つくつく帽子
初秋になって、ツクツクボウシの声があちこちで聞こえます。
この二、三日、なぜか時々駅舎の中で鳴いているなと思ったら、お客様のかぶっている帽子から鳴き声が出ているようです。
野球帽を前後逆にしたような帽子で、蝉の姿が中途半端にリアルに再現されています。
「『つくつく帽子』ですよ」
と猫田くんが教えてくれました。
週末に市内で昆虫バトルゲームの大会があって、成績優秀者にはつくつく帽子が贈られたそうです。
「名誉ある帽子なので、自慢したいんでしょうね」
猫田くんはそう言うと、ロッカーからつくつく帽子を持ってきて見せてくれました。
「あら、猫田くんも大会に参加していたの?」
たしか週末は出勤していたはずだと思って尋ねると、猫田くんは答えました。
「いえ、これは去年のなんですよ。去年の帽子はメスだったので、鳴かないんですが」
「そうなのね」
「というのは後付けの設定で、去年は鳴き声の装置が大会に間に合わなかったらしいですよ」
「そうなのね」
「実は僕も自慢したくて持ってきたんですが、機会がなくてずっとそのままだったんです」
話している間にも、一匹のお客様がツクツクボウシの鳴き声を響かせながら、駅長室の前を通り過ぎました。
「ちょっと、注意してきますね」
猫田くんはお客様に駆け寄ってお話をしていましたが、お客様はすぐにスイッチを切ってくれました。
「構内でつくつく帽子を鳴かせるのはやめましょうと言ったら、すぐにやめてくれました。音楽をじゃんじゃん鳴らすのと同じで、マナー違反ですものね」
「そうね。ありがとう」
「昆虫バトルゲームは礼に始まり礼に終わると言われます。実力者であればこそ、マナーはしっかり守らなければなりません」
バトルゲームを武道のように言うところが何だかおかしかったです。
でも、つくつく帽子は結構な音量だし、猫田くんの言う通り、駅舎で鳴かせるのはご遠慮いただくのが正解だと思います。




