3章 最悪なかくれんぼ
私たちが小学校五年生の秋だったころの話である。
当時の私たちは学校を終えるたびにかくれんぼをしていた。
そんなある日、一人の女子学生が転校してきた。ショートカットの黒髪に白い肌をしておとなしそうにしていた。
そして私たちは少女が関わることなく、学校生活を過ごしていた。
学校が終わり神社の方まで十分かかって歩く。
私たちはいつものようにかくれんぼをする。しかしこの日は手が六個あった。いつの間にかそこに転校生がいた。
彼女は白いワンピースを着ていた。汚れてしまうからやめた方がよいと心の中で注意した。
もちろん彼女は私の注意なんて聞けるわけがなかったが。
「私、谷本百合っていうの。よろしくね」
「今日入ってきた転校生だよね」
「うん。そうだよ」
「じゃあさ……せっかくだし彼女が嫌じゃないなら鬼にしない?」
「私はいいよ」
島崎さんの言葉に私たちもも同意して首をうなずく。
「賽銭箱で二十秒数えてね。あとそれからもういいかいとかの合図はいらないからね」
「うん。分かった」
私は彼女の言葉にさらに説明を加えた。
「もういいかい?もういいよって答えるのが一般的なかくれんぼのルールだけど俺らのはないから気を付けてね」
「うん、教えてくれてありがとう」
彼女の指示に従い転校生は数え始める。
いーーち、にーーー……
紗季と島崎さんと私が右側へ、その他二人は左側へと別れた。私は倉庫の近くで止まったが、他の女性二人は奥に入って行く。
ごーーー、ろ--く……
私は倉庫へ入って扉を閉める。湿った土のにおいがする。
この倉庫の中では少女の声は聞きとりにくいが、彼女が数を数え終え探し始める音は聞こえる。
急に引き戸が開こうとする音がする。どうやら押しているようだ。
この扉は横にスライドさせるんだよと扉を出て言いたかったがもちろん出られない。その思いが伝わったのかは知らないが扉が開き少女の笑顔が現れる。
「みーつけた」
「あはははは。見つかっちゃったか。初めて会ったのに見つけるの早いね」
「そうかな」
扉を出て気が付いたのだが名人である私だけが見つかっていた。
暗くて見えなかった腕時計を見る。彼女が数え始めてから二分しか経っていなかった。
しばらく彼女と共に歩いて行く。どんどん進んでいく。周りをきょろきょろしながら探している。
急に彼女は草の茂みの周りにある大きな木に立ち止まった。草の茂みが揺れている。風はない。
つまりそこに誰かいる。私のテクニックと同じだった。
彼女もそれに察したかのように大木の後ろに回りそして私のときのように言い放った。
「みーつけた」
「きゃあ、ばれちゃったか。あれ名人まで見つかっている。なんか変ね」
「変じゃねーーーよ」
「八つ当たり?」
私は無言になる。彼女にまで言われるとますます悔しい。
さらに少女はそのまま先を眺めたが行かずに戻っていった。
そして反対側の方に行き、木の上に登り幹と枝に挟まれてあぐらをかいている格好で精神統一をしている大仏とでっかい岩の後ろで隠れているズッキーニを見つけ出した。
かかった時間は一二分だ。ほとんど私と同じくらいの速さで見つけている。まだ島崎さんが足りない。
それで少し気楽になった。
島崎さんは賽銭に隠れていた。彼女は最初木に隠れ転校生が私たちの方を探しに行ってるのを確認して賽銭に隠れたのだ。まさしく卑怯な手だ。ある時みんなでかくれんぼの時間を計ってるときと同様に、これはかかった時間に含まれなかった。まさしく無念だ。彼女の方が一分くらい早かった。
「じゃあ。次俺かぁ。俺が鬼になるのは初めてかな……」
「いいから数えなさい」
卑怯な手を使った島崎さんに言われ数え始める。
いーち、にー……じゅうよーん、じゅうごー……
そして二十秒、私は数え切った。賽銭箱から右回りして後ろを向き階段を下りる。
さあ、右と左どっちに進むか。
私は右に進んだ。しばらくすると木を見つめている少女が立っていた。
「君、隠れないとだめだよ。どうしても出たくてもじっとしてないとダメだよ」
「あ……ばれちゃった。この木にみとれちゃっていた。神社の木って大きいよね」
「そうだね。じゃあ……次鬼だよ」
「うん、分かってる」
私はさらに奥に進んだが誰もいない。
反対側に行くと灯篭の下部分が岩になってるところに隠れてる紗季と少し離れたところにあるトイレを使用し終えて出てきたところを見つけた大仏にあった。
