表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王は魔王の座を目指す  作者: ぷっつぷ
第12章 ミュールンの戦い
96/131

第12章3話 合流

 ケーレスから南へ約3000キロ。人魔戦争の激戦地である南部地峡の付け根付近に、ティエラミュールンは存在する。そしてその上空に浮遊するのが、空中都市ミュールンだ。

 スタリオンに乗って魔王たちがティエラミュールンに到着してから、すでに10日が経っている。魔王とラミーは、今日もヤクモたちを探すため、ティエラミュールンの街を散策していた。


「57代勇者が作りし『ポーロウニアフィールド』、空中都市ミュールン。そこを勇者の魔力の封印場所に選ぶとは、人間界も存外分かりやすい」


 小雨が降る中、道行くまばらな人々に紛れ、街を歩く魔王の言葉。ラミーはあくびをしながら、考えを巡らせ呟く。


「過去の勇者の加護を期待したんでしょうか……」

「そんなところだろう。仮に戦闘となっても、被害は少ないであろうしな」


 強大な力を前にすると、生物はさらに強大な力に頼ろうとする。こればかりは、魔族も人間も変わらないようだ。加えて、ミュールンはほぼ無人の都市である。ラミネイの惨劇が繰り返されることはない。


「それにしてもそれにしても、晴れていれば、上空にミュールンの街がドカーン! と見えて、いつもは絶景なのに……今日はあいにくの雨ですね」


 灰色の雨雲を見上げて、残念そうな表情をしたラミー。彼女の言う通り、晴れた日のティエラミュールンから空を見上げれば、地面を木の根のようにぶら下げる、空中都市ミュールンを見ることができたのだ。

 ティエラミュールンへの到着から昨日までの9日間、晴天が続き、魔王たちは常にミュールンの下にいた。ところが今日に限って、魔王たちは雨雲の下にいる。そして、そんな日に限って魔王は、探していた3人を見つけ出すのである。


「絶景は見ることができなかったが、代わりに奴らが現れた」


 馬を連れ、ローブに身を包み、街道を堂々と歩く3人。立派な剣を携えた、長身の2人の女性と、2人の女性にこき使われる1人の男性。

 3人のうちの1人から感じる強大な魔力は、間違いない。魔王はようやく、ヤクモたちを見つけ出したのだ。ラミーもヤクモたちに気がつき、満面の笑みを浮かべてヤクモたちのもとへ駆けた。


「ヤクモさんヤクモさん! 15日ぶりですね!」

「我は待ちくたびれたぞ」


 いつもと変わらず、魔王はマントをひるがえし、ラミーは無邪気に笑った口から小さな牙をのぞかせ、ヤクモたちに話しかける。一方で、ヤクモはため息をつき、ルファールは表情を全く変えず、パンプキンは分かりやすく驚いていた。


「ど、どういうことッスか!? なんで魔王さんたちがここに!?」


 大声で驚くパンプキンに、道行く人たちは訝しげな表情。ヤクモは気にせず、魔王を睨みつけ言い放つ。


「今度は誰を脅して、ここに来たの?」


 さすがに長く魔王と共にいたヤクモは、どうして魔王がここに来られたのか、ある程度は想像ができるらしい。魔王はニタリと笑い、答えた。


「共和国議会だ。人間界の王たちは、我の質問に快く(・・)答えてくれた」

「あっそ」


 自分から質問しておきながら、興味のなさそうな反応を示すヤクモ。彼女はそれ以上は何も言わず、馬を連れ、魔王の横を素通りする。

 突然魔王が出現し、だが魔王を無視して先を急ぐヤクモに、パンプキンは混乱した様子だ。


「あれ? もう行っちゃうんスか?」

「私たちには急ぎの用があるだろ」

「ルファさんの言う通り。魔王に構ってる暇なんかない」


 ただ前だけを見て、歩を進めるヤクモとルファール。パンプキンは右往左往しながら、ヤクモに付いていくことしかできない。魔王に背中を向けるヤクモたちに、ラミーは慌てて呼びかけた。


