表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王は魔王の座を目指す  作者: ぷっつぷ
第9章 アプシント山の戦い
74/131

第9章7話 アプシント教会の戦い III

 柱が倒れ、土煙に覆われる教会内部。面食らった騎士や魔族が一瞬だけ戦闘を中断する中、魔王の側にヤクモがやってくる。そんなヤクモを追うのが、頰を赤らめ、白いローブを返り血に染めるリルだ。


「ヤクモ姉! ヤクモ姉――邪魔! そこどいて!」


 ヤクモまでの道を邪魔する魔族に、リルは鬼のような形相をしていた。そして彼女は、魔族の腹に杖を刺し、返り血を浴びながら氷魔法で魔族を体内から凍らせ、粉々に砕いてしまう。

 だが次の瞬間には、リルは再びヤクモに頰を赤らめ笑顔を向けるのだ。返り血とヤクモへの愛で、リルは真っ赤に染め上げられている。


「ヤクモ姉! あたしを見て!」

「怖い! あの娘やっぱり怖い!」


 心底怯えたヤクモは、リルから離れようと再び駆け出した。ただ、ヤクモもヤクモで、逃げ道を塞ぐ敵を容赦なく斬り倒していく。魔王は苦笑いを浮かべながら、すぐ隣にいた騎士の首を斬り落とした。

 ダートのおかげで、敵の数はあとわずか。仕上げのため、魔王は残りの魔界軍と騎士団に剣を振るう。


 祭壇では未だ、5人の魔族と3人の騎士団が命のやり取りを続けていた。ここに魔王も参加、手始めに魔族の1人を斬り倒す。

 第3者の出現に狼狽した4人の魔族は、その隙を突かれ、騎士団の攻撃によって3人にまで減る。一方で騎士団も、魔族からの反撃に1人を撃破されていた。


 魔王が攻撃せずとも、敵は減っている。魔王は容赦なく、もう1人の魔族が振ったナイフを避け、その魔族の腹を裂いた。

 仲間の死に激怒した魔族は、騎士を忘れ2人がかりで魔王を襲う。魔王は魔族の1人が振り上げた棍棒を剣で受け止めた。だが怒りを原動力にした魔族の力は強く、魔王は腕に力を込め、足は地面に拘束される。現在の魔王は、もう1人の魔族の攻撃を回避できない。

 

 動けぬ魔王に剣先を向け、死を宣告する魔族の1人。しかし死を迎えたのは、その魔族自身であった。彼の背後でダートが大きく腕を振り、魔族の1人を潰してしまったのである。

 魔王の危機を前にして、ダートはさらに暴れる。彼の攻撃により、棍棒を持った魔族も、あわよくば魔王と魔族を斬り倒そうとしていた騎士も、肉の塊に姿を変えた。


「すまぬな。油断した」


 魔族の攻撃から解放され、ダートに左手を掲げ謝意を示す魔王。そんな彼のもとに、ヤクモに蹴り飛ばされた騎士が落ちてくる。宙を舞い、地面へと近づく騎士を、魔王は切り刻んだ。騎士は複数の(・・・)鈍い音を鳴らして地面に落ちる。


「魔王様、攻撃、したヤツ、許さ、ない!」


 教会内ではほぼ無敵のダートは、魔王のため、まだまだ暴れるつもりらしい。魔界軍や騎士団も、彼の前では誰もが怖気付き、腰を抜かし、数秒後には肉塊となってしまっていた。


 祭壇を降りた魔王。倒れた柱の残骸付近で、彼はルファールとマットに合流した。ルファールは目にも留まらぬ速さで風を切り、魔界軍と騎士団を斬っている。犬の姿をしたマットは、敵を噛み砕き、口から肉を吐き出し、叫んだ。

 

「かかってきやがれってんだ! このマット様が相手してやる!」

 

 大口を叩くマットに、興奮状態の魔界軍や騎士団が飛びかかった。マットは敵の攻撃をすんででかわし、敵の足を噛みちぎる。

 足を負傷し動きの鈍った敵集団に斬り込むのはルファールだ。ルファールは、相手に姿も見せぬほどのスピードで剣を振り、敵集団を刻んでいく。これには敵も阿鼻叫喚し、悲痛な叫び声が教会内に響き渡った。


 マットとルファールが片付けようとする敵集団が、教会に残った最後の敵集団らしい。ヤクモも2人の戦闘に参加するため、剣を投げて敵の1人を串刺しにした。

 武器を投げ丸腰のヤクモは、敵集団の真ん中に突撃。床に落ちていた棍棒で魔族の頭を殴り、騎士の鎧を破壊する。ヤクモの攻撃に狼狽した敵集団は、いよいよ戦闘体勢を崩し、ルファールの恰好の餌食となった。

