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レイさん

わんわん泣いてちょっとすっきりした私は、ぽつぽつと事情を話した。話す事で、自然と現実を直視する事が出来た。さっきまでの私は、完全に現実逃避してた。行方不明なのは事実なんだから、私はこれからの事を考えなくちゃならなかったのに。


「そうか…。何か力になれる事はあるか?」

「いいえいいえ!そういうのは、いいんです。私、力になってほしくて話した訳じゃありませんから」


『お気持ちだけで充分ですよ』と手を振りながら言ったら、白い石を差し出された。この白い石は風の魔石だ。


「これは?」

「風の魔石だ」

「いや、見れば分かりますけど」

「そうか。これをやる」

「はい?」

「風の魔石をあげると言っている」

「はあ。なぜですか?受け取れませんよ」


魔石は、大きさや品質によって価値が変わってくる。『あげる』と言ってくれている魔石は、結構大きい魔石だ。お値段もそれなりにする。

当然、受け取れません。


「それこそ、なぜだ?これは助けてくれたお礼だ。この魔石にはオレの魔力が登録されている。何かあったら、これを使って連絡してくると良い。力になろう」

「えっ!こんな高価な物、頂けませんよ!」

「なぜだ?お礼だと言っているのに。あれなのか?オレからのお礼は受け取れないのか?」

「何でそうなるんですか!違いますよ」


その理屈は何なんだ、一体。これは、あれなのかな?『オレがお酌した酒は飲めないのか』ってやつなのかな?

そえまで言われたら、断るなんて出来ない。断ったら失礼になるからね。


「分かりました。有り難く頂きますね」

「ああ、それで良い」


男の人は満足気に頷いた。


「じゃあ、こっちの魔石にも魔力を登録してくれ。オレの方でも情報を集めてみる。何か情報が入ったら、連絡する」

「本当ですか!?ありがとうございます!!」


私は嬉しさのあまり、男の人の手をギュッと握った。


「…ああ。これを」


差し出された風の魔石をギュッと握りしめて、私の魔力を流し込む。ピカっと光れば、私の魔力登録は完了だ。私はそっと魔石を返した。

これで、お互いの魔力が登録されている魔石をお互いが持っている事になった。


「ありがとうございます。何か分かったら、宜しくお願いします」

「分かった」


その後、落ち着いた私はお茶の用意をして、2人でお茶を飲みながら父さんの話をした。父さんの歳や背格好を教えたり、父さんの似顔絵を描いて顔を教えたりしたのだ。ここで、私の画力が試される事となった。画力は、まあまあってところかな…?写真がないのが不便すぎるよ。私の絵でしか父さんの顔を教えられないなんて、恐ろしすぎる。どうか、私の絵が父さんに似てますように。


父さんの話以外にも話をしたよ。


「あの。ずっと聞きたかったんですけど…。………な、名前を教えて下さい!」

「名前?言ってなかったか?」


名前は隠してるのかもしれないとか、私には教えられないのではないかとか、色々考えながら質問したんだけど、この人がコテンと首を傾げたのを見て、『ああ、名乗る事を意識してなかったんだな』と悟った。

名乗り忘れというか、最初に自分のおかれている状況を確認する事に専念してたから、名乗る事を考えてなかったに違いない。


「はい。言われてません」

「そうか。それは失礼した。オレはレイだ」

「レイさんですね。改めまして、宜しくお願いします」


こうして、私はレイさんのお名前を無事ゲットする事が出来たのであった。良かった。いつまでも『男の人』とか『この人』じゃ不便だもんね。

お茶の後、レイさんには休んで貰って、私は晩ご飯の準備をした。レイさんの体調が大分良くなったみたいだから、元気が出る料理にしようかな。


晩ご飯は、2人で食べた。私が淋しかったからだ。お昼寝をしてもう元気になったからと、レイさんが台所まで来てくれた。

晩ご飯は、普通のパンとシチューとサラダにしたよ。鳥肉入りです。

レイさんは食欲があるらしく、ちゃんと食べられていた。良かった。食欲があるなら安心だ。


「それで、これからどうするつもりだ?」


晩ご飯の最中に、レイさんに聞かれた。私は晩ご飯のシチューを煮込んでいる間、これからの事を考えていたから、レイさんの質問にちゃんと答えられた。


「とりあえず、働き口を探したいと思っています」

「そうか。仕事の当てはあるのか?」

「うーん。あると言えばあります。伯父がお店をやっているので、お世話になる事は出来ると思います」

「分かった。何か困った事があったら、いつでも連絡してくれ」

「ありがとうございます」


ご飯の後、私が片付けをしている間にレイさんにお風呂に入って貰った。お風呂の前に熱を確認したけど、もうすっかり下がっていた。良かった。

レイさんの後に私もお風呂に入って、就寝した。


次の日、朝ご飯を2人で食べた後、私はレイさんと挨拶を交わした。

レイさんが、仲間の人のところへ戻る事になっていたからだ。


「レイさん、色々とお世話になりました」

「いや。世話になったのは、こちらの方だ」

「いえいえ。大したおもてなしも出来なかった上に、ご迷惑をお掛けしてしまいましたし…」

「迷惑?何の事だ?迷惑なんて掛けられた覚えはないが」


レイさんの様子を見ると、本気でそう思っているのが分かった。私が大泣きした事が迷惑になっていないなら、良かった。


「そうですか。ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとう。こんな得体の知れない奴を看病してくれて」

「いいえー」

「でも、1つだけ言わせて貰うと、こんな得体の知れない男を家に入れてはダメだぞ」

「えー?さっきと言ってる事が違うじゃありませんか」


私は思わず口を尖らせた。


「看病してくれたのは感謝しているが、危ない事には変わりがない。オレが危ない奴だったら、どうするつもりだったんだ?」

「えっ?えっとぉ。その可能性を考えてませんでした…」


レイさんの質問に、私はしどろもどろに答えた後、項垂れた。私の耳と尻尾も、一緒に垂れる。ふにゃん。

レイさんは、私の答えにため息をついた。


「はぁ。心配だ。今はエミリアしか家にいないんだから、これからは知らない奴を家に入れたらダメだぞ」

「はーい、分かりました。でも、大丈夫ですよ。こんな事、2回も3回もあったりしませんから」


へへっ。何だか変な感じだ。こんな風に心配して貰うなんてさ。レイさんって、父さんみたい。


「はぁ。心配だ。オレはしばらく港の近くにある『海の真珠亭』にいるから」

「ああ、あそこに滞在してるんですか。という事は、レイさんはこの街の人ではないんですね」

「そうだ。この街を離れる時は連絡する」

「分かりました」

「エミリア。何かあってもなくても来ても良いから。オレも様子を見に来ても良いか?」


レイさんのその台詞に、私の耳と尻尾はピンと立った。嬉しいからだ。


「はい!もちろんです!嬉しいです」


レイさんの事を口数の少ないクールなお人かと思ってたけど、そうじゃないみたい。意外と面倒見の良いお兄さん気質の人なのかも。


レイさんは私の頭をくしゃっと撫でると、『じゃあ、またな』と言って、去って行った。


「はい!またー!」


私はレイさんの後ろ姿に向かって、ぶんぶんと手を振った。

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