看病と目覚め
チュンチュン。
ーああ、朝か。
鳥の鳴き声で、朝が来た事に気がついた。そういえば、明るくなってるや。
どうやら、少しウトウトしてたみたい。眠たい目をこすってベッドを見ると、男の人はまだ目を閉じていた。でも、運び込んだ時よりかは呼吸が穏やかになっている。良かった。
おでこに乗せたタオルを取って、手で熱を計ってみる。
ーーうーん。まだ少し熱いかな?
私は冷やしてある替えのタオルをおでこに乗せた。
「これで良し」
私は1つ頷くと、両手を組んで大きく伸びをした。うーーーん。
身体が少しほぐれたところで、席を立つ。これから台所に行って、朝食を作るのだ。この人が起きるかもしれないから、この人の分も作らないと。
この人の分はミルクパン粥にしようかな。本当は普通のお粥とかおじやが良いんだけどねー。何せお米がないものだから。
ーあ〜、お米が欲しい。
日本の記憶が戻ってからというもの、和食が恋しいと思ってた。けど、今日この時ほどお米が欲しいと思った事はないよ。
あっ、でもこの人はお米に慣れてないかもしれないね。なら、パン粥で大丈夫か。むしろ、パン粥がほっとする味かもね。
こうしてる間にもあの人が起きちゃうかもしれないから、私は急いで朝食を作って食べた。ちなみに私の朝食はベーコンエッグを乗せたトーストと牛乳だ。
んぐんぐ食べて、ゴクゴク飲む。
「ぷは〜」
口を拭って、挨拶をする。
「ごちそうさまでした」
これで朝食は完了。マッハで平らげました。
お次は、ミルクパン粥作り〜。牛乳を小鍋に入れて温めて、耳をとった食パンをちぎって鍋に投入ー。後は、お好みでハチミツやお砂糖を加えます。あの人の好みが分からないから、今はノー甘味で。起きたら聞いてみましょう。
父さんの部屋に戻ると、男の人はまだ寝ていた。とりあえず、着替え用に父さんの服をタンスからだして置いておく。さて、これからどうしようか。
ーうん、お風呂に入ろう。
忘れてたけど、今の私は昨日の服のままの状態だ。この人が起きる前にお風呂に入っちゃわないと。
私は急いでお風呂場に向かった。浴槽にお湯を溜めていく。その間に自分の部屋に戻って、着替えを用意すると、再びお風呂場に向かう。
戻ると、お湯はまだ浴槽から溢れてはいなかった。
ーーセーフ!
お湯を止めて、急いでお風呂に入る。
「ふわぁ〜」
気持ちが良くって、思わず声が漏れた。はぁー。朝風呂も良いもんだよねー。
お風呂を終えると、ドライヤー的魔道具で髪を乾かす。
髪が乾いたら、急いで父さんの部屋に戻った。
「まだ寝てる」
おでこのタオルを取り替える時に熱を計ると、まだちょっと熱い気がした。
「もうちょっとかな?」
新しくタオルをおでこに乗せて、次に顔や首筋を冷やしたタオルで拭いていく。すると、いきなりタオルで冷やっとしたからか、男の人の顔が不快そうに歪んだ。
「おおっと、ごめんなさい」
急いでタオルを離したら、表情が元に戻った。良かった。
私は、男の人の顔を拭いた時にかかっちゃった髪を、顔からそっと払った。するとその時、今まで閉じていた瞳が開かれた。
その瞳の色はキレイな藤色だった。
その瞳が私の顔に焦点を結んだ瞬間、私は息をのんだ。
ーキレイ。
目を閉じている時でも、『整った顔をしているな』と思ってた。けど、そのキレイな瞳を開けると、より一層美形度が増した。
「……誰だ?」
男の人からの第1声はこれでした。まあ、当然だね。
「私はエミリアです。エミリア・マガニャ。貴方は私の家の前で、高熱で倒れたんですけど…覚えてます?」
「倒れた…?」
ああ、うん。この様子じゃ覚えてはいないんだろうな。
「そうです。私は家の中にいたんで、その場面を目撃したわけじゃないんですけどね。ドサっていう音が聞こえて、外を見てみると貴方が倒れてたんです」
「……なるほど。覚えてない。やたらと寒かったのは覚えてるんだが……」
「それは覚えてるんですね。でも、寒気がしてたのなら、ふらふら出歩いちゃダメですよ。それで、今は具合はどうですか?熱は大分下がったみたいですけど」
「ああ、良くなった」
「それなら良かったです」
その応えに安心して、私はニッコリと微笑んだ。