ー神有の章85- 合一は気持ちが良い
「さて、兄者の禊ぎも済んだことでごわすし、詳しい成り行きを説明してもうらのでごわす。小子殿」
「よっしーくん。んっとねー。あたし、熱田神宮で巫女になるための訓練を受けていたんだよー。んで、掃除中に本殿に奉られている刀を床に落としちゃったのー?そしたら、急にどこからか声が聞こえてきてねー?羽ばたきたいって言う声がねー?」
「それが天之尾羽張神の声だったということでごわすか?羽ばたきたいでごわすか。なかなかに興味深い声なのでごわす」
「そそー。あたしもこのひとって言ったら変だけど、何でそんなに羽ばたきたいのかなー?って想ったわけー。でも、貴殿も常々、羽ばたきたいと想っているでごじゃるよね?って聞き返されたってわけー」
「そう言えば、小子ちゃんって昔から、巫女になったら、歌って踊れる巫女になりたいって言ってたよなあ。世の中に目立つ存在になるって意味では【羽ばたきたい】ってのは、小子の【魂の色】なのかもな?」
万福丸がそう小子に言うのである。だが、言われた小子としては、よくわからないよー?といった顔つきになる。
「ええと、小子ちゃん。説明するとね?イニシエの大神は自分の【理】に近しいニンゲンと合一を果たしたいと想っているのよ。それで、小子ちゃんは【羽ばたきたい】と言う願望というか、そういう【魂の色】を持っているわけね?それに天之尾羽張神が魅かれて、小子ちゃんに話しかけてきたんだと想うわよ?」
吉祥がそう小子に説明する。小子は、ほっほおと感嘆の声を上げ
「なるほどー。あたし、羽ばたきたいと想っているでごじゃるよね?って問われた時に、鳥さんのように自由に空を羽ばたいてみたいなーって想ってるって応えたよー?その所為で、あたしは天之尾羽張神に気に入られたってことであってるー?吉祥ちゃんー」
「ま、まあ。その解釈で間違ってないと想うわ?でも、意外よね?天之尾羽張神そのものが十握剣だから、てっきり、その【理】は【斬る】とかそういうモノだと想っていたわ?」
吉祥がそう疑問を呈するのであった。それに応えるのは天照である。
「吉祥。天之尾羽張神はその名が示すように、剣の刃の形が鳥の尾羽のようになっているのじゃ。それ故に、あやつ自身がその尾羽の形を気に入っていて、十握剣状態ではない時は、好んで、孔雀の姿を取っているのじゃ」
「ははあ。なるほどね。それで【羽ばたきたい】なのね。納得がいったわ。ありがとう、天照さま」
「吉祥。孔雀ってどんな鳥なの?俺、視たことないから、わからねえんだけど?」
「えっとね?万福丸。【理の書物】に孔雀が絵つきで載っているのよ。えっと、どこに載ってたかしら?ええと、ああ、これこれ。ほら、尾羽がきれいでしょ?」
「おお、本当だ。でも、すげえ鳥だな。尾羽がぶわあって広がってて、さらにその尾羽も色とりどりだなあ。俺、1本、この尾羽が欲しいぞ?」
「まあ、このひのもとの国には生息してないから、手に入れようと想ったら、唐の国に行かないとダメね?」
「そうなのかあ。残念だなあ?なあ、小子ちゃん。孔雀に変身してくれないか?そしたら、尾羽が手に入るじゃん?」
「ちょっとー。女の子のお尻の毛を欲しがるなんて、万福丸くんは変態か何かなのー?吉祥ちゃん、万福丸くんを変態に育てあげないでよー!」
「な、何を言っているのですわ!万福丸の性癖の責任を僕に押し付けるのはやめてほしいのですわ!」
「女性には尻毛が生えているのでごわすか?おいどん、女性経験がないのでわからないのでごわす」
「よっしーちゃん。いい加減、遊女とイチャイチャしてくるくらいするんだクマー。良い歳して、まだ、初めては好きな女性となんて夢を視ているのだ?クマー」
「隆信ちゃん。よっしーちゃんは手遅れで候。童貞をこじらせると、夢見がちなおっさんに生まれ変わってしまうので候。ちなみに、女性でも、尻毛がもっさりと生えているモノと、そうでないモノが居るので候」
「直茂ちゃん。やけに詳しいクマーね?てっきり女遊びはしていないと想っていたのだクマー」
「嫁の居ぬ間に洗濯と言う言葉あるので候。深くは詮索してほしくはない部分で候」
「そうクマーか。じゃあ、直茂ちゃんの奥さんに告げ口しておくんだクマー。直茂ちゃんが奥さんのことを鬼だと言っていたと伝えておくんだクマー」
龍造寺隆信の言いに鍋島直茂が顔を真っ赤に染めて抗議を行うのであったが、隆信は両耳の穴を人差し指で塞いで、口笛を吹き、無視するのであった。
「でねー?話を戻すんだけどー。天之尾羽張神さまと、それが縁で、合一を果たしたってわけなのー。今から、ちょうど1年前だったかなー?初めてだから痛くしないでねー?って頼んだら、ちゃんと痛くないように合一してくれたよー?」
「なんか不穏な一言を聞いた気がするわね。でも、ニンゲンと大神が合一を果たす時って、痛みなんか感じるモノかしら?僕の場合は、溢れだす知識欲に溺れるそうになる快感を感じたわよ?」
「まあ、大神側としては、これから一緒に過ごす相手にわざわざ痛みを与えるモノはいないと想うのじゃ」
「えっ!?吉祥殿、天照さま、それは本当鳴りか?我が建御雷と合一を果たそうとした時は、身体に神鳴りを落とされたかのような痛みを受けた鳴りよ!?」
立花道雪の言いに、えっ?何を言っているの?と言う顔つきになる吉祥と天照である。
「おかしいでごわすね?おいどんは、闇淤加美と合一する時には、川のせせらぎの音が子守歌のように感じたのでごわすよ?あれほどまでに気持ちが安らいだ瞬間はなかったのでごわす」
「ぼくちんがラファエルと合一を果たした時には、戦で負った古傷を癒してくれたでしゅよ?気持ちがよくて、まるで天の国へと昇天するような気分だったのでしゅ」
「ど、どういうこと鳴り!?なんで、我だけ、大神との合一を果たすときに、痛みを伴っているの鳴り?なんだか、不公平じゃない鳴り?」
「ちなみに万福丸は、全身を100匹のわんちゃんたちにペロペロと舐められているかのような快感を味わったって言ってたわよね?」
「ああ、アレは大変だった。この世の快楽の極みを体験させられた気分だったぜ。俺、動物には好かれる自信はあるけど、あそこまで、犬にペロペロされたのは産まれて初めてだったぜ?」
「お、おかしい鳴り!確か、万福丸殿はこう言っては失礼だが、【呪い】の【色】の犬神と合一を果たした鳴りよね?なぜ、そんな幸せ絶頂な合一を行っている鳴り!?」
「多分だけど、道雪さん。建御雷さまと相性が悪いんじゃねえの?」
万福丸の容赦ない一言により、道雪は力なく地面に四つん這いになるのであった。