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ー神有の章86- 制御不能

 小子(さこ)は静かに眼を閉じて、意識を自分の手のひらに集中し、神気を発し、神力へと変換し、己の【ことわり】を口にする。


【羽ばたく】


 彼女の幼さを象徴する唇から力ある言葉が発せられると同時に、彼女の右手にひと振りの直剣が具現化する。


 その直剣の刃は孔雀の尾羽に似ていて、長さがゆうに1メートル半にも達する長剣であった。


「はーい。邇邇芸ににぎさまー。今回のは自分でも結構、上手く具現化できたと想うよー?」


「何か不穏な言いでゴザルな。まあ、それは良いのでゴザル。早速、その直剣を貸してほしいのでゴザル。試し切りをしてみるのでゴザル」


 邇邇芸ににぎはそう言うと、小子(さこ)から孔雀の尾羽の形をした直剣を受け取るのであった。邇邇芸ににぎは、はあああと深いため息をつき、その直剣に神気を込めていく。


「おお。なんかすげえな。邇邇芸ににぎさまの神気を小子(さこ)が具現化した直剣にどんどん吸い込まれていくぞ?」


「ええ、万福丸まんぷくまる。あの尾羽の刃に風が纏われていくわ。アレが天之尾羽張神(あめのおはばりのかみ)の神力なのね。所有するものの神気を喰らって、それを直剣の威力上昇に使っているのだわ」


 吉祥きっしょう赤縁あかぶち眼鏡のレンズを通して、邇邇芸ににぎと彼の握る直剣を視て、そう感想を述べるのである。


 邇邇芸ににぎは尾羽の直剣を右手で高々と上段構えにし、一気に地面に向けて振り下ろす。それと同時に直剣からぶわっと優し気な風が舞い上がり、盛大に地面の砂を巻き上げる。


「げほっげほっ!うわあああ、眼に砂があああ!」


 万福丸まんぷくまる邇邇芸ににぎを直視していたために、まともに舞い上がった砂の直撃を眼に喰らってしまうのである。


「す、すまないのでゴザル。久しぶりに天之尾羽張神(あめのおはばりのかみ)を振るってみたので、風の加減を間違えてしまったのでゴザル」


 邇邇芸ににぎがそう謝るのである。邇邇芸ににぎの行動を視ていた面々は、舞い上がった砂埃を手や扇子で扇いだりして、視界を確保するのであった。


「まったく、何が久しぶりに振るってみたなのじゃ。おかげでこちらは埃っぽくてたまらないなのじゃ。ああ、風呂に入りたい気分になったのじゃ」


 天照あまてらすは嫌味たっぷりに邇邇芸ににぎにそう言うのである。


「ま、まあ。次は失敗しないように善処させてもらうのでゴザル。さて、灯篭を斬ってみたは良いが、果たして結果はどうでゴザルかな?」


「と、灯篭を斬ったの鳴り!?ちょっと、待ってほしいの鳴り!それは、結構、値の張った灯篭鳴りよ!?」


 立花道雪たちなばどうせつが慌てて、庭に降り、灯篭が真っ二つになってないか確認するのであった。道雪どうせつは、ぺたぺたと灯篭を素手で触り、どこにも傷がついてないことに、ほっと安堵するのである。


「あ、あれ?灯篭が斬れてないでゴザル?おかしいでゴザルなあ。確かに手ごたえはあったというのに」


「あちゃー。失敗作みたいだったよー。うーん。なかなか具現化するのって難しいねー?」


「なあ、小子(さこ)。神気を発して、神力へと変換するための練習とかあんまりしてこなかったのか?」


万福丸まんぷくまるくんー。練習はちゃんとしてたんだよー?でも、斬れることは斬れるんだよー?問題は、斬れる対象がいまいち定まらないっていうかー?」


 小子(さこ)の言いに、ん?どういことかしら?と吉祥きっしょうが想うやいなや、めきめきめきっ!と音を立てて、灯篭の向こうに植えられていた、樹齢30年はあろうかという見事な松が真っ二つに割れて、左右に分かれて倒れるのである。


