ー改変の章12- 【否定】
「だから違うと何度、言わせるでもうす!ばばばばばああああと神気を膨らませて、どどどどどおおおおんと神力に変えるでもうす!」
「そんなこと言われても意味がわかりませんよ!なんですか、この使えない筋肉だるまは!だれか指導者を変えてください!」
天手力男神による熱烈指導で信長の神気と神力の使い方を身につける特訓が始まったのである。だが、信長は全くもって、進歩する様子が見られない。
「腰をこうでもうす!そして、腕をこう構えるでもうす!そして、一気に神気を膨らませるのでもうす!」
「ええと、腰をこうして、腕をこう構えてと、ふぬぬぬぬぬ!」
だが、いくら信長が声を荒げ唸ろうが、一向に神気を膨らませることができない。困り果てた天手力男神は
「なんで、波旬の力を供給されて、身体能力を上げることは簡単にできるのに、神気を発することができないのでもうすか?我輩、そっちのほうが不思議でたまらないのでもうすよ?」
「我も不思議なのである。天手力男神の全神力をその身で受けきったくせに、何故、神気をかけらも発することができないのかがわからないのである」
天手力男神が信長そっくりの岩の像と話し合っている。なにやら珍妙な光景ですね、と想いながら信長は、はあはあと息を荒げるのである。
「さきほども言いましたけど、先生は天手力男神くんの神力を受けきったわけではありませんよ?身体を通して、地面に逃がしただけです」
信長の言いに、筋肉だるまと岩の像が、はあああああああ?と疑いの声をあげるのである。
「おい、貴様。今、なんと言ったのである!天手力男神の全神力を受けきったのではなく、地面に逃がしたのであるか?」
「はい。その通りです。だから、先生は波旬くんの力を耐久力を上げるためだけに使ったのです。ええと、わかりやすく言うとですね。大雨で川が氾濫しそうになるじゃないですか?だから、川の水位を下げるために、川幅を広げたと言えば良いんでしょうか?」
「おいおいおい。こいつ、言っていることのとんでもなさをまるで理解していないのでもうす!神力が身体の中を駆け巡ったと言うのに、なんで、こいつは消滅してないのでもうす?もしかして、こいつ、神力が通じない体質いや神質なのでもうすか?」
「いや。そんな神質であれば、そもそもとして我と合一を果たせないのである。いや、しかしそれならば余計に他神の神力に身体を神蝕されながら、存在が無に帰さないという証明ができなくなってしまうのである」
「あのお。何かすっごく驚いているみたいなんですが、自分以外の他の大神の力を自分の中に通すと言うのは、それほどやばいことなのですか?」
信長はよくわからないぞ?と言う顔付きで、筋肉だるまと岩の像に問いかける。
「ふむ。そもそも大神同士の闘いについて説明しなければならないのである。天手力男神が貴様との闘いで言っていたが、大神同士の闘いは互いの存在を賭けての闘いなのである」
「存在を賭ける?うーん、やっぱり、波旬くんの説明はわかりませんねえ?」
「まあ、続きを聞くのである。大神には【理】を持っていることを貴様も薄々、気付いているはずである」
「ええと、先生の認識としては大神たちは守るべき自分の法則を持っていると言った感じですが、合っています?」
「ガハハッ!守るべき法則とは少し違うのでもうす。大神の存在するためのまさに【理】なのでもうす。ニンゲンの言葉で言うなら【存在意味】と言ったほうがまだしっくりくると想うのでもうす」
なーんか哲学的表現ですねえと想う信長である。
「で?その【理】を消すことが、大神同士の闘いなのですか?」
「ふむ。少し違うのである。消すのではないのである。【否定】なのである。相対する大神の【理】を【否定】することが大神同士の闘いなのである」
「だから相手の【理】に対して、神気を膨らませて神力に変換し【否定】を叩きこむのでもうす。我輩の場合、神力を【はっけい】で叩きこんでいるのでもうす」
「うーーーん、いまいち理解ができないんですが?もっとわかりやすい説明をお願いしますよ、本当に」
信長の注文にどう応えたものかと波旬は逡巡する。そして、信長の両手に水の入った湯飲みと、墨汁が入った湯飲みを具現化する。
「うおっと!いきなり、先生の手に湯飲みが持たされていますよ!ちょっと、驚いたじゃないですか!何かやるなら、やると前もって説明をお願いします!」
「いちいちうるさい奴なのである。貴様がわかりやすく説明しろと言ったから用意したのである。その水の中に墨汁を流し込んでみると良いのである」
信長は、はいはいと言いながら、水の入った湯飲みの中に墨汁を流し込む。
「はいはい。やりましたよ。水が見事に真っ黒です。これが何か?」
「まさに水が黒く染まることが【理】の【否定】なのである。水は無色と言う【理】を持っている。それを墨汁が【否定】したのである」
波旬の説明に、信長は思わず、おおお!と感嘆の声をあげるのである。
「やりますねえ。波旬くん。これはすっごくわかりやすい説明ですよ!いやあ、波旬くんはやれば出来る子なんですね。先生、安心しましたよ」
信長の言いに波旬を模した像の一部がビキッ!と割れる。
「こ、これでわかったはずなのである。貴様がやったことの重大さを」
波旬は怒りと声を抑えて、そう信長に告げる。
「貴様は天手力男神の神力を身体に通しているのである。それも全神力をだ。普通なら貴様は【否定】で染まっていたはずなのである。だが、お前はそうならなかったのである!」
「そんなこと言われましてもねえ?できちゃったんだから仕方ないじゃないですか。意外とアレかもですよ?先生、相撲が大好きですから、天手力男神くんの【はっけい】では染まらないのかもですよ?」
「そうなのか?天手力男神よ」
信長と波旬にそう問われた天手力男神が顔を左右にブンブンと振り
「そんなことが起きないのは同じ大神である波旬なら理解できているはずでもうすよ?【理】が近い大神は居るでもうす。だが、それぞれがちがうものでもうす。それが混じり合えば、もはや別物になるのでもうす」
「うーん?お茶と水は同じ飲み物ですが、本質的に別物と言いたいってことですか?」
「そうでもうす。その通りでもうす。だから、影響を受けないはずがないのでもうす。唯一の例外として【理の外】なら、それも可能なのでもうす」
「おい!天手力男神よ!【理の外】について、しゃべるなと言っているのである!貴様は【禁忌】を犯すつもりなのかである!」
「す、すまないのでもうす。だが、それ以外に我輩の全神力を身体に通しておいて、無事だとの説明がつかないのでもうす」