ー神有の章 8- 天照(あまてらす)
光り輝く神気の塊が吉祥に対して説教を始めるのである。
「大体、なんで思兼ともあろうものが、そんな小娘と合一を果たしておるのじゃ。おぬしの【理】に見合った人間ならば、他にも適任者は居たはずなのじゃ」
「う、うるさいわね。僕だって、こんなすけべ爺となんか合一を果たしたくなかったわよ!でも、このすけべ爺は、お父さんに捕まえられて困っていたところを、ついなんとなく助けちゃったら、なついてきちゃったんだもん!」
吉祥の言いに、想わず光り輝く神気の塊が、はあああと深いため息をつく。
「まったく、大昔から若い女子の尻ばかり追いかけていると想っていたら、ついには尻の蒙古斑が取れてないような生娘と合一を果たすとは。まったく、イニシエの大神として、恥を知らぬのかじゃ」
「えっ!吉祥。俺のために大切に初めてを残してくれていたのか?いやあ、俺、感動だぜ!やっぱり結婚するなら相手は初めてじゃないと燃えないもん、ぐがああああ!」
万福丸はそこまで言うと、吉祥により具現化された分厚い書物の角であごさきをぶん殴られることになる。
「なんじゃ。思兼。想い人、いや、想い神がいる女子と合一を果たしたのかえ?まったく、寝取り寝取られはイニシエの大神と言えども【禁忌】とあれほど口を酸っぱくして忠告しておいたというのにじゃ。これは【対話】のまえに【裁判】を行わなければならなくなったのじゃ」
「はははっ。天照くん、そんな心配しなくても大丈夫ですよ。万福丸くんは一途ですし、って、犬神くんと合一を果たしたそこの少年のことです。その少年と吉祥くん、ああ、思兼くんと合一を果たしたお嬢さんです。その2人は相思相愛みたいなので、思兼くんでは寝取りは成功しませんよ?」
誰と誰が相思相愛だっ!と吉祥は想わず、信長にツッコミを入れる。だが、信長は気にした体もなく
「さて、天照くんも暇ですねえ?先生たちの【対話】の【見届け神】を買ってでるんですから?アレのほうは良いんですか?」
天照と呼ばれた光り輝く神気の塊が、ふんっと鼻をならす。まあ、鼻があるのかどうかわからないが。
「相変わらず減らず口を叩く奴なのじゃ。第六天魔王信長め。そんなことだから、お前は奥方どもから非難轟々の嵐を受けるのじゃ」
「あっれえええ?先生、女房連中には努めて公平に相手をしているつもりなんですが?身体能力の向上を使えば、一晩で5人同時に相手が出来ますよ?」
「そんな情報いらぬのじゃ。それよりもそんな人間の女子など捨てて、わらわのモノになるのがいいのじゃ!」
天照の言いに信長は、ふうううと深いため息をつき
「いや、だって、あなたとイチャイチャしようものなら、先生のいちもつが焼かれかねませんよ?あなた、【太陽】を司る大神ですよ?熱いんですよ?その腕に抱かれただけで先生、死んじゃいますよ?」
信長の抗議を受けて、天照はケタケタと可笑しそうに笑う。
「何を言っているのじゃ。わらわの神力すら通してしまうその身で、わらわの両腕に包まれた程度でどうにかなるおぬしではないのじゃ。わらわが抱ける男は世界中を探しても、おぬしとあいつだけくらいなのじゃ」
「なら、そっちの方に行ってくださいよ。まったく、炎迦具土くんが、天照殿にまた振られたでおじゃるって、泣きついてくるんですからね?まったく、なだめるこっちの身にもなってくださいよ?」
「あやつは神界に居た頃にはイケ面で程よい筋肉をつけていたものじゃ。だが、何を間違って、あんな男と合一を果たしたのじゃ?まさか、第六天魔王、おぬしの策略じゃあるまいのう?」
天照はじと目で信長を睨む。まあ、光り輝く神気の塊のため、どこに眼がついているのかはわからないが。
「さあ?どうでしょう。大体、先生がどうこうしようにも、イニシエの大神は【理】のより近き人間と合一を果たすのです。彼は人間の時には、その身を焼きこがさんとする炎のような意思を持っていましたし。それが原因なんじゃないでしょうかね?」
「そうなのかじゃ。それは要らぬ詮索をしてすまぬじゃ。ああ、しょうがないのじゃ。もう一度、草薙剣で叩き切れば、その身からイケメンの大神を産み出すかも知れぬのじゃ。今度、試してみるのも一興かも知れぬのじゃ」
「その前に、草薙剣のオリジナルを回収しないといけないと想うのですが?もしかして、もう、回収は終わっていたりします?」
井戸端会議を続ける信長と天照と呼ばれた光り輝く神気の塊にすっかり置いてけぼりを喰らっている吉祥と万福丸である。
「なあ?俺たちって、この場に居ないとダメなのかな?なんか、世間話を始めてんだけど?」
万福丸は天照の神気に当てられて、未だに地面に這いつくばっている。
「うーーーん?でも、これはこれで興味深い話をしているのよね。もしかしたら、とびきりのネタをポロリと言ってくれるかも知れないわよ?」
吉祥はこの井戸端会議を割りと真剣に聞き入っているようだった。それなら、万福丸には言い返す言葉もない。自分にはよくわからない話だが、吉祥が有益だと言うのならば、それに従うまでだと想うのである。
「さて、世間話もこれまでじゃ。うっかり要らぬ情報を思兼に与えかねないのじゃ。まあ、どちらにしろ、あやつが持つ【理の歴史書】には、あとで書き綴られることになるのじゃがな?」
「えっ?この分厚い書物の名前って【理の歴史書】って名前なの?そんなの初めて知ったわよ!」
吉祥の言いに、天照は、はあああああああ?と疑問の声をあげる。
「おぬし、そんなことも知らなかったのかじゃ。まったく、思兼は自分の仕事をする気があるのか?じゃ。あいつは自分と合一を果たしたモノにそんなことすら言ってないのかじゃ」
天照の声から、本気であきれ返っている様子が覗え知れる吉祥である。
「えっ?どういうこと?思兼は僕に本当のことを言ってないって、あなた、いえ、天照さまは言いたいの?」
吉祥は疑問を声に乗せて、天照に問いかける。
「思兼が何故、それをおぬしに伝えていないかは、わらわにはわからないのじゃ。だが、奴は【知識】を司る大神なのじゃ。もしかしたらじゃが、思兼は、お主に自ら【知ってほしい】と想っているかもなのじゃ」
「えっ?それってどういう意味なの?思兼は何故、僕に【知ってほしい】と想っているの?」
「それこそ、おぬしの領分であり、【理】なのじゃ。わらわに聞かれても応えようがないのじゃ。おぬしが知りたいと想っているモノは、おぬし自身の神力で解決するしかないのじゃ」