今後
それからしばらく2人でわんわんと泣いた。それこそ声を張り上げて泣いた。どれくらい泣いたのか分からないけど、泣き疲れた。父さんを見ると、父さんもお疲れのご様子。
「父さん、大丈夫?」
そう尋ねた私の声はかれていた。喉がひりひりと痛い。
「ああ、もう落ち着いたよ」
対する父さんも声がかれていた。
そして、2人共目は赤く、まぶたがはれている。私はタオルを濡らそうと思い、タオルを取りに行く。タオルを手に取ったら、台所の水魔石に手をかざして水を出した。バシャバシャと濡らしていく。
ギュッと絞ると、父さんに1枚渡した。
「ありがとう」
「どう致しまして」
2人してまぶたを冷やした。
そして、そこでハタと気がついた。私、タオルを自然に取り出してたし、水を出せた。魔石の事も分かっている。
ー何だ、日常生活は普通に送れるじゃん。
どうやらいつも自然に行ってた事は、ちゃんと覚えてるようだ。良かった。良かった。
私が安堵してると、父さんから声がかかった。
「エミリア、ちょっと座ってくれないか。これからの事を話そう」
「……分かった」
一気に気分が下がる。
私はコップに水を入れ、父さんの前と私の前に置いた。
「これからの前に、ソフィアの事を話そう」
「うん………」
「まず母さんの身体なんだが、もうこの家にはない」
「えっ?どういう事?」
ーじゃあ、もう私は会えないって事なの?そんな……。
「ソフィアの…死亡…届を提出したら、すぐに運ぶように言われたんだ」
「どこに?」
「神殿にだ」
「そうなんだ」
「会わせてあげられなくて、すまなかった」
父さんが私に向かって頭を下げた。それに対して私は首を振った。
「ううん。父さんのせいじゃないから、謝らなくて良いよ。それに『すぐに』って事は何か理由があったんでしょ?だから、良いよ。仕方ない」
「それなんだが、何でも遺体…から感染する恐れがあるから、遺体をいつまでも放置するなという事らしくてな」
「ああ、そっかぁ」
理由を聞いて、私は納得した。感染を広げないためって事なら、尚更仕方がない。会えなかったのは寂しいけど、他の人を感染させる訳にはいかないもの。
「感染する恐れがあるって事は、原因が分かったって事なの?」
「いや、それはまだ分からないらしい。けど、念のためだそうだ」
「そっかぁ」
私はそれを聞いて、父さんの事が心配になった。母さんと私は流行り病にかかったけど、父さんはかかってない。
ーどうか父さんが流行り病にかかりませんように。
私は両手を組んで、目を閉じてそっと祈りを捧げた。
すると、その様子を見た父さんが慌てて聞いてきた。
「エミリア?どうした!?具合が悪いのか?」
「ああっ!ごめん!!全然元気だよ。心配しないで」
私がニッコリ微笑んで言えば、父さんは安堵のため息をついた。
「びっくりしたよ。あまり驚かせないでくれ」
「ごめんね。私より父さんはどうなの?具合が悪いところとかない?」
「ああ、大丈夫だ。具合が悪いところはないぞ」
その返事に、私は心の底から安堵した。まだまだ油断は禁物なんだけどね。
「良かった」
「ああ。それで話を戻すが、ソフィアの魔石なんだが、エミリアに持っていて貰いたい」
「えっ?私?」
「そうだ」
父さんが母さんの魔石の付いたペンダントを私に差し出した。母さんの魔石は、風の日生まれを表わす乳白色をしている。ムーンストーンの様な石なのだ。
この魔石には母さんの魔力が貯めてある。それを私が持っていても良いのだろうか。
「母さんの魔石、本当に私が持っていても良いの?」
「もちろんだ。ソフィアも、これからのエミリアの為になるなら嬉しいだろう」
「ありがとう」
母さんにちゃんとサヨナラ出来なかったのを残念に思ってたから、これは嬉しい。この魔石は、母さんの形見になる。大事にしよう。
「それに、エミリアにはこの魔石を胸にこれからを頑張って貰いたい」
「分かった」
私は決意を固めて頷いた。
「それで、これからの事なんだが、エミリアにはまず家事をお願いしたいと思うんだ。もちろん、オレも手伝うが、どうだろうか?」
「大丈夫、やるよ。母さんのお手伝いをしてきたから、家事は出来るよ。最初は上手くいかない事もあると思うけど、頑張るよ」
「ありがとう。これからは2人で頑張っていこう」
「うん」
こうして私と父さんは、2人生活の1歩を踏み出した。