 

 残った敵は数人。魔界軍は騎士団を壊滅させ、せめてマントをひるがえす偉そうな男を殺そうと、魔王に最後の戦いを挑んだ。

 だが、魔王の目の前にまで到達できたのは、1人のリザードマン族の男のみ。他の者たちは皆、ダートの重い殴打に吹き飛ばされ、原形を残さず散らばってしまう。

 最後の生き残り、リザードマン族の男は、興奮とも虚無とも思える雄叫びをあげ、魔王に剣を振る。対して魔王は、男に右手を突き出し、微笑を浮かべながらアクアカッターを発動させた。男の咆吼したままの頭部は、静かに地面に落ちる。


 教会での戦闘がはじまって十数分。民間人は逃げたか死んだか、教会内にはもういない。騎士たちは努めを果たし、魔界軍と魔王たちの前に全滅。魔界軍もまた、魔王たちの攻撃で全滅する。

 気づけば教会内は、魔界軍と騎士の死体ばかり。笑みを浮かべた魔王、擦り傷まみれのヤクモ、血に濡れた剣を握るルファール、潰れた肉を踏むダート、疲労から床に座り込む獣人化したマットは、数少ない生き残りとなっていた。


「ああ、ようやっと終わったぜ」

「騎士も魔族も、片付いたね」

「魔王様、まだ、敵、いる」

「分かっている」


 魔界軍と騎士は全滅した。だが、魔王たちの他にも戦いの生き残りはいる。

 

「あとは、第3魔導中隊だけか」


 魔導師という性格上、戦地からは少し離れて攻撃を行っていた第3魔導中隊。彼らだけは、騎士と魔界軍、そして魔王たちの凶刃から生き延びたのだ。

 もちろん、リルも戦いを生き延びた。彼女は騎士が全滅し、魔界軍の死体が大量に転がることなど気にせず、戦闘が一段落したと見るや、一目散にヤクモに向かって駆け出し、ヤクモに抱きつく。


「ヤクモ姉!」

「ちょっと! せめて離れてよ!」

「じゃあ、側にいてもいいの?」

「離れてくれるならね!」

「やった!」


 言われた通りヤクモの体から腕を解き、しかしヤクモと紙一枚の距離に立ち続けるリル。魔王は感情もなく、擦り傷をさするヤクモに対し口を開いた。


「ヤクモよ。其奴を斬って――」

「ああ、その必要はないよ。あたしたち、もう戦うつもりはないから」


 両腕を大きく広げ、リルはそう言った。一体どういうつもりだと不可解に思う魔王。リルは言葉を続ける。


「ヤカモト陛下からの命令でね。あたしたちの敵は魔界軍であって、盟約交渉中の魔王たちは攻撃するな、って言われてるんだ」


 再び登場するヤカモトの名。このリルの言葉によって、魔王はようやくヤカモトの狙いを見抜くことができた。


「あの書簡はそれが狙いか。ヤカモトは、勇者の魔力を取り戻させるつもりであったと……」


 ヤカモトは魔界軍がアプシント教会を襲撃すると知っていた。知った上で、その日に魔王とヤクモをアプシント山へ向かわせた。その理由は、魔界軍と騎士団の戦闘に魔王とヤクモを紛れさせるためだ。

 平和的な勇者への魔力返還は、現状の共和国では期待できない。ヤクモが魔力を取り戻すため、魔王とヤクモが騎士団を攻撃するのもマズイ。では、魔界軍と騎士団の戦闘で、魔王とヤクモの存在を覆い隠せば良い。これがヤカモトの狙いだったのだ。


「というわけで、みんな、教会を封鎖するよ!」


 第3魔導中隊は、ヤカモトの個人的な命令に従い、魔王とヤクモの支援をしに来ただけなのだろう。第3魔導中隊に封鎖されたアプシント教会内部で起きたことは、ヤカモト以外の誰にも知らされないのだろう。

 魔王はヤカモトへの賞賛と警戒から、小さく笑うしかなかった。その傍ら、教会内に残ったリルが、教会の奥にある扉を指差し、言う。


「ヤクモ姉の魔力は、あっちだよ」

「ねえ、なんでリルが私たちを案内してるの?」

「せっかくヤクモ姉に会えたんだから、もっと一緒にいたいな、と思って」


 血なまぐさい場に立っているとは思えぬ、ヤクモとリルの会話。魔王は小さく笑ったまま、しかしどこかため息まじりに言った。


「なんでもよい。案内しろ」


 ヤカモトの狙いは、魔王にも利がないわけではない。これ以上に暴れる気も起きない魔王は、素直にリルの案内を受け入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