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やる事

こうして家事をする事になったけど、ただ家事だけやれば良いという訳ではない。私にだって他にもする事があるのだ。

それは、父さんのお手伝いだ。ウチの場合は、商売だね。

父さんは商人だ。主に雑貨を取り扱っている。父さんが働くお店の店主は父さんのお兄さん。つまり、私にとっては伯父さんである。

父さんは、これぞと思う品物を探したり買い付けたりするのが仕事。前世の世界で言うところのバイヤーだ。父さんは、近隣の街に買い付けに行く事が多いけど、たまに遠出する事もあった。私はそんな父さんと叔父さんを幼い頃から見てきた。

そして、幼い頃から看板娘をしていた。まあ、主に店先や店内をチョロチョロしてただけだけど。

8歳になってからは、少しずつ接客や商品について教えて貰っていた。


あとやる事と言えば、学校に行って勉強する事。とは言っても、日本の江戸時代の寺子屋みたいな学校だけど。学校は風の日〜地の日までの週5日。始まりの時間は皆同じようだけど、終わりの時間はマチマチだ。午前中で終わりの人もいれば、夕方までやる人もいる。

私はいつも午前中で終わりにして、午後からはお店のお手伝いをしていた。

こう見えて、何気に私も忙しいのだ。


ーこれから、頑張らないとならないぞ。母さんの分も、私が父さんを支えないと。


私はこっそり気合を入れた。

話し合いの後は、晩ご飯だ。けれど、とてもじゃないけど食欲がわかない。


「ねえ、父さん。お腹空いてる?」

「いや、空いてない。けど、軽く食べられる物を何か用意しよう。『美味しい物を食べたら元気がわいてくる。自然に笑顔になる』ってソフィアが言ったてからな」

「そうだね。そう言って、よく無理やり食べさせられたっけ。でもそれで、本当に元気になるんだよね」

「そうだな」


私と父さんは母さんを思い出して微笑み合った。母さんの事を想うと、まだ胸が痛むけど、想うのを止めたくない。これからも、こうやって父さんと語り合えれば良いなと思う。


台所で何かないか探したら、バンがあった。後は、薫製肉があったから、それを薄切りにしてパンに挟む。バンはあんまり柔らかくないんだけど、贅沢は言ってられない。街中に流行り病が猛威をふるっていたのだ。当然、お店もやっていないところの方が多い。

当分、保存食中心の食事になるだろう。それでもバンがあったのは父さんのおかげだ。母さんと私の事があって大変だっただろうに、パンを買っておいてくれたのだ。もちろん自分(父さん)が食べる為ではあるだろうけど、当分のパンを心配しないですむのは有り難い。

このパンは、日持ちするパンなのだ。素晴らしい。


サンドイッチを載せたお皿を持って、テーブルを行く。父さんはテーブルを拭いたり、コップのお水を取り替えたりしてくれていた。


「父さん、ありがとう」

「いやいや、エミリアこそありがとう」


2人でお礼を言い合い、席に着く。


「「いただきます」」


パクっ。もぐもぐもぐ。


味はまあまあだった。これがとびっきり美味しい味だったら、母さんの言う通り気分はニコニコになってたと思うけど、まあまあの味だったから気分は盛り上がらなかった。

父さんとはポツポツとこれからの話をした。

主に、流行り病が終息してからの事を。日常が戻ってからの事を。

でも、まだ流行り病が終息してないなら、日常が戻ってくるのはまだ先になりそうだ。


けど、父さんが言う事には病も大分下火になってきたそうな。神殿の神官様がそう言ってたらしい。

そう聞いて、私は心底ほっとした。

良かった。やっと希望が見えてきた。

流行り病が始まってからというもの、この街は暗闇に閉ざされたようだった。閉鎖された隣街への道、出航する事が出来ない船。流行り病にかかるんじゃないかという不安。次は自分が、家族が。

それが、やっと終わりに近づいたのだ。

私は、ずっと息を詰めて縮こまっていた心が、大きく息をして膨れ上がっていくのが分かった。


ちょっと明るい気分でご飯を終えた後は、お風呂に入って就寝だ。

そう、この世界にもお風呂があったのは、幸いだった。けど、それは私からしたら全然お風呂とは呼べないものだけど。何せ、日本の一般家庭にあるお風呂の半分しか大きさがないのだ。

浅すぎて肩まで浸かれないし、狭すぎて脚を伸ばせない。膝をかかえてお風呂に入る。


今までの私からしたら、十分なお風呂だったけど、日本の記憶がある今の私には不十分だ。満足出来ない。


ーううう〜、大きいお風呂が欲しいよぅ。


自分で木材を買ってきて、トントン作ろうかな。でも、それは色々と余裕が出来てからだ。まだまだ先になりそう。

私はため息をつきながら、お風呂を終えた。

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