フィデルさんとの遭遇とレイさんへの報告
私はそのままレイさんのいる海の真珠亭に向かう事にした。
私が今いるここからは、歩いて10分くらいで行ける。何か手土産を持っていったほうが良いかな?私は向かう途中にある果物屋さんで、ぶどうを買った。リンゴと迷ったんだけど、皮むきしなくても食べられるものが良いかなと思ってぶどうにしたのだ。
海の真珠亭に着いた。海の真珠亭に入るのは初めてだ。初めての場所って、ちょっとドキドキするよね。
キィっとドアを開けると、チリンチリンとドアベルが鳴った。
そのまま受け付けの所まで行くと、お姉さんが出迎えてくれた。
「こんにちは」
「こんにちは。レイさんていう方、いますか?」
「レイさん?」
お姉さんが手を頬に当てて、小首を傾げている。もしかして、もう行っちゃったの?それとも、他の名前を使ってるのかな?それともそれとも、宿屋の守秘義務?
どれかな?会えないのかな?
「あの、名前を聞いても良いかな?」
「あっ、すみません。私はエミリアって言います」
「エミリア、ね。ちょっと待っててくれるかな?」
「はい。分かりました」
お姉さんがどこかに行こうと、受け付けから出ようとした時、誰かを呼び止めた。
「あっ、フィデルさん!良いところに」
「どうかしましたか?」
「はい。こちらのエミリアが、レイさんに会いたいそうなんです」
「ほう。分かりました」
フィデルさんと呼ばれた人は、焦げ茶色の髪に蒼い瞳、そしてその瞳の上には眼鏡をかけている。
ーおお!眼鏡男子!
って、そうじゃなかった。お姉さんの口ぶりからして、この人はレイさんの関係者だ。レイさんが言ってた『仲間』の人なのかな?
フィデルさんは、私の頭のてっぺんから足のつま先までみると、言った。
「へ〜、本当に黒猫なんですね」
その言葉に、私は一気に警戒した。それは、耳と尻尾からも見て取れるだろう。悲しい事だけど、よくラノベとかにある様に、獣人を蔑視する人もいたりするのだ。ここは獣人を受け入れてくれている国だから、私は安心して暮らしていたけど、それでも気をつけなければいけない。
例えフィデルさんがレイさんの仲間でも……。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ただ、レイから聞いていた通りだと思っただけですから」
「えっ?」
「熱で倒れたところを助けて貰ったと聞きました。お礼が遅くなって、すみません。私からもお礼を言いますね。レイを助けて下さり、ありがとうございました」
「いえいえ!えっと…、どう、致しまして…です…」
お礼を言われてびっくりしたから、返事がしどろもどろになってしまった。
「レイは今、部屋にいます。案内しますね」
「あ、ありがとうございます」
私は歩き出したフィデルさんに付いて行った。レイさんが泊まっている部屋は2階にあるらしく、階段を登る。レイさんの部屋に行く間、私は今のレイさんの体調を聞いてみた。
「レイさんはお元気ですか?」
「はい。もうすっかり元気になってますよ」
「それは良かったです」
また体調を崩したりしていないようで、一安心だ。私がほっとしていると、レイさんの部屋に到着したようだ。
「レイ!お客様ですよ。今、大丈夫ですか?」
「客?」
「はい。エミリアです」
「エミリア!?」
レイさんはすぐにドアまで来て開けてくれた。
「エミリア。どうしたんだ?」
「今日はちょっと報告がありまして…お時間大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。じゃあ、場所は食堂でどうだ?」
「大丈夫です」
私はレイさんに案内されて、再び1階に降りた。ちなみにフィデルさんは、私をレイさんの部屋に案内するや、『では』と行ってしまった。もうちょっと挨拶すれば良かったかな?
食堂に着くと、レイさんが飲み物と軽食を注文してくれた。
「ここはオレが払うから、気にせず食べてくれ」
「ええっ!私も払いますよ」
「いや、この間のお礼だと思ってくれ」
「お礼はもう頂きましたよ」
「いや、気にするな」
「気にしますよ!…ふぎゅっ!!」
私が抗議の声を上げると、レイさんに鼻をつままれた。
「こういう時、子供は黙って食べてれば良いんだ」
そう言うと、レイさんは私の鼻を放してくれた。
「うう〜。ありがとうございます。じゃあ、良かったらこれを食べて下さい。手土産なんですけど」
「ありがとう。頂こう」
私がぶどうを手渡すと、レイさんがお姉さんを呼んで、ぶどうを洗ってくれるようにお願いしてくれた。その後、お姉さんが、お皿に盛り付けたぶどうを持ってきてくれ、私達は2人でぶどうを食べた。
「それで、報告とは?父親が見つかったのか?」
「いえ、それについては何も進展がありません」
「そうか」
「報告っていうのは、仕事の事なんです」
「仕事?確か、伯父の店の手伝いだったか?」
「いいえ。それとは違うんです」
レイさんは訝しげに眉を寄せた。
「違う?」
「はい。あの時は言わなかったんですけど、父の消息について何も報せがないようだったら、父を探しに行こうと思ってるんです。それで、船に乗るお仕事を見つけたんですよ」
「それは、大丈夫なのか?変な仕事じゃないだろうな?」
「変?変な仕事って何ですか?」
私が首を傾げると、レイさんがあたふたし始めた。一体、何なんだろうか。変なレイさん?
「ああ、いや、うん…」
「?。仕事内容は船に乗る女性のお客様の補助ですから、変なお仕事じゃありませんよ?」
「そうか。なら、良い」
「はい。それで、面接を受けて一次面接が受かったんですよ!だから、嬉しくて、レイさんに報告したくなっちゃいまして。…すみません。ご迷惑じゃなかったですか?」
「いや、大丈夫だ。報告してくれてありがとう」
「エヘヘ。良かったです」
ーレイさんの迷惑になってなくて、良かったー。