2章 消えるメンバーたち
寒気を感じる風がまた吹き上がる。
「子子ちゃん。ここでじっと待っていてもつまらないでしょうからお姉ちゃんたちとかくれんぼしない?」と島崎さんが言う。
「うん……する」
「じゃあ。子子ちゃんを鬼にして始めない?その方がいろいろと良さそうだから」
「そうだね」
杉田がそう答える。少女は彼を指で指しこう言う。
「あっ、ズッキーニだ」
思い出した。杉田のあだなは体格と名前からして”ズッキーニ”だった。でもなぜ彼女がそれを?
「なぜ、俺のあだなを?どこかで会ったかな?」
「さぁ?」
「とにかくやりましょう?かくれんぼ。子子ちゃん。この賽銭箱の前に座って二十秒数えてね」
ダメだ。このかくれんぼを始めたらダメなんだ。急に心の中で何かがモヤモヤする。そして何か懐かしい思いがする。そんな私のことなんか知らずに彼女の指示に従って少女は数え始める。
いーーち
「何、立ち止まってるのよ。あの子なら大丈夫よ。そんな気がするから」
島崎さんはそう言うがそんなんじゃない。
にーーー
このかくれんぼで何かが起きるんだ。
さーーん
とにかく隠れよう。みんな遠くに隠れたのかな?
よーーん
できるだけ見つかりにくい場所を。
ごーーー
木や石はダメだ。それならあそこに行ってみるか。
ろーーく
私は少女から遠く離れた倉庫へ入ってできるだけ音が鳴らないように扉を閉める。湿った土のにおいがする。
私は少女から遠く離れた倉庫へ入ってできるだけ音が鳴らないように扉を閉める。湿った土のにおいがする。
この倉庫の中では少女の声は聞きとりにくいが、彼女が数を数え終え探し始める音が聞こえる。
もういいかいと聞いてもういいよと答えさせる通常の合図は俺たちのかくれんぼにはない。そのことを彼女に教えなかったのを後悔したまま隠れていたが心配無用だった。
彼女は私たちのやり方を知っているかのように探し始めた。
彼女が探し始めてから間もなく悲鳴が上がった。悲鳴の声からすると島崎さんかもしれない。
彼女は見つかったから悲鳴を上げたのだと勝手に心の中で解釈をした。そうなると子子ちゃんは私よりも遠い彼女を見つけたことになる。しかし私の近くを数秒で行かれるものだろうか。
そんなことを考えていると引き戸が開こうとしている音がする。どうやら押しているようだ。
違うよ、子子ちゃん。この扉は横にスライドさせるんだよ、と心の中で呟いた。その思いが伝わったのかは知らないが扉が開き少女の笑顔が現れる。
「みーつけた」
「あはははは。見つかっちゃったか。初めて会ったのに見つけるの早いね」
「そうかな」
彼女と自分のこの状況を俺はどこかで目にしたことがあった。しかしどこであったのかは思い出せないので気のせいにしておいた。扉を出て気が付いたのだが名人である私だけが見つかっていた。
ではさっきの悲鳴は一体何だったのだろうか。
倉庫で暗くて見えなかった腕時計を見る。彼女が数え始めてから二分しか経っていなかった。
しばらく彼女と共にどんどん歩いて行く。彼女は他の人がどこに隠れているのか知っているようだった。なぜなら隠れていそうなところを見ようとしないのだ。
しかし彼女は草の茂みの周りにある大きな木に立ち止まった。草の茂みが揺れているがさっきまで吹いていた風がない。つまりそこに誰かいる。
彼女もそれに察したかのように大木の後ろに回りそして私のときのように言い放った。
「みーつけた」
「きゃあ、ばれちゃったか。あれ名人まで見つかっている。なんか変ね」
そこにいたのは紗季だった。さらに少女はそのまま先に行かずに来た道を戻って行った。
そして反対側の方に行き、木の上に登り幹と枝に挟まれてあぐらをかいている格好で精神統一をしている大仏とでっかい岩の後ろで隠れているズッキーニを見つけ出した。
