ー神有の章104- 茶の湯
とりあえず、期日も差し迫っているということもあり、邇邇芸が小子の具現化した尾羽の直剣と三日間ほど徹底的に寝食を共にすることになる。
「おお。そなたは可愛いでゴザルな。その控えめな胸がまた最高なのでゴザル。ちゅっちゅっでゴザル」
「おい。邇邇芸さまが尾羽の直剣をいじいじといじくりながら、さらに唇でついばんでいるんだクマー。期日まで1週間を切って、プレッシャーで頭がおかしくなったのか?クマー」
「隆信ちゃん。宗麟ちゃんに聞いた話、あれは訓練の一環だそうで候。あれで尾羽の直剣との繋がりを強めようという算段らしいで候」
「鍋ちゃん。そうなのかクマー。でも、食事中にあんな気色の悪いことをされては、こちらは食欲が失せるのだクマー。俺様の眼に視えないところでやってほしいのだクマー」
「そういうわけにもいかないみたいで候。熱々のカップルなところを皆に見せつけると、より、尾羽の直剣との繋がりが増すらしいのだ候。視ていて気色悪いが、ここはこちらも我慢するしかないので候」
皆が昼飯を味わいながらの一幕である。一方、採石場の訓練も一旦中止となり、手持ちぶたさとなった小子と吉祥はといえば
「まったく。暇だからと茶の湯を少し教えてほしいと聞いたから、指導していますけど、小子さんはなぜ、そこまで自由に振る舞ってのかしら?」
「えーーー?横にごろんと寝転がって、点ててもらったお茶をズズズ!って音を立てながら飲むモノだって、信長さまに教えてもらっただけだよー?なんでも、利休っていう、京の都では茶の湯の教祖とまで言われているひとの教えみたいだよー?」
茶の湯の指導のために誾千代が2人のために駆り出されているわけだが、小子は小子で京の都で流行りの飲みかたを披露しているのであった。
「なるほど。千利休さまの教えなのね。それなら致し方ないわ。小子さん?私にも利休さまの茶の湯をわかる範囲で教えてほしいのですわ?」
「うん、わかったよー!んっとねー。本当は素っ裸で横にごろんと寝転がるのが1番みたいなんだけどー?」
「ふむふむ。服を脱ぐのが良いのね?って、ちょっと待ってくださいな?茶の湯と裸属の繋がりがわからないのよ?」
誾千代はこいつ何言ってんだという顔つきで小子を視る。だが、小子は気にした風もなく解説を続ける。
「んっとねー?茶の湯っていうのは、ええっとなんだったかな?ニンゲンが身分の壁を越えて、平等に茶を楽しむことこそが極意でっせ?だったかなー?それで、それを突き詰めれば、心にある壁を取っ払うのが肝心だってことー。だから、まずはその心の壁を取っ払うために、邪魔な着物を脱いでしまうのが一番なのでっせ?だったかなー?」
「なるほど。一理ありますわね?確かに茶の湯の極意は自由の精神ですわ。ナニモノにも捕らわれず、茶を純粋に楽しむのが良いと言われてますわ。さすが利休さま。私はまだまだ、茶の湯に疎いことを知らされましたわ?」
誾千代さんが、うんうんと何かを納得したかのように首を縦に振るのである。ここまで、押し黙っていた吉祥であったが、ツッコミを入れる機を逃したためにどうしたものデスワ?と悩むことになる。
「とういわけでー。誾千代さんは、お堅いから、茶の湯もお堅いものになっちゃうんだよー。とりあえず、着物を脱いでみたら良いと想うよー?」
「ううん。悩ましいわね。いくら、あなたたちと側付きの女中たちしか居ないのですが、それでも、みだりに肌をあらわにするのは、気が引けてしまうわ」
「そこが誾千代さんのダメなところだよー。仕方ないなー?じゃあ、あたしと吉祥ちゃんが先に脱ぐから、誾千代さんも脱いでねー?それなら、恥ずかしくないでしょー?」
「ちょっ、ちょっと!?小子ちゃん、いったい、なんで僕を巻き込んでいるのデスワ!?」
いきなり巻き込まれた吉祥がすっとんきょうな声をあげながら、小子に抗議をするのである。
「なんとなくノリで言ってみたんだよー?だから、吉祥ちゃんもノリで脱いでよー?」
ノリで着物を脱ぐってどういうことデスワ?と想う吉祥である。吉祥が逡巡していると、小子がはあ、やれやれとため息をつき
「しょうがないなー?じゃあ、あたしから脱ぐねー?えーーーい!」
との掛け声と共に小子が着物の上をはだけだす。
「さ、さすが都会育ちですわね。私も茶の湯を究めるためにも、一肌脱ぐわ!」
小子につられて、誾千代まで脱ぎだす始末である。3人中2人まで着物の上をはだけはじめたので、吉祥には逃げ道が残されていなかった。
「わ、わかったのデスワ!でも、脱ぐと言っても、上をはだけるだけデスワ!」
「さっすが、吉祥ちゃんー。でも、どうせなら、すっぽんぽんになれば良いのにー?」
「嫁入り前にそんなはしたないことなんて出来ないのデスワ!」
吉祥が顔を紅く染めながら、小子に抗議するのである。吉祥は着物の帯をほどき、胸元を申し訳ない程度に開き、そこで手を止める。それにうん?どしたのかなー?と小子は想い
「あれー?吉祥ちゃん、どうしたのー?なんで、上を全部はだけてしまわないのー?」
「い、いや。ちょっと、気になることがあって、手を止めてしまったのデスワ?申し訳ないけど、僕はこれで許してほしいのデスワ?」
「えええ?ここまで来ておいて、胸元をはだけるだけで済ませるなんてどういうことー?あたしなんて、すでにすっぽんぽんなんだよー!」
なんでそんなに簡単に小子がすっぽんぽんになれることのほうが不思議でたまらない吉祥である。
「小子さん?吉祥さんには脱ぎたくても脱げない事情があるのよ?」
「えっ!?それって、どういうことー?吉祥ちゃん、旅の間に背中に大きな傷ができちゃったとか、そんなことがあって、見せるのが恥ずかしいってことー?」
「い、いえ。吉祥さんには素敵な旦那さまがいらっしゃるので、ちょっと、それが原因でですね?」
誾千代が吉祥について、察することがあり、それで吉祥を擁護するのである。
「うーーーん?どういうことー?誾千代さんの言っていることがさっぱりわからないよー?」
小子がすっぽんぽんの姿でおしとやかな胸の前で腕を組み、首をかしげるのである。
「ま、まあ。簡単に説明すると、多分ですが、吉祥さんは旦那さまに肌を強く吸われてしまい、そこが紅く腫れてしまっていると想うのよ?だから、やはり、それを視られるのは恥ずかしいものなのよ?」
「ああー!なるほどー!吉祥ちゃんは、万福丸ちゃんといちゃいちゃした時に、背中辺りに想いっきりキスマークをつけられたってことだねーーー!良いなあ、あたしも、素敵な男性にそんなこと、されてみたいよー?」
「そんな大声出さないでほしいのデスワ!ううう。万福丸が昨夜、強めに肩の後ろあたりを吸っていたのデスワ。だから、もしかしたら、くっきりとキスマークがついているかもなのデスワ。いくら、僕と小子ちゃんとの間柄といえども、視られるのは恥ずかしいのデスワ」




