海の上
「……う、ううん……」
身体がガタンと大きく揺れて、目を覚ましたら、見知らない天井だった。
「どこ?ここ」
何だか、ゆらゆら揺れてる気がする。私が揺れてるの?それとも、建物が揺れてるの?まさか、地震!?慌てて起き上がって辺りを見渡すと、そこは牢の中でした。
「はっ?えっ?何で牢が?」
鉄格子がはまっていて、扉も閉まっている。当然、鍵もかかっているのだろう。
「私、何か悪い事したっけ?警察に捕まっちゃったのかな?」
現在の状況も、その前の状況もよく分からないから、私は記憶を辿っていく事にした。
「えっと。えっと。確か、面接を受けてたと思う。うん、服も勝負服なワンピースだし。それで話をしていて……急に眠くなったんだ!」
思い出したら、ぞっとした。意識を失う前に見た、赤毛の人を思い出したから。
ーあの人、あの時、普通にしてた。面接してた時と同じように、穏やかに笑ってた。
あの状況で笑ってたあの人が怖い。だけどよく考えたら、無表情に無感情に見られるのも怖いかもしれない。どっちにしても、あの人は怖い。今、私を牢に入れてるのも、あの人に違いないし。
一応、鍵が空いてないか確認するけど、やっぱり開いてなかった。当然だよね。
ーこれから、どうなっちゃうのかな…。
胸元でぎゅっと拳を握って、目を閉じた。
「……父さん。母さん。怖いよ……」
呟くと、目に涙が盛り上がってきた。けど、その時、突然レイさんになぐさめて貰った時の事を思い出した。
『何か困った事があったら、いつでも連絡してくれ』とレイさんは言ってくれた。面接に行く前にだって、『何かあったら、魔石で知らせるんだぞ』と言ってくれたではないか!
私はレイさんに連絡しようと、首に掛けていた風の魔石に手を伸ばし……。
「無いっ!?無い?無い!」
私は血の気が引く思いを味わった。決して味わいたくない思いである。朝、目が覚めて時計を見たら、遅刻しそうだった時の数十倍は血の気が引いた。ポケットも探してみるけど、無い……。
「どうしよう。…レイさん…」
私がそっと呟いた時、牢の部屋のドアが開いた。
ーヤバい!まだ意識がないフリをした方が良いかな。
と考えてるうちに、ドアから人が入って来てしまった。そこにいたのは、やっぱりあの赤毛の人だった。その後ろにも強そうな頑丈そうな人がいる。
「ああ、起きたんですね。どうです?気分は」
「気分は最悪ですよ。起きたら牢の中なんですからね。当たり前じゃないですか!」
「ハハっ。それはそうですね。失礼しました。では、違う質問にしましょう。ここは、どこだと思いますか?」
「えっ?ここ?」
そういえば、私はここがどこだかあまり考えてなかった。牢の中に閉じ込められている衝撃で考えられなかったのだ。でも、赤毛の人がこんな質問をするって事は、ここがどこだか知られても問題ない場所って事だよね?
さっきからする揺れてるような感覚。それに、香のせいで鼻が鈍ってるみたいだけど、何となく生臭いような匂い。猫な私には心惹かれるお魚の匂いを感じるような気がするって事は、まさかここは。
「海の上?」
「流石、獣人ですね。大正解ですよ」
赤毛の人が褒めてくれたけど、全然嬉しくないですから。むしろ、更に追い込まれた感じだ。海の上で、牢の中、そして魔石がないとくれば、万事休すだ。
「ねえ?これからどうなると思う?」
「これから?えっと、身代金を要求?って違うか」
「違いますね〜。だけど、利益を得るって点は同じです。つまり、貴女を売ってお金を稼ぐんですよ!まあ、正確には『貴女達』ですが」
「他にも人が?」
「そうです。獣人っていうのは、差別を受ける一方で、愛好家がいたりするんですよね〜。そんな人達が、貴女達の事を求めてるんですよ。だから、私達が捕まえて売るんです。まあ、需要と供給ってやつですね〜」
『ハハハハハ』と笑う赤毛の人を見て、段々腹が立ってきた。
ーなぁーにが、『需要と供給』だ!あーーー、殴ってやりたい!!