまはその気もないようなので、安心していいだろうし。うーーーん。でも、男のひとって、おっぱいが大きいほど好きって言うし。
「何をぶつくさ言っておるのじゃ。そんなことより、さっさと【対話】を始めるのじゃ。わらわを退屈な時間から解放するのじゃ」
なんで、僕が天照さまの暇つぶしのために【対話】を行わないといけなのかしら?とさらにぶつくさと文句を言ってしまう吉祥である。
「まあまあ、吉祥。言いたいことはやまほどあるかもだけど、今は信長のおっさんから、吉祥が欲しい情報を手に入れようぜ?」
万福丸は人中のクリーンヒットから、いつの間にか復活しており、そう、吉祥に告げる。吉祥は、はあああと深いため息をつき
「わかったわよ。あんたに言われるまでもないわ。僕は【真実】に辿り着きたいからね。信長さま、ひとつ良いですか?」
「はい。なんでしょうか、吉祥くん。先生、吉祥くんが望むのであれば、なんでもかなえてみせますよ?」
じゃあ、私の知りたい【真実】を教えてよと言いたいところだが、自分はその【取引】に対して払える情報は持ち合わせていない。それよりもだ。いくら、【円満解決】に縛られているからと言って、より多くの情報を引き出すためにも、自分が有利になるようにあるひとつの提案をする。
「この【対話】において、僕は思兼の神力を使っても良い?信長さま」
思兼の神力。それは【知る】。そして【知識】。神気を発し、神力へと変換し、【理の歴史書】を具現化する。この歴史書を使えば、より多くの情報を手に入れることができるはずだと吉祥は考えていた。
「ええ。良いですよ?その代わり、先生も第六天魔王の神力を使っても良いですか?吉祥くん」
やはり、そうくるわよね。自分が神力を使う以上、相手も神力を使うのは当然の権利だ。
「はい。もちろんいいですわ。でも、僕が信長さまが望むように行くとは想わない方がいいのですわ!」
吉祥がタンカを切る。信長は、ほっほうと言う。
「では、これから【対話】を開始するのじゃ!」
【見届け神】である天照がそう高らかと宣言する。その瞬間、大空から吉祥、信長、そして天照の3柱を包みこむような大きさの淡い桃色の円柱形の光の筒が下りてきて、3柱をその中に入れる。
これは【対話】がほかのモノに邪魔されないための聖域である。【対話】を行うモノたちと【見届け】るモノ以外は、この中に入ることは拒絶される。
「双方、【対話】における【理】はわかっていると想うが、念のため、説明しておくのじゃ。ひのもとの国には【話し合い】と【円満解決】と言う【約束】があるのじゃ。だから、この【対話】においては戦闘行為は禁止なのじゃ」
天照の言いに吉祥はコクリとひとつ頷き、信長はうんうんと頷く。それを確認した天照は続ける。
「相手が開示した情報に対して、それに見合った情報を与えねばならぬ。それは多すぎても少なすぎてもダメじゃ。必ず【円満解決】となるようにしなければならないのじゃ」
ここでひとつ、吉祥が天照に質問する。
「天照さま。【偽情】についてはどうするの?」
【偽情】。それは読んで字の如く、偽の情報を相手に与えることである。天照はふむと息をつき
「【偽情】は見破られなければ良しとするのじゃ。だが、【偽情】と見破られた場合は、【罰】として相手に提示された情報の2倍の情報を提示しなけばならない【罪】を与えるのじゃ」
【偽情】はデメリットは大きいが、同時に見破られさえしなければ、相手からの情報を代償なしで手にいれることが可能だと言うメリットがある。しかも相手は【偽情】により、見当違いの情報を手に入れようとすることだって考えられる。
「しかし、注意することじゃ。最初に言ったように【円満解決】と言う【約束】があるのじゃ。だから、【円満解決】を破った場合は、あとで痛いしっぺ返しを喰らうことになるのじゃ。それがどのような形で代価を支払わされるかは、わらわにもわからないのじゃ」
そう。これが厄介なのだ。【対話】の場で有利に事を進めても、この【円満解決】が災いとして身に降りかかる可能性があるのだ。
「因幡の白兎の話を知っているかじゃ?あやつは海を渡ろうとした時に鮫と【対話】をしたのじゃ。じゃが【偽情】を行い、一方的に自分に有利に事を運んだ白兎は、その後、その身の皮を剥がされ、さらにその傷口に塩を塗り込まれたのじゃ」
「うええええ。まじかよ。吉祥、俺、そんなことになるの嫌だからなあああ?頼むから、【偽情】をしないでくれよおおお?」
万福丸が青い顔をしながら、そう吉祥に訴えかける。
「うっさいわね!あんた、黙ってなさいよ!あんたがオロオロしてたら、僕が【偽情】したときに一発でバレルでしょ!」
吉祥がガルルルと噛みつきそうな勢いで万福丸を睨みつける。想わず万福丸は、ひいいい!と悲鳴をあげてしまうことになる。
「先生、皮を剥がされて、傷口に塩を塗り込まれてしまうのでしょうか?ボケて見たら、【偽情】だ!ってツッコまれたりしませんかね?」
「そんな心配するくらいなら、最初からボケるのはやめるのじゃ。ったく、その天然ボケ神質はどうにかするべきだと想うのじゃ」
「これだから、【対話】は嫌なんですよねえ?まあ、良いでしょう。吉祥くん。先生から、あなたが欲しいと想う情報を引き出してみなさい。先生も、あなたから知りたいと想っている情報を聞きだしますからね?」