かかった時間は一二分だ。ほとんど俺と同じくらいだ。
だが一人足りないはず。しかし子子ちゃんは……。
「次お兄ちゃんの番だよ」
「えっ……でも島崎さんって言っても分からないか。子子ちゃんに指示していたもう一人のお姉ちゃんを探さないと」
「あれー、いたっけ?」
彼女は不思議そうな顔をしていた。彼女をかばっているかのように杉田ではなくてズッキーニが言う。
「あいつは酒で酔っているんだよ。どこかで寝てるんじゃないか。いいから始めちゃおうぜ、名人」
「そうだよ、正也くん」
「なぜ、下の名前を……」
私はますます彼女が怖くなってきた。彼女の声で自分の名前を同窓会の時にも聞いたからかもしれない。とにかく続けることにした。
いーち、にー……じゅうよーん、じゅうごー
十五秒数え始めた時に悲鳴らしき声が聞こえた。島崎さんに脅された時に出すズッキーニの悲鳴に近かった。
そして二十秒数え切って賽銭箱に対して右回りして後ろを向き階段を下りる。
なんか睨まれてる気がする。おそらく目の前にいる二つの狐があるからだと私は思ったが無視して先に進む。
右と左どっちに進むか。
私は右に進んだ。
しばらくすると木を見つめている少女が立っていた。
「子子ちゃん、隠れないとだめでしょ。ばればれだよ」
「あ……ばれちゃった。この木にみとれちゃっていた。神社の木って大きいよね」
「そうだね。じゃあ……次鬼だよ」
「うん、分かってる」
さらに奥に進んだが誰もいない。
反対側に行くと灯篭の下部分が岩になってるところに隠れてる紗季と少し離れたところにあるトイレを使用し終えて出てきたところを見つけた大仏にあった。
賽銭箱がある拝殿の道まで着いた時子子ちゃんが言い出した。
「これで全員見つけたね。数えるよ」
「待ってよ、子子ちゃん。まだズッキーニが……」
「そんなことよりも数える時間一分にしてね」
「うん、分かった」
私の言葉を遮り紗季は指示した。そして賽銭の方へ少女は行った。
何が起きているのか分からないが、俺は左へと進もうとした。
しかしその瞬間力強く右側に引っ張られた。その引っ張られる方に思わず顔が向いてしまう。
そこにいたのは紗季だった。
「ちょっと紗季。急に何だよ」
「いいから来て」
その力強さとは裏腹に弱そうな声で言った。彼女に抵抗もなしに付いて行く。手はつながられたままだが。
彼女に手をつながれて着いた場所はさっきの大木だった。その後ろには木が立ち並んでいたが、その先には井戸があった。
井戸の前にふたりいる。
私たちとは逆方向に進んでいったはずの大仏がいた。そのそばにいたのは……子子ちゃんだった。
二人ともここにいるのは不可能なはずだ。
さらに少女が彼を井戸へと突き落した。さらに水の音が聞こえる。
その音と共に彼の動きは見えなくなった。
「ねえ、見たでしょ。島崎さんたちも同じようにされたの見たわ。あの子私たちにもする気だわ。だって名前が……」
「おうしげここだよ」
「違う読み方にしてみれば分かるでしょ」
「分からないなあ」
「全くの分からずやね。王様の王は『きみ』、茂みの茂は『も』、子供の子は『し』……」
「きみもしし……なんだこれ?」
「説明は最後まで聞きなさい。最後の子は干支の『ね』」
「きみもしね……君も死ね?でもなんのために?」
「そうよ。あの子……あの時の子に似てるでしょ」
「え……誰に似てるの?」
「忘れたの。谷本百合っていたでしょ」
私はその言葉を聞いて封印していた記憶が思い出された。彼女は確かに見たことがある。
今、いきなり降り出した雨で地面が湿っていく。あの日もこんな天気だった。
無洗米を水に浸して手に取ったらべたつくように彼女の髪も雨でベタついていた。




