真面目な猫田くん
今日のお昼過ぎ、若手職員の猫田くんがホームの端っこのアベリアの生け垣をまじまじと見つめていました。独りごとを言って首をかしげたりしていたので、私は心配になって声を掛けました。
猫田くんは、クリーム虎で折れ耳の小柄な男の子です。
「わっ、駅長。すみません」
何か怒られると思ったんでしょうか。猫田くんはびくっとして跳びはねました。
「何をしてるの?」
「いや、あの…」
「言えないこと?」
「いや、あの、テントウムシの幼虫を見てたんです。お昼休みなので」
見てみると、赤い斑点のある小さな黒い虫が、アベリアの枝先のところどころについています。
「たぶんナナホシテントウだと思います」
猫田くんは言いました。
「そうなのね」
「家に連れて帰りたいなと、考えていたんです。ベランダのカランコエに、アブラムシがいっぱいついて困ってるので。こいつらはアブラムシを食べてくれますから。あ、ナミテントウだったとしても同じですけど」
「それなら、迷わなくても、持って帰ればいいじゃない」
「でも、駅の生け垣から連れて帰ったら、ひょっとしたら会社の物を盗んだとか、そういう罪にならないでしょうか」
そこが長所でもあるんですが、猫田くんは真面目で、考え込みすぎるところがあるんです。
「大丈夫よ。駅長の私が許可します」
私がそう言うと、猫田くんは元気な子供みたいな笑顔になりました。
「ありがとうございます。何匹までなら、いいでしょうか」
「欲しいだけ、持って帰りなさい」
「わかりました。では、三匹だけいただきます」
わが猫山駅生まれのテントウムシの幼虫は、猫田くんの家のベランダで、きっと大活躍してくれることでしょう。