お仕事に応募します。
レイさんと別れた私は、1人で家の中に戻って行った。誰もいない家に、たまらなく淋しさを感じる。
だけど、今はこれからの事を考えないといけないから、泣くのは我慢だ。
レイさんには言わなかったけど、しばらく待っても父さんの情報が入らなかったら、父さんを探しに行こうと思うんだ。だから、船に乗る仕事を探そうと思う。
ただ、船に乗る仕事って、男の人の仕事なイメージがあるから、なかなか見つからないかもしれない。いざとなったら、男装してみるのはどうだろうか。案外いけるかもしれない。
それからしばらくの間、伯父さんからの報せを待ったけど、伯父さんからは父さんや父さんが乗っていた船の情報は何もなかった。
こうなったら、船に乗れるお仕事を探すしかない!
私は、お仕事を探しに出掛ける事にした。
街には中央広場があり、そこに看板が立ててある。その看板は、各職業ギルド毎に立ててあり、その職業ギルドの色々な仕事の募集の紙が貼ってあるのだ。看板の前には何人か立って募集の紙を見ている。
私もそこに加わって、紙を見ていく。
それにしても、色々な職業ギルドがあるね。
ーうーん。船に乗りたいって漠然と考えてたけど、私は何ギルドの仕事を探せば良いのかな?
造船は違うし、漁師も違う。船旅をする船に乗りたいんだけどなー。うーん、観光業になるのかな?船に乗れるなら、皿洗いでもデッキ掃除でも頑張るんだけどなー。
次々に募集の紙を見て探していくと、運の良い事に私が探している様な仕事が見つかった。それは、運輸ギルドの仕事だった。
ーああ!運輸ギルド!
そんなギルドがあった事を初めて知ったけど、知ったら納得した。ギルドマークには、馬車と船が描かれている。確かに馬車も船も荷物を運ぶし、人も運ぶもんね。
私が見つけた求人募集には、こう書かれている。
『旅客船でのお仕事です。女性のお客様への応対や給仕をお願いします。応募条件:14歳〜18歳までの女性』
他にはお給金や待遇なんかも書かれている。
ーおお、これぞ私が探し求めていた仕事!応募条件も満たしてるし、この仕事に応募しよう!
そうと決まれば、急げ急げ。あれ?でも、これからどうしたら良いのかな?履歴書って必要?と言うか、履歴書ってこの世界に存在するの?
2・3回読み返しても、必要な物とか書いてない。どうしようかなー。
ーああ〜、分からない事がいっぱい!伯父さんのお店では履歴書って見た事ないしな〜。
こんな時には伯父さんに相談したいけど、それは出来ない。なぜなら、『船に乗る仕事をしたい』『父さんを探しに行きたい』って話してないから。言ったら、絶対反対されるもの。今だって、私を心配して『家に来い』『一緒に暮らそう』って言ってくれてるんだよ。それなのに『父さんを探しに行きたい』なんて言ったら、絶対に心配させちゃうよ。
伯父さんも伯母さんも、本当に良い人達なんだよねー。大好きです。だからこそ、迷惑はかけられないよ。
伯父さんに相談出来ないならどうしようかなと考えて、ちらっとレイさんの顔が浮かんだ。けど、レイさんに相談するのはまだ早い。仕事が決まったら、今後の事や旅について相談したいのだ。
レイさんに相談するのもダメならば、もう直接聞きに行くしかない!
私は自分の着ている服を見下ろした。
ーうん、これなら大丈夫。
こざっぱりとした、私が持っている中ではキレイ目なワンピース。清潔感やきちんと感はそれなりにある服だと思う。
私はこのまま募集しているお店?事務所?会社?まで行く事にした。
募集の紙で場所を確認して、向かって行く。幸い、ここからそんなに遠くなかった。事務所(と呼ぶ事にする)は、港の近くにあるようだ。まあ、旅客船の事務所だもんね。港の近くにあるよね。
事務所の前に着くと、一気に緊張してきた。うう〜。けど、ここでためらう訳にはいかない!
ーええい!女は度胸!
コンコンとノッカーを鳴らす。そのノッカーはイカリの形をしていた。流石、旅客船の事務所!お洒落だ。ちょっとすると、中から声が聞こえた。
「はーい」
「すみませーん。お仕事の募集の紙を見て来たのですがー」
「ちょっと待って下さいね。今、行きます」
「分かりましたー」
ドアが開いて現れたのは、まだ若い赤毛の男の人だった。年はレイさんよりは上だと思うけど、25・26歳くらいかな?ちなみにレイさんは18歳〜22歳くらいだと予想している。日本の一般的な大学生くらいかな、と。
「お待たせしました。こちらにどうぞ」
いきなり事務所に通されそうになったから、私は慌てて言った。
「いえっ!応募に必要な物があるか聞きに来ただけなんです!」
「ああ、そうですか。でも、大丈夫ですよ。中でお話ししましょう」
「分かりました」
事務所の中に入ると、イスを勧められた。お礼を言ってから座る。
「それで、必要な物との事ですが、特に必要な物はありません」
「そうなんですか?それでは、名前とか年齢とか書いた紙とかは用意しなくても良いのですね」
「そうですね。面接をした時に名乗って貰いますので、その時にこちらで紙に書いたりはしますが、用意はしなくても大丈夫ですよ」
「分かりました。ありがとうございます」
どうやら履歴書は必要ないみたい。私がお礼を言って立ち上がろうとすると、赤毛の男の人に言われた。
「どうです?このまま面接を受けて行きませんか?」
「えっ!これからですか?」
「ええ。せっかく来られたんですし」
急な話で驚いたけど、応募する気はあるんだから、このまま面接を受ける事にした。面接するのは、この赤毛の男の人だけみたい。結構偉い人なのかな?
「では、名前を教えて下さい」
「はい。エミリア・マガニャと申します」
「年は何歳ですか?」
「14歳になります」
「なぜ、この仕事に応募したのですか?」
「ええーと、色々な所に行ってみたいからです」
応募動機を聞かれて、ちょっと焦っちゃった。けど、本当の事は言わないでおいた。何となく、言いたくなかったのだ。
「そうですか。この仕事をしたら、家から離れる事になりますが、ご家族は大丈夫でしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「分かりました。今回の面接は合格です。次、また面接がありますので、また来て下さいね」
「分かりました」
私が頷くと、次の面接の予定日時を告げられた。忘れないように、気をつけようっと。
「ありがとうございました」
「では、また明後日にお待ちしています」
「はい。宜しくお願いします」
まさかいきなり面接をした上、また面接があるとは思ってるなかったけど、合格出来て良かったー。嬉しいし、ほっとしたー。
だから、誰かに話したくて聞いてほしくなったのだ。私は『仕事が決まってから相談する』という予定を変更して、レイさんのところに行く事にした。