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ー神有の章92- 喰らい合う

「ははは。万福丸(まんぷくまる)殿。その提案はなかなか良いモノでゴザルが、いったい、誰がこんな危険なモノを手に握りたいでゴザル?」


 邇邇芸(ににぎ)がそう万福丸(まんぷくまる)に告げるのである。万福丸(まんぷくまる)は、近くに立つ大友宗麟(おおともそうりん)を何気なく指さすのである。


「え!?僕ちんでしゅか!?」


 宗麟(そうりん)が驚くが、万福丸(まんぷくまる)がコクコクと頷いて返すのである。宗麟(そうりん)は困り顔になっているところに、邇邇芸(ににぎ)が投げた尾羽の直剣を拾ってきて、彼にその直剣を渡すのである。


「ささ。宗麟(そうりん)殿。この直剣であの大岩を叩き切ってみるでゴザル。なあに、ちょっと、全身がズタボロにされるだけでゴザルが、宗麟(そうりん)殿ならきっと、大丈夫でゴザル」


「マ、マジで僕が振るってみるのでしゅ?僕ちん、痛いのは嫌でしゅよ!?」


 だが、邇邇芸(ににぎ)宗麟(そうりん)の背中をドンッと押し、大岩の前に無理やり立たせるのである。


吉祥(きっしょう)宗麟(そうりん)さんはどうなると想う?」


「うーーーん。まあ、尾羽の直剣が暴走するのは、邇邇芸(ににぎ)さまの神気が強すぎるのが原因のひとつだと想うから、宗麟(そうりん)さん程度ならそれほどひどい結果にはならないんじゃないかしら?」


 吉祥(きっしょう)がそう予想を立て、宗麟(そうりん)の背中を見つめるのである。


「ぼ、僕ちんも男でしゅ。えいやああああ!」


 宗麟(そうりん)は神気を発し、神力へと変換し、尾羽の直剣にその神力を込めていく。だが、宗麟(そうりん)がいくら、手に持つ直剣に神力を込めようとしても、力は流れ込んで行かず、直剣はうんともすんとも言わないのであった。


「あ、あれ?でしゅ。何も反応を示さないでしゅよ?」


 宗麟(そうりん)は不思議そうに直剣を見つめながら、ふんふんと振り回すが、やはり、尾羽の直剣は彼の神力を受け付けることはなかったのだった。


「ふむ。宗麟(そうりん)殿では、そもそも神力を流し込めないようでゴザル。これは興味深い結果なのでゴザル」


「そうじゃな。宗麟(そうりん)は本気で尾羽の直剣に嫌われているようじゃ。使用者によって、尾羽の直剣の反応が変わるというのは、なかなかに面白いのじゃ。おい、万福丸(まんぷくまる)。次はお前が振るってみるのじゃ」


 天照(あまてらす)がそう、万福丸(まんぷくまる)に告げる。


「俺かー。うーーーん。何が起きるか想像できないだけに、握るのも怖い気がするなあ?」


「まあ、怪我をしても宗麟(そうりん)さんが居るから、なんとかなると想うわよ?危険を感じたら、すぐに直剣を手放しなさい?」


「まあ、吉祥(きっしょう)がやれって言うなら、やってみることはやってみるけどさあ?宗麟(そうりん)さん。直剣を俺に渡してくれよ」


「わかったのでしゅ。しかし、少しくらい、反応してくれても良いモノを。僕ちん、男として、情けないやらでしゅよ」


 宗麟(そうりん)が愚痴りながら、万福丸(まんぷくまる)に尾羽の直剣を手渡すのである。その時であった。万福丸(まんぷくまる)が右手に尾羽の直剣の柄を掴むと同時に、彼の右腕に巻き付く赤黒い神蝕(しんしょく)(あかし)が激しく明滅し始めるのである。


「うおっ!なんだこりゃ!?神蝕(しんしょく)(あかし)がすげえ反応を示してやがる!」


万福丸(まんぷくまる)!?」


 吉祥(きっしょう)が彼の名を呼び、次にその直剣を手放すように声を出そうとしたが、赤黒い神蝕(しんしょく)(あかし)が見せた動きに驚き、声が出なかったのである。


「うがああああああ!」


 万福丸(まんぷくまる)が右腕に起きる痛みに、苦痛の声を上げる。彼は尾羽の直剣を手放そうとするが、その柄が右手に張り付いたかのように吸いつき、投げ捨てることができないのであった。


