ー神有の章95- 心底、馬鹿になる
「というわけで、邇邇芸さま!ハーレム形成したいなら、とりあえず馬鹿になってみろってことでー!」
「万福丸殿?馬鹿になってみろでござるか!?もう、尾羽の直剣にグルングルン、宙に振り回されているだけで、充分、馬鹿っぽく視えるのでは?でゴザル!」
「だめね。全然だめね。馬鹿は心の底から馬鹿なのよ。邇邇芸さま?馬鹿を馬鹿にしていないかしら?」
「吉祥殿?なんで、かなり怒っているのでゴザル!?もしかして、万福丸殿のことを馬鹿にしたと想っているのでゴザル!?」
「とにかく、邇邇芸さまは小賢しいのよ。そこがダメなところなの。頭をからっぽにして、馬鹿になってみて?馬鹿っぽいじゃダメよ?心底、馬鹿になるのよ?」
「む、難しい注文なのでゴザル。とりあえず、頭をからっぽにして、馬鹿になるでゴザル。ふむむむ!」
邇邇芸は気合を入れて、頭をからっぽにしようとする。だが、グルングルン、宙に舞っている状態でいったい、どうやって、頭をからっぽにしろというのだろうと言う結論に達するのであった。
「だ、ダメでゴザル!どうしても頭をからっぽに出来ないでゴザル!せめて、グルングルン、宙を舞っている、この状態をどうにか出来れば良いのにでゴザル!」
「ふむ。そうじゃな。試しに小子にあきられるような発言をしてみるのはどうじゃ?そうすれば、尾羽の直剣も邇邇芸にあきれはて、風に舞わせるのをやめるかもなのじゃ」
「おばば様。小子殿をあきれさせるような発言でゴザルか!ううむ。よっし、これでどうでござるか!?」
邇邇芸が一瞬、考え込み、やがて、その口から力ある言葉を発する。
「隣の屋敷に塀ができたでゴザル!へーーー!」
邇邇芸の肺から喉を通り、声となったと同時に、尾羽の直剣は神力を失い、風は舞うのをやめてしまうのであった。それにより、邇邇芸は大空高く、放り出されるように、身体を投げ飛ばされるのである。
だが、邇邇芸は身体能力向上の御業を駆使し、2回転半ひねりから、キレイに足からしゅたっと着地するのであった。
「ふう。どうにか、風から解放されたのでゴザル。いや、しかし、なんとなくであるが、この直剣の使い方を身に着けた気がするのでゴザル」
「なあ、吉祥。最後は3回転半ひねりからの頭から地面に突き刺さるべきだったよな?格好良く着地しきるところが、邇邇芸さまの小賢しいところだよな?」
「そうね、万福丸。だから、邇邇芸さまは尾羽の直剣を使いこなせないんだわ。ああいうあざとい面が、小子ちゃんの心を掴めないのよ」
「あたしも最後は3回転半ひねりからの顔面を地面に直撃させるほうが良かったと想うなー。万福丸くんなら、あたしの期待に応えてくれてたよねー?」
「もちろんだぜ!俺は期待を裏切らない男だからな!」
「まあ、邇邇芸にオチ担当は任せられないということだけは、はっきりしたのじゃ。これはこれで収穫と言えるのじゃ」
「み、皆、なかなかにそれがしに対して、風当りが強いでゴザルよ!?この身体で顔面から地面に直撃しようものなら、義久殿がぽっくり逝ってしまうでゴザルよ!?」
「そこは加減できてこそだと想うのだけれど?ほら、ギャグ物語の主人公って、死なないって補正があるじゃないの?」
「まあ、物語の話だしなあ。邇邇芸さまならともかく、肉体である義久さんが逝っちゃったら、シャレにならないもんなあ?」
そう、吉祥と万福丸が話を結論づけるのである。
「さて、尾羽の直剣への神力の注ぎ方はわかったのじゃ。あとは、どうやって、その神力を解放するかじゃな」
「い、いきなり、真面目な話になったでゴザルな、おばば様」
「おぬしらのペースに付き合っていたら、話が進まないのじゃ。だから、わらわが強引にでも話が一歩でも進むように苦慮しているだけじゃ」
「す、すまないのでゴザル。どうも、万福丸殿たちに付き合っていると、こちらもペースを崩されるのでゴザル。それがし、こんなキャラ付けではなかった気がするのでゴザル」
「おい、吉祥。邇邇芸さまが俺たちのせいにしてきたんだけど、どう想うよ?」
「ええ、万福丸。これはちょっと説教すべきよね?まるで、私まで馬鹿の一員かのように言われるのは腹ただしいわね」
「ちょっと待って?吉祥。まるで俺と小子ちゃんだけが馬鹿みたいな発言はやめてくれよ!?」
万福丸が抗議をするが、吉祥は無視し、邇邇芸に話しかけるのであった。
「幸か不幸か、万福丸に宿っていた赤黒い神蝕のおかげで、尾羽の直剣への神力の注ぎ方がわかったわけだけど、それをどうやって解放するかが問題だったわよね。だれか、良い案を持っているひとはいないのかしら?」
「ふむ。天之尾羽張神を気分良くさせることが、鍵なのじゃ。やはりここは、とどめの口説き文句こそが良いと想うのじゃ」
「とどめの口説き文句でゴザルか。いや、しかし、気恥ずかしいというか、なんとやらでゴザルなあ?」
「口説き文句が苦手なら、一言、愛してるってささやけばいいんじゃねえの?悩んだ時ほど、直球勝負のほうが良いと想うんだよ?」
「万福丸くんは素直な良い子だねー?吉祥ちゃんが万福丸くんにべったりな理由がよくわかるよー?」
「小子ちゃん?万福丸は素直じゃなくて、馬鹿なだけよ?だから、気の利いた口説き文句を数多く言えないだけだから?僕としては、口説き文句の種類を少なくとも5種類くらいは準備してほしいところよ?」
「それもそうだねー。いつも愛してるーだけじゃ、物足りないもんねー?ちょっとでも良いから変化ってものが欲しいよねー?」
「万福丸殿。なかなかに苦労しているでゴザルな?それがしも口下手ゆえに口説き文句の種類については木花咲耶姫からは注文をつけられているでゴザルよ?」
「あれ?なんで、俺、邇邇芸さまに同情されてるんだ?こんな話の流れ、おかしくね?」
「まあ、ふたり、いや、2柱とも日頃の鍛錬が必要じゃな。宗麟。人妻に手を出すような不逞な輩なら、口説き文句の10個くらい、ぺらぺらと、その口から出るじゃろうて?」
「あれ?なんで、僕ちん、天照さまに蔑まれているのでしゅ!?こんな話の流れ、おかしくないでしゅ!?」
「深くは考えなくて良いのじゃ。とりあえず、邇邇芸にとどめの口説き文句でも、教えてやるのじゃ」
「わ、わかったのでしゅ。こほん。では、こんなのはいかがでしゅ?きみは太陽で僕は月でしゅ。きみがいなければ、僕は輝けないでしゅ」
「ちょっと待つのじゃ。それは月読の必殺の口説き文句なのじゃ。それを使われたら、月読が泣いてしまうから、やめておくのじゃ」
「な、なにか、月読おじじ様の視たくない部分を視てしまった気分でゴザル。誰か、それがしの記憶を抹消してほしいのでゴザル」
「万福丸?出番よ?」
「ん?吉祥。いくら俺の【理】でも、記憶を【喰らう】のは多分、無理だぞ?」