ー神有の章99- 枯れない
【縁】。その天照の言葉に吉祥が反応する。
「僕のお父さんやお母さんは【運命】によって弄ばれたってことなのかしら?天照さま」
吉祥が喰いかかるように天照を問い詰める。だが、天照は、はむっと二つ目のおにぎりにかじりつき、もしゃもしゃと食べ
「もぐもぐ。少ししゃべりすぎたようなのじゃ。おぬしの想っているような【運命】とはまた別のものじゃ。吉祥と小子の両親は【縁】あって、結ばれた。ただ、それだけじゃ」
「そう、なの。僕が求めている【応え】とはまた別なのね」
「吉祥ちゃーん?まだ、お父さんは見つかってないのー?」
小子が心配そうに吉祥に問いかけるのである。
「ええ。僕のお父さん、楮四十郎は行方不明のままよ?信長さまや天照さまは何か知っているみたいだけど、それに関しては情報を開示できないみたいだわ」
「ふーーーん。例の【言霊】が関係しているのかなー?だから、天照さまは言いたいけど、言えないって理解で良いのかなー?」
「そうじゃな。小子の言う通りじゃ。わらわと第六天魔王は強力な神気と神力を持っているために、おろそかに吉祥の父親については口に出すことはできないのじゃ。すまぬな、吉祥よ」
「いいわ。仕方ないことだし。【言霊】は天地を震わし、大神すらも意のままに操るものだもの。天照さまが口を閉ざすのは無理のないことだと理解はしているつもりよ?つもりだけど」
「なんだか深刻そうな話でゴザルな。それがしで良ければ相談に乗るでゴザルよ?」
「邇邇芸さまに相談って言っても、なんか、期待できないわよ?」
「うぐっ!ひどいのでゴザル!それがし、もしかして、女性に嫌われる相でも出ているのでゴザル!?」
「邇邇芸さまは、裏でこそこそ何か企んでいる感じがするもんねー?そういうところがダメなんだよねー?」
「そうじゃな。こいつは岩長姫を器量が悪いと言って、実家に追い返す奴なのじゃ。女性から視れば、最低野郎に視えるのじゃ」
「そ、それは男なら、誰しも美人を選ぶものでゴザルよ?なあ、宗麟殿?」
「ん?僕ちんでしゅか?僕ちん、顔の良し悪しで女性をえり好みしないのでしゅよ?」
「意外だわ。宗麟さんは、その辺り、うるさそうに視えるのに」
「吉祥さん?失礼でしゅよ?僕ちん、エロイ身体つきかどうかが肝心なのでしゅ。顔は三日でなれるでしゅ。よっぽど、顔を視ただけで、いちもつが萎えるレベルじゃなければ、大丈夫なのでしゅ」
「ふむっ。違う意味で宗麟は女の敵なのじゃ。まあ、邇邇芸よりはマシかもしれないが、どちらにしろ、近寄りたくない男なのじゃ」
「宗麟さん?僕の半径10メートル以内に入らないでほしいのよ?」
「あたしも宗麟さんには半径10メートル以内には近寄ってほしくないなー?」
「ひ、ひどいでしゅ!僕ちん、人妻が好みなのでしゅ!吉祥さんは万福丸くんの嫁同然なのでギリギリ守備範囲でしゅけど、小子さんは僕ちんの心にはまったく響かないのでしゅ!」
「ひどいー!吉祥ちゃん。宗麟さんがひどいこと言っているよー?あっつあつの紅茶を、宗麟さんの顔にぶちまけてくれるかなー?」
吉祥が神気を発し、神力へと変換し、その【理】を口にする。
【紅茶】
「あっつあっつ!熱いでしゅ!やめてくれでしゅ!」
吉祥は、左手の人差し指の先から、紅茶を勢いよく具現化し、宗麟の顔面に紅い液体をぶちかますのである。宗麟はたまらず、ごろんごろんと転がり、吉祥の攻撃から逃げていくのであった。
「意外と攻撃に使えるわね?これ。紅茶の熱さも調整できるようになってきたし、街中でナンパをしてくるような優男の顔面にぶちまけれるわね?」
「神力の無駄使いとは、まさにこのことじゃな。いくら、無尽蔵に使える力といえども、節約は大事なのじゃ」
「そういえば、大神と合一を果たしたのは良いけど、自分の出せる神気とか神力って、尽きることがないのー?」
小子がそう、天照に質問をするのである。
「ふむっ。大空に輝く太陽の如く、わらわの神気と神力の高さに限界はあっても、力を発すること自体には限界はないのじゃ。まあ、体力は別で消耗するから、そこが関係して、神力を無制限に使い続けるのは無理なのじゃ」
「なるほどー。神気や神力という湖が枯れることはないけど、そこから力を出すために肉体自体の体力を消耗しちゃうってことだねー?それで、体力が尽きると同時に神気や神力を発することができなくなるわけかー」
「とは言っても、身体能力向上の御業を使えば、その肉体の体力自体も底上げできるゆえに、ニンゲンの想っているような短時間での体力の限界がくるわけではないのじゃ」
「あたし、神気を神力へと変換して、尾羽の直剣を具現化することはできるけど、そもそも、その基本としての身体能力向上の御業を使うのが下手なんだよねー。だから、肉体を使っての戦闘行為は苦手だよー」
「僕も体力の底上げや、筋力を上げて、そこそこ重いものを持てるようには出来るけど、本格的な戦闘行為は無理ね。神格がかなり高いはずの思兼と合一を果たしている身だけど、その神力を戦闘に転嫁することは、想ったほど上手くは出来ないわね」
「小子、それに吉祥よ。ひとや大神にはそれぞれ、向き不向きがあるのじゃ。天之尾羽張神ならともかく、思兼に戦闘力を求めるほうが無理なのじゃ」
「天照さまの言う通りよね。僕が具現化出来るモノといったら、この赤縁眼鏡とニンゲンなら一撃で昏倒できそうなほどの分厚い書物だけだもの。少しは万福丸の負担を減らしたいのだけれど、望むだけ無駄なのかしら?」
「おぬしが神器を手にすれば、戦闘に参加するのも可能なのじゃ。だが、吉祥、おぬし自身が身体能力向上の御業をうまく使えないのは、自身の肉体を上手く使いこなせていない証なのじゃ。それでは神器の持ち腐れとなるだけじゃ」
「そうね。僕もそう想っているわ。もし、小子ちゃんが具現化する尾羽の直剣を手にしても、使いこなせる自信は全くもってないわね」
「邇邇芸さまでも尾羽の直剣の神力を引き出すことは出来ても、使いこなすところまでは出来ていないものねー?」
小子の言いを聞き、天照がふと疑問に想い、それを口にする。
「ふと思ったのじゃが。小子よ。おぬしは自分が具現化する尾羽の直剣を使いこなすことは可能なのかじゃ?」
「あたしー?あたしは弓や薙刀の鍛錬はしてきたけど、直剣とか刀を振りますような鍛錬はしたことがないよー?だから、無理なんじゃないのかなー?」
「ふむっ。ならば、ここ、九州に来る前には、誰が、その尾羽の直剣で試し切りをしていたのじゃ?」
「それはあたしのお父さんだよー?あたしのお父さんは信長さまの兵士をやっているから、武器に関してはそこそこ、腕に覚えがあるみたいだよー?」