ー神有の章101- 吸う
「うおっ!あっぶねえええ!今のこれ、顔に当たってたら、確実に三日は神体停止してただろおおお!」
万福丸は吉祥がぶん投げた石をすんでのところで回避することに成功する。
「万福丸!あんた、いらないことを言ったら、もうしないからね!」
吉祥が顔に火がついたかのように真っ赤に染めながら、万福丸を叱りつけるのである。
「はははっ。手でしてもらえるだけマシでゴザル。木花咲耶姫といったら、そんなの恥ずかしいと言って、してくれないのでゴザル。いやあ、万福丸殿はうらやましい限りでゴザル」
邇邇芸がニヤニヤとしながら、そう言うのである。
「手でするってどういうことー?ねえー?」
「うむ。小子よ。旦那が出来た時にでも、その男に教えてもらうがいいのじゃ。実のところ、男は出すモノ出せば満足する獣なのじゃ」
小子には出すモノ出せばって、何を出すのかなー?とわからないといった雰囲気を醸し出す。そして、小子は吉祥のほうに振り向き
「吉祥ちゃんー?出すモノ出すって何を万福丸くんに出させてるのー?血反吐ー?」
「ち、血反吐って。そうじゃないわよ?今度、ふたりっきりの時に説明するから、今はその質問はやめて?」
小子が吉祥ちゃんのけちんぼーと愚痴をこぼすが、吉祥は聞き流すことにする。
「出すモノ出せば満足するとはきつい言い方でゴザルよ?おばば様」
と、邇邇芸がそう言った瞬間、はっとした顔つきになる。
「そ、そうでござる!男は出すことばかりを念頭にしてしまうのでゴザル!出す前に包容力を見せるべきなのでゴザル!」
「ん?邇邇芸さま?頭から地面に叩きつけられすぎて、ついにとち狂ってしまったのでしゅか?ぼくちん、いい医者を知っているでしゅよ?今度、府内館から呼び寄せておくでしゅか?」
「宗麟殿。そうではないのでゴザル。それがし、自分の神力を尾羽の直剣に注ぎ込むことばかりに集中していたのでゴザル。女性に手でしてもらうことばかりではダメなのでゴザル。自分から抱き寄せ、吸いつくことも忘れてはいけないのでゴザル!」
邇邇芸は回答を得たとばかりに意気揚揚と尾羽の直剣の柄を右手で握るのである。
「なあ?吉祥。邇邇芸さまがああなったのは、やっぱり、厳しい訓練を毎日、休みなくやっているせいなのか?」
「万福丸?邇邇芸さまは真面目なのよ。ただ、その真面目さゆえにああなってしまっただけよ?」
「真面目すぎるひとって、心が壊れやすいってよくいうもんねー?そうかー、邇邇芸さまはついに気が狂っちゃったかー」
「うーーーむ。わらわも邇邇芸をからかいすぎたのじゃ。これは少し反省せねばいけないのじゃ」
「ちょっと!?外野の皆さん!?それがしは狂ってはいないでゴザルヨ!?いいから、それがしが今からやることをじっくりと視ていてほしいでゴザルよ!?」
邇邇芸は皆にそう注意したあと、右手に持った尾羽の直剣に心を集中していく。そうでゴザル。それがしの神力を誇示するのではいけないのでゴザル。尾羽の直剣をまるで小子殿の身体と想い、その幼き身体を愛しく想い、吸い尽くすことが肝要でゴザル!
邇邇芸は、その身から神気を発する。だが、それを神力へと変換せず、尾羽の直剣の方から神力を吸い上げるイメージを頭の中に思い描く。
するとどうだろう。尾羽の直剣はほんのりと緑色の光を発し、優しき風が具現化され、螺旋を描きながら、邇邇芸の右手、右腕、肘、肩を包み込んでいく。
「よっし、よーーーし。イメージ通りにことが進んでいるのでござる。さあ、尾羽の直剣よ。それがしはそなたが小子殿の如く想い描き、その身の全てを優しく吸い上げるのでゴザル」
「おい、吉祥。邇邇芸さまが、小子ちゃんの身体をチュッチュッしだすって宣言したぞ!」
「万福丸。これは非常事態ね。警護のモノを連れてこないと!」
「ちょっと、そこの2人!?今、良いところなので邪魔しないでほしいでゴザルヨ!?」
良いところなので邪魔しないでほしいとは、これ如何に?と吉祥は想うのであるが、まあ、イメージだけで済む話なのであろうと想い、通報することはやめにしておく。だが、もし、イメージだけでは済まさず、小子ちゃんの身体をチュッチュッとついばむようであれば、出るとこ出てもらうしかないわねと。
邇邇芸は吉祥からのきつい視線をその身に感じるが、ここで意識をそらせば、自分の右腕全体で螺旋を描く風が暴風と化し、右腕をズタボロにしかけないでゴザルなと想い、吉祥への弁解をやめることにする。
邇邇芸は自分の身から発する神気を尾羽の直剣から流れ込んでくる神力、いや、風の螺旋に絡めていく。すると、尾羽の直剣がブルッと1度、身もだえする。
「ほう。尾羽の直剣が吸われることにより、喜んでいるのでゴザル。さあ、もっと、それがしが吸うのでゴザル。直剣よ。それがしにその身を任せるのでゴザル」
尾羽の直剣は幾たびか小刻みにブルッブルッと震える。その度にゆっくりとであるが、風の螺旋が邇邇芸の身体を神蝕していく。邇邇芸の肩から先、右胸で分岐し、首、左胸、みぞおちへとおそるおそるであるが風の螺旋が神蝕を進めていく。
「良いでゴザルよ?もっと、それがしと交わろうなのでゴザル。さあ、その身の全てを吸い尽くしてみせるのでゴザルヨ?」
邇邇芸はなるべく優しい声色で尾羽の直剣に語り掛ける。邇邇芸が尾羽の直剣から神力を吸い上げ始めてから3分後には、邇邇芸の全身が優しき風の螺旋にすっぽりと包み込まれることとなったのだ。
「おお。今までの暴風とはまるで違うぜ。これはひょっとするとひょっとするのか?」
「ええ。万福丸の言う通り、尾羽の直剣の反応が、今までと全然、反応が違うわね。尾羽の直剣が風を纏っているんじゃなくて、邇邇芸さまが風を纏っている。そう表現するのが正しいわね」
「ふむ。どうやら、邇邇芸の勝ちのようなのじゃ。まあ、男女の仲に勝ち負けなどと表現するのもおかしな話じゃがな」
「あたしにはわかるよー。邇邇芸さまが尾羽の直剣を愛しんでいるっていうのがー。あたし、なんだか、身体がこそばゆい気持ちだよー。まるで、あたし自身が邇邇芸さまに身体をついばまれている気分になっちゃうよー」
小子が、頬をほんのり紅く染めながら、んっんっという声と共に熱くなった吐息をするのである。
「あ、あれ?小子ちゃん、熱でもあるのか?顔が紅くなっているぞ?」
「小子ちゃん、大丈夫?少し、横になる?」
万福丸と吉祥が心配そうに小子にそう聞くのである。
「ふむ。心配無用なのじゃ。小子は尾羽の直剣の産みの親なのじゃ。それゆえ、邇邇芸がその直剣の神力を吸っているために、小子がまるでその身体を邇邇芸についばまれている感覚に陥っているのじゃ。わかりやすく言えば、邇邇芸が小子の胸を吸っているのじゃ」
「おまわりさーーーん!邇邇芸さまが小子ちゃんのおっぱいを吸っている事案が発生したぞおおお!」