 しかもだ。万福丸(まんぷくまる)の右腕に巻き付いていた赤黒い神蝕(しんしょく)(あかし)が、一気に、肩から手首近くまで収縮していく。次に、彼の右手の指先からその赤黒い神蝕(しんしょく)は尾羽の直剣を蛇がのたうつように巻き付きながら侵蝕を開始するのであった。


「こ、これはいったい、どういうことでゴザル!?万福丸(まんぷくまる)殿の神力が尾羽の直剣に吸われているというよりは、尾羽の直剣があの赤黒い神蝕(しんしょく)に喰われているように視えるでゴザルよ!?」


 邇邇芸(ににぎ)の言う通り、赤黒い神蝕(しんしょく)はすっぽりと尾羽の直剣を包み込むと、激しく明滅を繰り返す。そして、ビギッビギギツ!とその直剣の刃をへし折らんとばかりに鼓動するのである。


 ここにきて、ようやく、万福丸(まんぷくまる)は尾羽の直剣を手放すことに成功する。地面に堕ちた、直剣は赤黒い神蝕(しんしょく)に喰われ、その身をのたうち、はね上げるのである。


 やがて、赤黒い神蝕(しんしょく)は明滅を穏やかなものにしていき、鼓動すらやめていく。それと同時に尾羽の直剣の色が孔雀の尾羽のように色鮮やかだったモノがついには、赤黒いモノに変わったのであった。


「あんなに綺麗な色をしていた、尾羽の直剣が赤黒く変色してしまったわ。これ、いったい、どういうことなのかしら?」


 吉祥(きっしょう)は遠目で、尾羽の直剣の変化を見守っていた。彼女が赤縁(あかぶち)眼鏡のレンズを通して、尾羽の直剣を視る限りでは、その直剣が赤黒い神蝕(しんしょく)に喰われたのではなく、逆に直剣が赤黒い神蝕(しんしょく)を喰らいきったようにも視えたのである。


邇邇芸(ににぎ)さま?そして、万福丸(まんぷくまる)?僕の見立てだと、尾羽の直剣は赤黒い神蝕(しんしょく)との喰らい合いに勝ったように視えるわよ?」


「そ、そうなのか?じゃあ、暴走とかそんなことにはならないって認識で良いのか?」


「僕が視る限りでは、いつものような暴走が起きているようには視えないわ?どちらかというと、安定しているように視えるわ。でも、だからと言って、この直剣を振るって良いものかは判断がつかないわね?」


 皆が、赤黒く変色してしまった尾羽の直剣を見つめ、ごくりと喉を鳴らしてしまう。何が起きるかわからない。その状態に対し、恐怖を感じてしまったからである。


「どうするでゴザル?誰か、試しに、直剣を拾ってみるでゴザル?」


 邇邇芸(ににぎ)がそう言った次の瞬間、周りの皆が、邇邇芸(ににぎ)を一斉に指差すのである。


「ちょ、ちょっと待つでゴザルよ!?なんで、それがしが拾わなければならないのでゴザル!?」


「そりゃ、言い出しっぺの法則というやつなのじゃ。ほれ、はよう、直剣を拾ってみるのじゃ」


「言い出しっぺの法則って怖いよな。だから、うかつに最初に提案する行為って怖いよなあ」


「そうね、万福丸(まんぷくまる)。僕も言おうか言わないか悩んでいたけど、邇邇芸(ににぎ)さまはさすがだわ?さあ、邇邇芸(ににぎ)さま。早く拾ってちょうだい?」


「さすが邇邇芸(ににぎ)さまでしゅ。僕ちんはそんな邇邇芸(ににぎ)さまに痺れる憧れるでしゅ」


「皆。マジで言っているでゴザルか?コレを拾った瞬間。それがしが、赤黒い神蝕(しんしょく)を喰らうとか嫌でゴザルよ!?」


 邇邇芸(ににぎ)が尾羽の直剣を拾うのを嫌がっていると、小子(さこ)が神妙な顔つきになりながら


「あたしは尾羽の直剣の生みの親だから、言えることだけどー。吉祥(きっしょう)ちゃんが言う通り、赤黒い神蝕(しんしょく)に喰われずに逆に喰らったみたいだよー?だから、直剣に触ってもその赤黒い神蝕(しんしょく)に何かされる心配はないと想うよー?」

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