その直後島崎さんはその周りにあった木に隠れていたらしく爆笑してしまい私に見つかってしまった。
杉田は隙を見て賽銭箱の通りにある手水舎に隠れていた。私が探している隙を見てどこからの木から現れたのだろう。つまり島崎さんと同様に卑怯な手を使ったのだ。
したがってこれも時間に含まれなかった。私のかかった時間は彼女より一分早かった。自己最速記録である。これで名人剥奪されずに済むと心の中で呟いた。
「これで全員見つけたね。数えるよ」
「いいよ……」
「そんなことよりも数える時間一分にしてください」
「うん……分かった」
私が答えた直後に大仏が丁寧な口調で指示した。そして賽銭の方へ彼女は行った。
彼女が数え始めると同時に大仏が彼女にばれないように私たちを呼び止めた。
「みんなさん、よく聞いてください。このままだと彼女に名人という称号が取られてしまいます。だからばれないように隠れましょう」
「そのために時間をとったのね」
大仏の作戦は時間を多くとることでできるだけ遠くに隠れられるといった作戦だった。その作戦を告げられたのは、彼女が十三秒を数え切ったところだった。そして私たちはそれぞれ遠くに隠れた……はずだった。
私は森の中で木の幹の穴へ隠れようとしたが、急に後ろから蹴っ飛ばされた。そのところを転校生に見られてしまった。どうやら数え終えてここに来たようだった。
「みーつけた」
「痛いなあ。何だよ」
私は後ろを振り向く。そこにいたのは……。
「このセクハラ野郎……」
「みーつけた」
「あ……ばれちゃったじゃない。あんたのせいよ」
そこにいたのは紗季だった。私は彼女に謝罪した。
不意に頭に水が付いたが気のせいにした。おそらく雨だろう。
さらに転校生は賽銭箱の方へ行き卑怯な手を使ってる奴はいないことを確認して、私たちの隠れた方の反対側に行き他の奴らを探した。
彼の身長がすっぽり入れるぐらいの穴に入ったズッキーニを救い出し、木の幹と落ち葉を利用してあぐらをかいている大仏を発見した。
彼女のかかった時間は十三分だった。これで名人を奪い返したって言っていいのだろうか。
「また俺が鬼か……」
「名人らしくない」
そう言う杉田に私はうざったそうに言う。
「うるさいなーー」
「ねえ、その前に気になったんだけど杉田君にあだ名ひらめいちゃった」
「へ?俺にか?」
杉田は笑顔で聞き返す。
「うん。ズッキーニ。それが今日から君のあだ名だよ」
「ほう?名人、大仏、暴力女、うさぎ……痛っ……なんだよ、川島!!蹴るなよ」
彼女は彼のすねを無理矢理蹴った。
「うるさい。気に入らないから蹴ってやった」
彼女は頬を膨らましている。やはりかわいらしかった。
「ズッキーニ。いいわね、みんなで食べちゃいましょう?それよりも名人。数えましょう?」
「そうだな、一分数えるよ」
「俺が言おうとしていたことが……」
杉田……いや、ズッキーニの言葉と共にそれぞれ隠れようとしていたので後ろを振り返り数えた。本当は通常通り二十秒にしたかった。しかし彼女が怪しく思うと嫌なので一分にしたのだ。こうしてしばらく数えていく。雨の音が耳に響く。
「名人、かくれんぼは中止だ。急いで帰るぞ」
三十四秒を数えたころ、声をかけたのはズッキーニだった。そこにいたのは四人のいつものメンバーだった。
私たちはそれぞれの帰路に帰って行った。このときから次の朝にかけて私は何か忘れ物をしていたことにモヤモヤしていた。思い出せなかった。
次の朝、私はニュースを聞いて忘れてたことを思い出した。
『今朝、少女の遺体がここの井戸の中で発見しました。水の中に浸かっていたようです。詳しい情報は後々お伝え致します』
私が学校に着くと、話題が今朝のニュースになっていた。
私たちはその少女が転校生でないことを祈ったが、悲報は教室内で担任の口から伝わった。その後、私たちは場所がいつものかくれんぼの場所なので職員室に呼び出されたが、「私たちはその日はしてない」と言って何とかごまかせた。
結局、その出来事は彼女の不注意の事故で片付けられてしまった。
これがきっかけで私たちはあそこには行かなくなった。さらにかくれんぼは学校内で少しやったが、しばらくしてやらなくなった。そして私たちは今に至ったのであろう。




