ー神有の章10- 裸属(らぞく)
「ふっ。やるんだぜ。俺をここまでこてんぱんにしたのはこれで2柱目なんだぜ。その名、俺の魂に刻んでおくんだぜ」
万福丸はそう言うと、ぱたりと動かなくなる。
その万福丸が地面に大の字に横たわっているのを見て、天照は、ふむ、これは少し大人げがなさすぎたのじゃ。いぬっころ如きに力を誇示しすぎたのじゃ。これはこれでみっともないのじゃ。また月読のやつがうるさく小言を言ってくるのが眼に浮かぶのじゃと想うのである。
「おい、いぬっころ。起き上がるのじゃ。神気をだいぶ、和らげてやったのじゃ。これくらいなら、おぬしでも活動可能になるのじゃ」
天照の言いを聞き、万福丸は、よっしゃあああ!と跳ね上がって飛び上がる。
「いやあ、おばはん。いや、天照さま。あんた、優しいところがあるじゃん。俺、信じてたよ。天照さまがきっと救ってくれるって!」
なんだこの三下のような台詞を吐く、いぬっころは。まあ、良いのじゃ。わらわは少しばかり気分が良いのじゃ。と天照はそう想い、さらに神気を絞っていく。しかし、神気の量を落とすのではなく、ある形を成すために収束させて行くのである。
「おや。天照くんが、その姿を他人、いや、他神ですね。他神に見せるなんて、一体、どういった風の吹き回しなのですか?」
信長がそう天照に言う。天照は、ふふんと上機嫌に鼻をならし
「台詞は三下だが、なかなか男を見せてくれた少年がいたものでな。その褒美として、わらわの受肉した身体を見せてやろうと想ったまでなのじゃ」
光り輝く神気の塊がヒトの形に変わっていく。その神々しいまでの光景を万福丸と吉祥は、ただただ、見ていることしかできないでいた。そして、天照が完全にヒトの姿になったときに、万福丸は思わず言ってしまう。
「おいおいおい。なんか、光がぱあああって広がって、それが収束していったと想ったら、いきなり、ナイスバディのお姉さまが現れたんだけど!しかもおっぱいは推定Fカップ、いや、これはGカップか?そして、ウエストは引き締まっているのに、お尻ときたら、超安産型!こんなのをほっとく男なんて、この世にいるわけねえだろ!」
「解説、ありがとう、万福丸。そして、死んどけっ!」
吉祥は、鼻の舌が伸びきった万福丸の人中に、【理の歴史書】の角をぶち当てる。万福丸は、ああああああと言う声と共に、またもや、大の字で地面に倒れることになる。
「ふむ。小僧には刺激が強すぎたのじゃ。まったく、わらわをおばはん呼ばわりしておきながら、この身体を見るや否や、雄の眼つきになってしまって。仕方がない奴なのじゃ」
天照はそう言いながら、大の字になって、地面に横たわる万福丸を、足を肩幅より少し開けて、腰に両手を当ててながら、その腰を折り曲げて、万福丸の顔を見つめるのである。
「ちょっ、ちょっと!天照さま!服を着てください!なんで、全裸なんですか!」
吉祥のツッコミを喰らって、天照は首だけ横に回して
「ん?ひとは裸で産まれてくるものじゃ。大神も同じなのじゃ。おぬしこそ、何を言っているのじゃ?」
もしかして、天照さまは属性で言えば裸属なの?と想わず考えてしまった吉祥であったが、頭を左右にブンブンと振り
「裸に飢えた男どもがいるんです!女性は飢えた男どもの前でみだりに肌を露出したらダメです!」
「ふむ。おぬしの言うことも一理あるのじゃ。おい、第六天魔王、おぬしの神力を使ってほしいのじゃ。どうやら、この小娘、自分の男に他の女の裸を見せつけられるのは嫌みたいなのじゃ」
そういことじゃないわよっ!と言う吉祥のツッコミを無視して、天照は信長のほうを振り向く。信長は、はいはいと応え、一言を口から発する。
【望む】
その瞬間、天照は地は白色でさらに金銀色の刺繍で模様を施された御小直衣をその身に帯びることになる。
「ふむ。本当に第六天魔王の【理】は便利なのじゃ。わらわも同じような事ができるようになりたいのじゃ。しかし、この服装は好かんのじゃ。肌の露出が限りなく減るのじゃ」
「まあ、素っ裸よりはマシなんじゃないですか?季節はまだ夏へと移り変わろうとしているところですしね?風邪を引いたら大変ですよ?」
「あほか。なんで【太陽】を司る大神が素っ裸程度で風邪など引かねばならんのじゃ。大体、おぬし、わらわに抱きしめられたら燃えちゃううう!って、先ほど言っていたではないのかじゃ?」
2柱の会話を聞いている吉祥は、やっぱり天照さまは裸属なのかしら?だって、天照さまが天岩戸にお隠れになった時は、天鈿女が裸踊りをしているのを羨ましそうに岩の影から見ていたと言われているし。
はっ!そう言えば【理の歴史書】だっけ?これに記載されていた内容によれば、裸属が裸属を呼んで、さらに裸属に変わっていく祭りがあるって読んだことがあるわ!うーん、謎だわ。このひのもとの国の裸属文化は。今度、じっくり調べてみようかしら?と想う吉祥である。
「おい、思兼の小娘よ。何をぶつくさ言っているのじゃ。ついに脳みそを思兼に神蝕されたのかえ?」
「そんなの見たら一発でわかるでしょ?天照くん。吉祥くんの頭部に神蝕の証がはっきりと見えます。彼女は手遅れなんですよ」
「うっさいわね!仕方ないじゃない!思兼は【知識】を司る大神なんだから!頭部を神蝕されて当然でしょ!」
「ふむっ。ボケてみたら正論で返されたのじゃ。この天照、精進がまだまだ足りないのじゃ」
そう言いながらケラケラと笑う天照である。なんでそんなに上機嫌なのかしら?何か僕、おかしなこと言った?と想う吉祥である。
「おい、小娘。なかなかに面白い、いぬっころを飼っているようなのじゃ。わらわに闘いを挑む大神など、そういないのじゃ」
「この口の利き方のなってない少年は中々に面白いですよ?天照くん。だって、先生にも闘いを挑んできましたからね?」
「ほっほお。それは興味深い話なのじゃ。で?闘いはどのように展開したのじゃ?」
「先生、左手だけで圧勝してしまいました。まあ、最後は実力の差を見せつけるために【理】を言っちゃいましたけど」
「あーははっ!それはけっさくなのじゃ!おぬし、相変わらず、底意地が悪いのじゃ。おぬし、あの世に存在する幾多の世界のそのひとつを統べる魔王なのじゃぞ?お主に匹敵するものなど、現世においては、わらわか、月読、素戔嗚の3柱くらいなのじゃ。それなのに、いぬっころ相手にやりすぎなのじゃ!」
天照は、信長の話が笑いの壺に入ったのか、ゲラゲラと大声で笑う。だが吉祥にはそれが面白くない。ぷうううと頬を膨らませて、2柱を睨みつけるのである。
「でも、闘ってみてわかりましたよ?この少年はまだまだこれから、どんどん強くなっていくのであろうと言うことは。彼は強くなろうと望んでいます。それも現世において、誰よりもです。彼も少年とはいえ、男なのです。あまり、笑ってやっては失礼と言うものですよ?」