ー神有の章88- 興味津々
「ぶべべべ!ぶぼぼぼぼでゴザル!」
「よっしゃあああ!俺の水を想いっきりくらいやがれ!これは小子ちゃんの分、これも小子ちゃんの分、ついでに小子ちゃんの分だあああ!」
万福丸が右の手のひらから、水流を勢いよく出し続けるのである。それと同時に彼の右手の赤黒い神蝕の証は明滅を繰り返すのであった。
「万福丸?ちょっと、やりすぎよ?いい加減、やめておかないと、邇邇芸さまから痛いしっぺ返しを喰らうわよ?」
「ああ、それもそうだな。よっし、これくらいで勘弁しておいてやるか!ああ、すっきりしたあ。小子ちゃんもこれで満足だろ?」
「万福丸くんー。あたしのために怒ってくれるのは嬉しいけど、あんまり、吉祥ちゃん以外の女性に優しくするのはやめておいたほうが良いと想うよー?」
「えっ?マジで?うーーーん、吉祥は焼きもち焼きだからなあ。俺、気をつけないとダメだったわ」
「うっさいのですわ!誰が焼きもち焼きなのですわ!」
吉祥はそう言うと、手に持つ分厚い書物でバシッバシッと万福丸の頭をぶん殴るのであった。
「ううう。陸地で溺れ死ぬかと想ったのでゴザル。しかし、万福丸殿は何故、1柱でふたつもの【理】を持っているのでゴザル?もしかして、他の大神に【否定】されてしまった結果なのでゴザルか?」
邇邇芸がそう疑問を呈するのである。それに応えるのは天照であった。
「どうやら、万福丸は他の大神の神力を【喰らう】ことができるようなのじゃ。だが、その喰らった大神の神力を自分の神力として扱えるようになったのは、ごく最近のことのようなのじゃ」
「ふむ。それは面白い話でゴザルな。万福丸殿。例えば、それがしや、おばば様の神力までをも【喰らう】ことができるのでゴザルかな?」
吉祥に分厚い書物で頭を殴られ続けている万福丸が頭を手で押さえながら
「うーーーん。それはどうなんだろうな?どうも、他の大神の神力を【喰らう】と、この右腕に巻き付いている赤黒い神蝕が、俺の身体に広がるみたいなんだよ。今は水を多少吐きだしたから、肩の所までで止まっているんだけどさ?」
万福丸はそう言うと、右腕の手甲の具現化を解き、上着をはだけ、右腕をあらわにする。彼の右腕の赤黒い神蝕は彼の言う通り、以前は右胸まであったモノが、今は右肩の部分まで神蝕を止めているのである。
「ほっほお。これは面妖でゴザルな。ほんのりとではあるが、伊弉冉の神気を感じるのでゴザル」
「邇邇芸さまもそう言うんだな。天照さまと同じ感想だぜ。ちなみに喰らったら喰らった分だけ、この赤黒い神蝕が進んで、吐き出せば吐き出すほど、神蝕が後退していく感じっぽい」
「なるほどなのでゴザル。これは喰らった神力がどれほど貯まっているかの目盛りと言ったところなのでゴザルな?ちなみに、水を具現化できると言うことは、弟の闇淤加美の神力を喰らったということでゴザルな?」
「さすが、邇邇芸さまは察しが良くて助かるぜ」
「万福丸殿。もうひとつ、疑問があるのでゴザル。万福丸殿のソレは同時に他の大神の神力を喰らって貯めこむことは出来るのでゴザルか?」
「いや、それは試したことはないから、何とも言えないんだよな」
「では、試してみるのでゴザル」
「それはダメよ」
邇邇芸の言いに真っ向から反対の意思を吉祥が示すのである。
「万福丸の身に、この赤黒い神蝕が浮き出ているのか理由がはっきりとしないのよ。それに、もし、この赤黒い神蝕が万福丸に危害を加えるようであれば、僕は万福丸に、【喰らう】ことを禁じさせるつもりなの」
「ほう。理由ははっきりとしないでゴザルが、原因はわかっていると言った感じでゴザルな?」
「それについては、よっしーさんに聞いてちょうだい?よっしーさんも、万福丸にアレが起こった時に一緒に同席していたから」
「ふむ。わかったのでゴザル。その時のことはあとで弟に聞いておくのでゴザル。しかし、理由がはっきりしていないもので試しを行うのはダメでゴザルな。ここは大人しく、引いておくのでゴザル」
やけにあっさり引くわね?興味津々なのは邇邇芸の表情から視てとれるのにと吉祥は想う。
「万福丸の身を案じてくれて助かるわ。できることなら、万福丸に興味を持つのも止めてほしいところよね?」
「はははっ。万福丸殿は、そなたの所有物なのでゴザル。それがし、ひとさまのモノを欲しがる趣味はないのでゴザル」
「あら?そうなの。なら、邇邇芸さまは、万福丸に干渉するのはやめてよね?もし、万福丸をどうこうしようって言うのであれば、僕は邇邇芸さまの敵に回るわよ?」
邇邇芸に対して、吉祥が強い拒否の視線を送るのである。邇邇芸はまいったなあという顔つきになり
「万福丸殿の神力には興味はあるでゴザルが、利用してやろうとかそんなことは想っていないのでゴザル。だから、安心してほしいのでゴザル。今は、味方はひとりでも多いほうが良いのでゴザルからな?」
「そうね。今は相争う場合じゃなかったわね。でも、これだけは覚えておいて?万福丸をどうこうしても良い権利は、僕だけが持っているんだから」
えっ!?俺、吉祥にあんなことやこんなことをされるの?うへへ、俺、困っちゃうなあ!?と喜び顔の万福丸を吉祥は無視して、話を進める。
「で?邇邇芸さまは、小子ちゃんの直剣が威力はあるものの、安定には程遠いわよ?それで、八岐大蛇と対峙する気なの?」
「ふむ。そこが肝要でゴザルな。小子殿。尾羽の直剣は同時に何本も具現化できるのでゴザルか?」
「うんー。出来ることは出来るよー?でも、1日にあんまり乱造しちゃうと、どんどん質が堕ちていく感じかなー?」
「では、日に1本ずつ、具幻化していくことにするのでゴザル。そうすれば、1本くらいは当たりが出来るかもしれないのでゴザル」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦なのじゃなあ。そんなのでアレと対峙するとは、賭けも良いところなのじゃ」
天照が半ばあきれ顔で、邇邇芸にそう告げるのである。
「はははっ。そうは言われても、小子殿に無理に神蝕率を上げてもらうほうが気が引けるのでゴザル。自分の意思にそぐわぬ神蝕率の上昇など、それがしは否定させてもらうのでゴザル」
「ふむ、殊勝な心がけじゃな。そのモノが力を欲するのであれば、大神が力を与える。その代価としての神蝕なのじゃ。他人や他神にせっつかれて上げるモノではないのじゃ」
「なんだか安心したよー。邇邇芸さまが質の良い直剣を欲しがって、あたしに無理じいしてくるのかと、少し心配してたんだよねー」