赤い傘
何日か前の朝、待合スペースを見てみると、赤い傘がありました。
前日の夕方はなかったので、夜のうちに誰かが忘れたのでしょう。
掲示板に情報をのせておいたのですが、きょう三毛のお嬢さんが、持ち主だと名乗り出ました。
赤い傘を受けとると、そのままベンチに腰掛けて物思いに沈んでいるようだったので、私は気になってお嬢さんに声をかけました。
お嬢さんは、問わず語りに話をしてくれました。
その傘は、ずっと前にお付き合いしていた茶虎の彼氏に、貸したままになっていたんだそうです。
お嬢さんの住む街に彼氏が遊びに来て、帰りに雨が降りだしたので貸してあげた傘でした。
そのあと一度も会うことなく、しばらくして彼は病気で亡くなってしまったとのことでした。
「彼、私に傘を返しに来てくれたのかしら」
お嬢さんは言いました。
お嬢さんが帰ろうとしたとき、ちょうど雨が降りだしました。お嬢さんは、その赤い傘を開きました。
すると、「ご結婚おめでとう!」の垂れ幕が飛び出しました。きらきらの飾りがついて、文字は喜びで踊っているようです。
悲しいお話にふさわしくない垂れ幕に、私はぎょっとしましたが、お嬢さんは感動していました。
「やっぱり、私をずっと見守っててくれたのね。ありがとう!」
お嬢さんは泣きながら帰って行きました。
お嬢さんの後ろ姿を見送りながら、私はちょっと複雑な気持ちになりました。
でも、それでよかったんだろうなと思っています。