ー改変の章14- 信仰
「ふうむ。なるほど、これが神気を神力に変えると言うことですか。先生、やっとですが何かを掴みかけてきていますね。さすが天才です」
信長は神気を神力に変換し、具幻化した大福をもぐもぐと食べる。
「うーん。味までは上手く再現できませんねえ?何か、もそもそとした甘みが抜けた何かですよ、これじゃあ」
「何でこいつは欲望に忠実なこととなれば、実行可能になるのでもうす?」
「うーーーむ。わからないのである。腹が減ったからと言うので、とりあえず、自分で何か食べる物を具現化してみろと言っては見たものの、まさか、これほどあっさりやり遂げるとは想わなかったのである」
信長が大福をもぐもぐと食べている姿を見て、筋肉だるまと岩の像が首をひねるのである。
「さて、大福を食べていたら飲み物が欲しくなりましたね。そおおおれえええ!」
信長の掛け声と共にポンッ!と言う音がする。それと同時に信長の左手には湯飲みとその中身としてお茶が具幻化されることとなる。
「あああ、ダメですねえ。これも緑色の何か不思議な液体ですねえ。うーーーん。味を上手く具現化するにはどうしたら良いんでしょうか?波旬くん」
「それは貴様の神気からの神力への変換がまだまだ上手く行っていない証拠なのである。どれ、我が手本を見せてやるのである」
波旬はそう言うなり、またしてもポンッ!と言う音がして、地面に湯飲みが現れる。そして、そこからはホカホカと湯気がちょうどよく立っていた。
信長は、自分で具現化した湯飲みを脇に置き、波旬が具幻化したものを手に取り、中身をずずいと飲む。すると、自分で具現化したものとの違いをはっきりと認識することができるのだ。
「おおお。さすがは波旬くんです。いやあ、味と良い、湯の熱さ加減と良い、先生好みですよ」
「まあ、何はともあれ神気を神力に変換する方法は会得できたでもうす。闘いに使えるレベルかどうかは置いておいてでもうす」
「うーーーむ。1人で砂漠のど真ん中に放り投げられても飢え死にしないだけマシになったというだけである。生存能力が上がったと言えば上がったのであるが。うーーーん?」
「まあ、よく言うじゃないですか。終わり良ければ全て良し。さあ、そろそろ現世に帰りましょうか。天手力男神くんはどうするんですか?一緒に来ます?」
「まあ、待つのである。先に【分御霊】を解除するのである」
波旬がそう言うなり、信長そっくりの岩の像はサラサラサラと上の部分から砂と化していく。それと同時に信長は自分の中に何かが入り込んでくる感触を覚えるのである。
「うわっ、うわっ、うわあああ!はあはあはあ。あああ、気持ち悪いと言うか、気色の悪い感じですね。もう少し、気持ちいい!みたいな戻り方はできないのですか?」
(わがままを言うのではないのである。【分御霊】は魂の一部を他に移す御業なのである。本来の第六天魔王としての魂は貴様との合一の果てに混ざり合ったが、それとは別に我の力の一部を他に乗り移させることができるのである)
「ふーーーん。結構、便利な御業もあったものですねえ?あれ?ってことは、先生は分御霊を行えば、自分の分身を作り出せると言うことですか?」
(それほど便利なものではないのである。所詮、一部なのである。その証拠が貴様なのである。元は同一の魂でありながら、貴様は我とは似ても似つかぬモノなのである)
「なるほど、なるほど。見た目、大悪人の魂の一部を切り取ったからと言って、それがそのまま同じ大悪人になるわけじゃないってことですね?なんだ、全然、使えないじゃないですか」
信長の言いように、ぐっ!と唸る波旬である。
「おうおうおう。【分御霊】の話を波旬とでもしているのでもうすか?同じことを現世の神社仏閣でやっているでもうすよな?」
「ああ、分霊のことですか?もしかして」
「ああ、それよ、それでもうす。アレは元々は大神がの自分の力を現世に広めようとする試みだったのでもうすよ」
試み?と信長は疑問に想う。
「大神はそもそもの神力とは別に、ニンゲンの信仰によっても神力を得ることもできるのでもうす。それで信仰を集めて、イニシエの大神と匹敵しようする古来の大神もいたのでもうす」
「うん?そのイニシエの大神と古来の大神って、何か特別な違いがあるのですか?」
「まあ、大神と言う点では特別な違いがあると言うわけではないのでもうす。ただ、古来の大神はいや、この言い方は混乱を招くでもうす。イニシエの大神は西方の大神なのでもうす。そして、古来の神は東方の大神なのでもうす」
「西の大神と東の大神ですか。うーん、よくわかりません!」
「まあ、それもそうだろうでもうす。現世に生きるニンゲンから見れば、このひのもとの国の神々は西方、東方、それだけでなく遠く海を渡ってやってきた神も、すべてが混ざり合っているのでもうす。だから、今更、明確に区分けするわけにも行かないのが現状なのでもうす」
「要するに天手力男神くんでも何がなんやらよくわからない状況になっているわけですね?はっきりと言えば」
「そうなのでもうす。でも、無理にニンゲンの言葉で言い合わせれば、古来の大神の多くは【土着神】と言うのがふさわしいのかも知れないでもうす。あれらはニンゲンの信仰によって生み出された大神なのでもうす」
「人間が産み出した大神ですか。えっ?おかしくありませんか?人間がどうやって大神を産み出すんです?神はそもそもが、神が産み出すものじゃないのですか?それこそ、伊弉冉くんのように」
(貴様たちニンゲンはニンゲンを大神にするではないか。そのことすら忘れてしまったのであるか?)
人間が人間を大神にする?はて?って、そう言えば、そんなの普通にあることですよ!と信長が想う。
「死後、祟りを為したりする人間は多々、歴史上にいました。ですが、そういうひとたちは、のちに神として奉られています。そうです。災い転じて福と為すの如く、ありがたいご利益を持った神さまとして奉ることが確かにありますよ」
「まあ、それとは少し違うのでもうすが、【土着神】の1柱で稲荷がいるのでもうす。あいつは元々は狐を使者としてしていた大神でもうす。だが、もっともっと神力を欲しいと願い、ひのもとの国にたくさんの自分の分御霊をばらまいたのでもうす」
「ひのもとの国の各地の神社でお稲荷さんは良く見ますね?で、その大神は、ついに世界全てを手にいれるほどの神力をその身に宿したのですか?」
「逆でもうすよ。その分御霊を行いすぎたせいで、大神としての意識が薄らいでしまったのでもうす。それ故、今では【理】を保つのが精々と言ったことになってしまったのでもうす」
「なんだか、悲惨な話ですねえ。力を求めるあまりに自滅してしまったわけですか。本当、分御霊って使えないですね!」
(う、うるさいのである!現世を少しのぞき見したい時には重宝するのである!自分の魂の一部ゆえ、そのモノが見るものは我にも見えるのである!)
「ははあ。なるほど。それで、現世に視察として出したはずの波旬くんの魂の一部は、任務をほったらかして、何をどう間違えたか知りませんが、人間である先生となったわけですね?本当に使えないですねえええ?」
(……)