 それを視て、口から泡を吹いて、卒倒したのは道雪どうせつである。


「あうあうあー。われが長年、世話をしてきた松が真っ二つになったの鳴りいいい」


「あ、あれ?灯篭じゃなくて松が真っ二つになったのでゴザルよ!?道雪どうせつ殿。わ、わざとやったわけじゃないでゴザルよ!?」


「なるほどなあ。斬れる対象が定まらないって、このことかあ。うっわ。もしかして、灯篭の後ろに誰か立ってたら、そいつが真っ二つに斬れてたんじゃねえの!?」


「ええ、万福丸まんぷくまる。あなたの言う通りかも。てか、たまたま、灯篭の後ろの松が斬れただけじゃないかしら?下手すると、横に居た、僕たちが真っ二つになっててもおかしくなかったんじゃ?」


「うーん。一応、直剣を振るうひとの前方の何かしらを斬ることはあっても、真横から後ろにかけて、モノが斬れたってことはないかなー?」


「うっわ。やっべえ。じゃあ、小子(さこ)の具現化する直剣って、使用者の視界に入る何かしらを真っ二つにするってことかよ!?邇邇芸ににぎさま!絶対、こっちを視界に入れるんじゃねえぞ!」


「いや、これ、欠陥品も良いところではないでゴザルか!?何を斬るかわからないモノを振るうわけにはいかないでゴザルよ!?」


「威力は申し分ないというのに、危険極まりない直剣じゃな。邇邇芸ににぎよ、自分の神力で斬る対象を選別できないのかじゃ?」


「おばば様。それは試してみないとわからないのでゴザル。もう一度、灯篭を斬ってみせるのでゴザル」


「なんか、不安しか感じないんだけど。俺、邇邇芸ににぎさまを止めるべきだと想うんだよ?吉祥きっしょう


「ええ。僕も不安しか感じないわね。僕たちが斬られないように、邇邇芸ににぎさまの後ろのほうに回ろうかしら?」


吉祥きっしょうの言う通りなのじゃ。おい、皆のモノ。邇邇芸ににぎの後ろに行くのじゃ。真っ二つにされてはたまらないのじゃ」


 天照あまてらすに促されて、皆が立ち上がり、庭に降り、邇邇芸ににぎの後方へと移動するのである。


「何か、まったく信頼されていない気がするのでゴザル」


「おい、こっちを視るななのじゃ。おぬしの視界にあるモノが不規則に斬れる可能性があるのじゃ。決して、こちらを向いて、その直剣を振るな!なのじゃ」


 いっそ、おばば様に向かって、尾羽の直剣を振り下ろしてやろうかと想う邇邇芸ににぎであるが、他のモノを真っ二つではシャレにならないので、素直に灯篭の方に向くのであった。


 邇邇芸ににぎは神気を発し、尾羽の直剣にそれを注ぎ込んでいく。今度は尾羽の直剣にまとわりついていく風を制御しようと、神気の発し方に工夫を施そうとした。だが


「あ、あれ!?尾羽の直剣にまとわりつく風を制御しようとすればするほど、風が暴れ始めたのでゴザル!?」


「ちょ、ちょっと!邇邇芸ににぎさま!しっかり、直剣を握ってくださいよ!」


 吉祥きっしょうが悲鳴にも似た声で邇邇芸ににぎに訴えかけるのである。だが、邇邇芸ににぎが尾羽の直剣の柄を強く握ろうとすればするほど、尾羽の直剣が纏う風が荒れ狂うのである。


 このままでは不味いと想った邇邇芸ににぎは、灯篭に直に尾羽の直剣の刃をぶつけ、刃を喰い込ませることにより、暴走を止めようと試みる。


 邇邇芸ににぎが振るいし尾羽の直剣の刃が、灯篭に10センチメートルほど食い込むのである。その瞬間、刃を喰い込まされた灯篭が、尾羽の直剣から生み出された風、いや、嵐にも似た風の奔流が灯篭を包み込むのである。


 ズガガガ!ガキガキッ!ガガガガッ!


 尾羽の直剣が、その刃を灯篭に食い込ませながらも、風の奔流を巻き起こし、その風が灯篭を内側と外側からズタボロになるまで吹き荒れるのである。


 そして、邇邇芸ににぎが灯篭に尾羽の直剣の刃を喰い込ませてから5分後には、灯篭はひとかかえある表面がでこぼこの大石に産まれ変わるころになって、ようやく、風の奔流を止めるのであった。

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