ー神有の章89- 復活時期
「ひとつ、邇邇芸さまに質問でしゅ。八岐大蛇は、いつ復活するのでしゅ?」
大友宗麟が心配そうな顔つきで、そう、邇邇芸に質問するのである。
「ふむっ。早くて今すぐでゴザル」
「い、今すぐなのでしゅか!?住民の避難が間に合わないでしゅよ!?」
「遅くて100年後でゴザル」
「ちょっと、期間が長すぎるのでしゅ!もう少し、正確な復活時期を教えてほしいでしゅ!」
宗麟が想わず、邇邇芸に対して抗議をする。しかし、邇邇芸は困り顔になり
「そ、それが海底に沈んだ草薙剣を目視して確認できるわけでないのでゴザル。それゆえ、正確にと言われても、応えようがないのでゴザル」
「そうなんでしゅか。今から100年後の間となれば、避難指示を出せないのでしゅ。100年も他の土地に移住となれば、豊前は荒れ果て、黎明の時代からの博多の地は権勢を取り戻せなくなるでしゅ」
「だからと言って、何もしないのは為政者としてはどうなんだクマー?災いが迫っているというのに、放置するのはダメなことだクマー」
「隆信ちゃん、それはわかっているのでしゅ。でも、100年間でしゅよ?とてもじゃないけど、現実的ではないのでしゅ」
「俺、想ったんだけど、無理やり、八岐大蛇を叩き起こせば良いんじゃねえの?そしたら、こっちのほうで、いつ復活するか、時期を調整できるじゃん?」
「あら?万福丸にしては良い案じゃない?今から1か月後とかに決めておけば、その1カ月以内にもしも八岐大蛇が復活しても、こちらとしても、いくらかは準備はできているはずだしね?」
「ほう。万福丸殿。意外と頭が働くのでゴザルな?それは妙案でゴザル。しかし、アレをどうやって、強制的に復活させることができるのか?その方法が問題でゴザル」
「うーーーん。八岐大蛇を復活させる方法かあ。吉祥。【理の歴史書】には何か書いてないのか?」
「そんな方法、載ってるのかしら?まあ、一応、調べてみるわね?ええと、どの辺を読めば書いてあるのかしら?素戔嗚さまと、八岐大蛇の戦い辺りを調べれば、もしかして」
と言いながら、吉祥は、その手に持つ分厚い書物を読み漁って行くのである。周りの者たちは淡い期待をしながら、吉祥の調べが終わるのを待つのである。
「うーーーん。気になることが書いてあるわね。でも、この記載と、八岐大蛇との復活に関連性があるのかしら?」
「何が書いてあったのでゴザル?アレに関することなら、とりあえず、教えてほしいところでゴザル」
「天照さま、邇邇芸さま。草薙剣の最初の持主は伊弉諾さまなのよね?」
「そうじゃな。父である伊弉諾が、わらわの兄弟にあたる炎迦具土をぶった切った時に使ったから、間違いないのじゃ。それがどうかしたのかじゃ?」
「【理の歴史書】に書かれているから嘘ってことはないんでしょうけど、炎迦具土を斬ったあとに、川にぽいっと草薙剣を投げ捨てたと書かれているわね。ちょっと、ぞんざいな扱いじゃないかしら?」
「まあ、父は炎迦具土を異常に嫌っておったから、その血で穢れた草薙剣を手放すのも仕方がないことなのじゃ」
「なるほどね。じゃあ、草薙剣には、炎迦具土の血がこびりついていたってわけなのね?それも水で禊ぎも出来ないほどに」
「むむ?何かひっかかる言い方でゴザルな?もしかして、炎迦具土とアレに関連性があるということでゴザル?」
「はっきりとは言えないのだけれど、八岐大蛇は口から色々なモノを吐きだすって書いてあるのよ。この書物には。その中で特に強力だったのは【炎】だったと記されているわ。だから、草薙剣は炎迦具土の神力を喰らったんじゃないかしら?」
「なるほどなのじゃ。アレが炎を吐くのは、兄の炎迦具土の神力を喰らったおかげと言いたいわけなのじゃな?そう言えば、父の伊弉諾は神鳴りや雪も斬っておったのじゃ。だから、アレは色々なモノを吐きだせるというわけかなのじゃ」
「おばば様?大爺様は、草薙剣で斬りすぎなのでゴザルよ?あと、斬ったあとにちゃんと禊ぎを済ませていないということになるのでゴザルよ?」
「まあ、嫁である伊弉冉を亡くしてしまったために、父はショックでかなり私生活が荒れてしまったのじゃ。こればっかりは、わらわでもどうしようもないのじゃ」
「は、はあ。まあ、致し方ないでゴザルな。それがしも木花咲耶姫を亡くせば、気が狂うのでゴザル。大爺様が荒れるのも仕方がないでゴザルなあ」
「話を本題に戻すのじゃ。吉祥の言いから推測するに、草薙剣で斬ったモノがアレの神力になっているということじゃな?だから、アレの復活には、アレの神力を満たす神力を与えれば良いということになるのじゃ」
「でも、草薙剣は海底に沈んでいるのでゴザルよ?炎迦具土叔父がここに居たとしても、炎が水の中に浸透するわけではないでゴザルよ?」
「そんなのわかっているのじゃ。じゃが、神鳴りならどうじゃ?神鳴りは全てを貫くのじゃ。それこそ、海と言えどもじゃ」
天照はそう言うと、ある男を指さす。
「ここに建御雷と合一を果たした男が居るのじゃ。道雪、喜ぶのじゃ。おぬしの出番なのじゃ」
「わ、我輩鳴りか?いや、しかし、壇ノ浦の海底深くに沈んだ草薙剣まで神鳴りを通せという鳴りか?さすがに無理と言わせてほしい鳴りよ!?」
「そんなのあてずっぽうで良いのじゃ。適当に壇ノ浦に船を浮かべて、そこから神鳴りを落とし続けるのじゃ。そうすれば、草薙剣が勝手に神鳴りを喰らうのじゃ」
天照の言いに立花道雪がうむむと唸る。
「わ、わかった鳴り。でも、もし、八岐大蛇が復活することが上手くいったとして、我輩、海の上からどうやって、逃げればいい鳴り?」
道雪がそう疑問を呈すると、邇邇芸はにっこりと微笑み、彼の左肩に右手を置く。
「建御雷殿、いや、道雪殿のおかげで計画は立てれそうでゴザル。皆に道雪殿は立派な最後を遂げたと伝えておくでゴザル」
「ちょっと待ってほしい鳴り!我輩、まだ死にたくない鳴りよ!?」
「道雪さん。俺、道雪さんが立派な武士だったってことを、吉祥との間に産まれてくる子供に教えておくからな?」
「万福丸?いつ、僕に子種を植えたのかしら?それと言っておくけど、伊弉諾さまが復活しないと、子供を望んでも、無理なのよ?そこのところ、理解しているかしら?」
「あっ、そうだった。まずは吉祥に子種を植えることから始めないとだったぜ!いやあ、俺としたことがうっかりしていたぜ!」