「待ってくださいヤクモさん! 私たちは、ヤクモさんを助けに来たんですよ!」


 このラミーの言葉を聞いて、ヤクモたちは振り返り、足を止める。ラミーは再びヤクモの側に駆け寄って、話を続けた。


「ミュールンに行くには、共和国軍の許可を得て、飛行魔機に乗らなきゃいけません。今のヤクモさんにそれは難しいです。でもでも、私たちなら力になれます!」


 つまり、魔王と共に行動した方が魔力を取り戻しやすいという説得だ。しかしヤクモは、小さく笑って空を見上げた。


「ラミー、ごめん。私たち、魔王の力は借りたくないから。人の死が当たり前になるの、嫌だから」


 小雨に溶けて交じってしまいそうな小さな声。かすかに聞こえたヤクモの言葉に、魔王は大きなため息をついた。そして魔王は、ヤクモの顔をじっと見て、冷酷に言う。


「人の死が当たり前になるのが嫌、か。今更であろう。貴様は何人の魔族を、何人の人間を殺してきた。貴様にとって、人の死はすでに当たり前の出来事だ」

「……分かってる」

「分かっているのならば、我の助けを拒絶する必要もあるまい。それとも、他に理由があるのか? まさか、勇者として我を殺すために魔力を取り戻そうとしているのか?」

「違う!」


 強く否定するヤクモ。彼女は拳を握り、整理されていない心から、魔王の疑問への答えを引っ張り出した。


「別に、あんたを殺そうとは思ってない。あんたを殺したら、私に居場所はなくなるから、それはできない。私はただ、もっと強くなって、守れるものを増やしたいだけ」

「勇者の力で、何を守るつもりだ」

「ええと……例えば……ケーレスとか」


 随分と曖昧な理由、決意だ。思ったことをそのまま口にするだけのヤクモに、魔王は呆れ果てる。


「ならばなおさら助けを拒絶する意味が分からない。ケーレスを守りたいのであれば、我と共に戦うことこそ、最良の道ぞ。まさか貴様、マットの死に怖気づいたのではないか? この世界に召喚されはじめて仲間を失い、気が動転しているのではないか?」


 魔王にはとても、ヤクモが冷静だとは思えないのである。彼女は、心の動きに惑わされすぎのように感じるのである。その原因が、マットの死であるのは確実であろう。

 おそらく、ヤクモ自身もそれに気づいている。だからこそ、彼女は魔王の説得を受け入れた。


「たぶん、そうかもしれない。結局、あんたと一緒にいる方がうまくいくのかもね」

「ヤクモさん……」


 俯き、癖っ毛気味の髪から雨粒を垂らすヤクモは、必死で人の心(・・・)を抑えつける。必死で、現実だけを見ようとする。パンプキンはそんなヤクモを心配するが、一度吹っ切れたヤクモの変わり身は早い。


「協力って、何してくれるの?」


 先ほどまでの反発は何処へやら。協力の中身を確認するヤクモに、魔王は路地に向かって歩き出した。


「こっちだ」


 路地を歩き、しばらく進んだ先。建物に囲まれた小規模な広場に到着した魔王たち一行。広場にはスタリオンが置かれ、ベンがスタリオンのエンジンを点検し、暇を持て余したダートはクローゼットを作っている。


「おお! ベンさんにダートさんじゃないッスか!」

「パンプキン、元気そう。ヤクモさんも、ルファールさんも、元気そう」


 再会を喜ぶダートとパンプキン。だが、ヤクモはベンの姿を見て、複雑な表情をしていた。


「ベンさん、来ちゃったんだ……」

「勇者さんよ、変に気を遣うことはない。らしくないことはせんで良い。だいたい、わしは気を遣われるような男じゃない」


 明るく気丈に振る舞い、ヤクモを安心させようとしたベン。ヤクモもベンに言われ、苦笑いを浮かべながら、冗談めいた口調で気持ちを切り替える。


「どうせスタリオン使うなら、最初からベンさんに頼めば良かった。その方が疲れないし」

「でも、15日間の旅、結構楽しかったッスよ」

「たまには旅も悪くないものだ」


 ヤクモの言葉に続く、旅についてのパンプキンとルファールの感想。パンプキンはまだしも、ルファールまでもが感想を口にしたのは、魔王からしてみれば意外であった。もちろん、ルファールの表情も口調も、雨粒より冷たいのだが。


「スタリオン、準備、できてる。いつでも、行ける」

「揃いましたね揃いましたね。それじゃあ気を取り直して、出発です!」


 未だ魔王とヤクモの関係改善は十分ではなく、2人とも会話を交わすことはない。それでも、魔王とヤクモ、ラミー、ルファール、ダート、パンプキン、ベンは揃ったのだ。彼らはいつものようにスタリオンに乗り込み、ミュールンへと向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