ー神有の章102- 果てる
今回の邇邇芸を包み込む風の螺旋は今までのように邇邇芸をグルングルンと大空に舞わせるものではなかった。緑の色をした気流が邇邇芸の右手を起点に腕先、肘、二の腕、肩にかけて纏わりつき、さらに胸から全身を優しく包み込むものであった。
邇邇芸はその状態から軽く右足を前に踏み込み、走り出す。すると邇邇芸の身体はゆっくりでありながらも身体の動き自体が羽毛のような軽さでふわりと地面から足が離れていく。
だが、彼の身体に纏わりついた風は暴風には変わらず、邇邇芸の身体の動きを補佐するかのように邇邇芸の身体能力を向上させていく。邇邇芸は地面から50センチメートル浮いた状態で右手に握った尾羽の直剣を上下左右に振る。
邇邇芸が直剣を上から下に振れば、身体に纏わりつく風も上下に流れていき、邇邇芸はくるっと縦に一回転する。そして、直剣を右から左に振れば風も右から左に流れていき、邇邇芸は横に一回転する。
邇邇芸はコツを掴んだと想い、さらに斜めから振り下ろしたり、振り上げたりと、尾羽の直剣を自由自在に扱うのであった。
その邇邇芸がくるりんくるりんと風と共に宙で舞っている姿は、剣舞のように視え、周りで彼の様子を視ていたモノたちは想わず、おおお!と感嘆の声をあげるのであった。
「邇邇芸さまがやっと、尾羽の直剣を使いこなせるようになったみたいだなあ。大空でくるんくるん舞っているけれど、いままでみたいにグルングルンと振り回されている感じではないな?」
「そうね、万福丸。前まではじゃじゃ馬の背中に乗って、振り回されていたけど、今は風と一緒に楽しく舞っているって感じね?はあああ。長かったわね。これでなんとか、八岐大蛇と戦えそうね?」
「ふむ。しかしながら、時間がかかりすぎなのじゃ。残り1週間となって、やっとここまでなのじゃ。風を使い、身体能力向上の御業を越える力を手に入れたようじゃが、果たして、それをどうやって、攻撃に転嫁するかが問題なのじゃ」
天照が大空を自由自在に舞う邇邇芸を視ながら、ふむうと悩み顔になるのであった。万福丸、吉祥、天照が邇邇芸を注視していて、ある女性のことをすっかり忘れていた。
「んっ。んっ。邇邇芸さま、ちょっと強く吸い過ぎだよー。あたし、変な気持ちになっちゃうー。あんっ。だめだって。おへそ辺りはっ」
そう。小子である。邇邇芸が尾羽の直剣から神力を吸い上げると共に、小子の身体には言いようがない、こそばゆい、身体を唇で吸われている感触に襲われていたのだ。
「あっ。小子ちゃんが、顔を蒸気させながら、はあはあって甘い吐息を出しているぞ!?」
「万福丸?そんな解説をしないでほしいわね?小子ちゃん。大丈夫?邇邇芸さまにやらしいことをされているようだったら、警護のモノをいつでも呼ぶからね?」
「んっ。んっ。だ、だめー。これ以上は、だめーーー」
小子がその身をもじもじと小刻みに震わせながら、へなへなと両ひざを地面につき、ぺたんと座りこみ、そこから身体を横に傾けて、ぱたりと倒れてしまうのであった。
それと同時に邇邇芸の身体を包み込んでいた優しき風もふわっと消えていき、大空に舞っていた邇邇芸が頭から地面に叩きつけられる。
「ぐわあああでゴザル!せっかく、うまく風に乗れていたというのに、突然、風がやんでしまったのゴザル!顔が痛いのでゴザルううう!」
「だ、大丈夫でしゅか?ぼくちんが邇邇芸さまの顔がブサイクになるように治癒するのでしゅ!」
「顔を変形させるような治癒行為って、はたして、治癒行為に入るのかなあ?」
「宗麟さんの嫉妬が入っているんじゃないかしら?多分、鼻を捻じ曲げると想うわよ?邇邇芸さまは顔色は悪いけど、ぎりぎり2枚目に入る顔だから、宗麟さんとしては苦々しい想いなんじゃないかしら?」
「2人とも、失礼でしゅね!?ぼ、ぼくちん、嫉妬なんってしてないでしゅよ!?邇邇芸さまが4枚目くらいになれば、ぼくちんが人妻からモテモテになるなんて想ってないでしゅよ!?」
「おい、宗麟。邇邇芸の顔を歪めるのはやめてやるのじゃ。そもそも、それは邇邇芸の顔ではなく、島津義久の顔なのじゃ」
万福丸、吉祥、天照の3人は宗麟に普通に怪我を治癒するだけにとどめるよう説得し、宗麟は渋々ながら、それに応えるのであった。
「ふう。あやうく2枚目から4枚目に顔を書き換えられるところだったでゴザル。しかし、何故、風がいきなり止んだのでゴザル?」
「それは簡単なのじゃ。おぬしが、経験の浅い小子の身体を弄んでしまったことが原因なのじゃ。それ故に、小子は果ててしまった。それだけじゃ」
「おい。吉祥。聞いたか?邇邇芸さまがテクニシャンだから、小子ちゃんが果てたってよ!」
「万福丸?何をちょっと嬉しそうなやらしそうな顔をしているのかしら?おしおきにタイキックをあなたの尻にぶちかますわよ?」
吉祥の言いに万福丸がひいいい!と悲鳴を上げるが、時すでに遅し。万福丸の尻に吉祥のタイキックがめり込むのであった。
万福丸は、あっふうううん!と変な声を上げ、尻を手で押さえながら跳ねまわることとなる。
一方、果てた小子はうーん、むにゃむにゃえへへと満足気な顔つきで地面に横になったままである。
「ううむ。せっかく、尾羽の直剣の神力を使いこなせたと想ったら、その影響がモロに小子殿に出てしまったということでゴザルか。これは困ったことになったのでゴザル。いったい、どうすれば良いのでゴザルかなあ?」
邇邇芸が右手であごをさすりながら、そう言うのである。
「ふむっ。そこは小子に慣れてもらうことと、邇邇芸自身がテクニックを磨いていくしかないのじゃ。小子は経験が浅い故に、邇邇芸程度の愛撫如きで果ててしまったのじゃ」
「ま、まるで、それがしのいちゃいちゃが下手くそと言われている気がするのでゴザル」
「実際、そうなのじゃ。どうせ、感度の高いところばかりをついばむイメージをしていたのじゃろ?そこは、焦らすかのように、全身をついばみ、小子がなかなかに果てぬようにすればすれば良いだけなのじゃ?」
「そ、そう言われると返す言葉がなくなるのでゴザル。小子殿を感じさせつつ、焦らしつつ、果てぬようにでゴザルか。なかなかに難しいのでゴザル」
「そこは男のテクニック次第というところじゃな。しかし、これでわかったのじゃ。尾羽の直剣を自由自在に操るコツは男女のずっ魂ばっ魂の技量が試されているということじゃ」
「あれ?吉祥。俺、今、男じゃなくて、男女のって聞こえたけど、俺の聞き間違いかな?」
「うーーーん。僕にそれを聞かれても困るのですわ?夜の営みでは女性側からも何かしないといけないって天照さまは言いたいのかしら?」
「そりゃそうじゃ。女が男に任せるままがずっ魂ばっ魂の境地では無いのじゃ。吉祥、もしかして、万福丸にさせるがままにその身を任せているのかじゃ?」