ー神有の章105- 壇ノ浦到着
今日は神帝暦5年9月11日。八岐大蛇復活とそして打倒の決行日の4日前と迫っていたのであった。戦力の要である邇邇芸は未だ天之尾羽張神の神力を自由自在に操るというところまで達していなかったが、皆の移動時間も考えれば、博多の地の先、壇ノ浦の浜辺に出立せざる得なかったのである。
「す、すまないのでゴザル。あともう少しで何かを掴めそうな気がしているのでゴザル。こう、なんというか、おしとやかなおっぱいを扱う術を身につけかけているのでゴザル」
「おい、吉祥。いい加減、邇邇芸さまを1発と言わず、2,3発ぶん殴って、番所につきだしたほうが世の中が平和になるような気がしないか?」
「いいえ?万福丸。あと三日ほど猶予は残されているわ?番所につきだすのはその後でも遅くはないわよ?」
「おしとやかなおっぱいって、もしかして、あたしのことを言っているのかなー?なんだか、女性の尊厳を踏みにじられている気がするよー!」
小子が、ぷんすこと頬を膨らませて文句を言うのである。
「仕方ないのじゃ。男という生き物は、どうしても胸の大きな女性をガン見してしまうものじゃ。ああ、肩がこるのじゃ。誰か、わらわの肩を揉んでほしいところなのじゃ」
「で、では、ぼくちんが天照さまの肩をもみしだいてみせるのでしゅ!手が滑って、そのスイカのようなおっぱいをもみしだいても許してほしいのでしゅ!」
「宗麟さま?ちょっと、話があるゆえに、そこの道端にきてくれない鳴りか?天照さま。我輩が宗麟さまを叱っておくゆえに、怒りを収めてほしいの鳴り」
「うむ。道雪よ、任せたのじゃ。まったく、わらわの胸をもみしだいていいのは、わらわが認めた男だけなのじゃ。何を血迷って、わらわに喧嘩を売っているのじゃ?」
天照が少し厳しめの視線で宗麟を睨みつけるのである。その宗麟は道雪に襟首を掴まれて、ずるずると道端に連れていかれ、神鳴りを頭から落とされるのであった。
「道雪ちゃんは相変わらず、宗麟ちゃんに厳しいクマーね。うちの鍋ちゃんも俺様に対して口うるさいクマーけど、実力行使とまではいかないクマー」
「まあ、それは隆信ちゃんは説教をすれば、ちゃんと言うことを聞くからで候。宗麟ちゃんのアレはもう心の病気と言っても過言じゃないので候。そうなれば、神鳴りを落とす以外、アレを治す方法はないので候」
鍋島直茂がそう言うが、まったく治っていない気がするのだクマーと想う龍造寺隆信であったが、まあ、うちのことではないので放っておくことにするのであった。
そんなこんななことがありながらも、天照ご一行は1日ほどを費やして、博多の地のさらに先の壇ノ浦の浜辺へと到着する。
「さて。やっと、ここまできたわけだけど、今日は9月12日だよな。今までの話なら、道雪さんを舟に乗せて、沖合まできたら、道雪さんを壇ノ浦に沈めるんだったっけ?」
「違うわよ。万福丸。鍋島さんの具現化した直剣を壇ノ浦に沈めるのよ。そうすることによって、隆信さんと鍋島さんの神力を使って、直接、壇ノ浦の海底に道雪さんの神鳴りを通すってわけ。今まで、何を聞いてきたのかしら?」
「あれえええ?そうだったっけ?でも、宗麟さんは、口うるさいのがいなくなるでしゅ。これからは、大手を振って、人妻に手を出せるでしゅ!って吹聴していたぜ?」
「ちょっと、宗麟さま?万福丸殿が聞き捨てならないことを言っている鳴りよ?もしかして、宗麟さまは我輩を亡き者にしようと企んでいた鳴りか?」
「ち、違うでしゅ!ぼくちんがそんなことを言うわけがないのでしゅ!これは、万福丸殿の謀なのでしゅ!ぼくちんが大切な道雪を亡き者にしたいなんて、これっぽちも考えたことなんてないでしゅよ!」
「と、宗麟さまが言っている鳴りけど、万福丸殿が嘘をついている鳴りか?」
立花道雪がジロリと万福丸の顔を睨みつけるのである。そこに割ってはいるように吉祥が発言する。
「道雪さん?万福丸がそんな策略めいたことを考えれるような人物に視えるのかしら?」
吉祥の身から神気が立ち昇り、道雪は想わず、身震いしてしまうのである。
「うっ!すまない鳴り!我輩としたところが、純真無垢な万福丸殿を疑ってしまった鳴り!吉祥殿、すまない鳴り!どうか、怒りの矛を収めてほしい鳴り!」
「あら?僕は別に怒ってないわよ?ただ、万福丸にいらぬ嫌疑をかけられたのにイラッとしただけよ?」
それを怒っていると言うのではない鳴りか?とツッコミを入れそうになる道雪であったが、いらないことを言えば、吉祥殿がさらに怒るのは明白のため、口を慎むのである。
「さ、さて。宗麟さまに嘘をついたことに対する【罰】を与えてくる鳴り。万福丸殿、疑ってすまない鳴りね?宗麟さま。ちょっと、そこの浜辺茶屋の裏にくる鳴りよ?」
またしても宗麟は道雪に襟首を掴まれて、ずるずると引っ張られていくのである。
「おお、おお。大空から神鳴りが2、3筋、堕ちてくるなあ。まあ、そんなことはいいか。ありがとな、吉祥。俺のために怒ってくれてよ?」
「だから、僕は別に怒ってなんかないわよ?ちょっと、イラッとしただけよ?だから、万福丸が僕に感謝することなんて、何もないわよ?」
「ふーーーん。そっか。でも、ありがとうな?吉祥」
万福丸はにひひと笑顔をつくり、吉祥の頭を右手でぽんぽんと優しく叩くのである。
「暑いよーーー。暑いよーーー!もう、9月も半ばって言うのに、あそこのバカップルのところだけ、猛烈に暑いよーーー!」
「小子よ。致し方ないのじゃ。あやつらがわらわと出会ったあとに、何があったかは知らぬのじゃが、九州にあの2人が飛ばされたあと、大層、仲が深まっているようなのじゃ。何か、2人の仲が深まる決定的なことがあったのじゃろうて」
「小子殿、天照殿。それなら、島津家の内城で、ぷっくーが赤黒い繭に包まれた事件が原因でごわすな」
そう2人に応えるのは島津義弘であった。彼はあの万福丸が謎の何かに変わった事件に巻き込まれたひとりである。
「2人はあの事件のあと、【二重約束】をし、さらには【ゆびきりげんまん】までしたのでごわす。まったく、若いというのは恐れ知らずなのでごわすよ」
「ほう。それは面白いことを聞いたのじゃ。【二重約束】だけではなく、【ゆびきりげんまん】までしおったのかじゃ。それで合点がいったのじゃ。こう、2人から漂う匂いというか、【魂の色】が似通っている感じがするのは、そういうことがあったからなのじゃな?」