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魔王は魔王の座を目指す  作者: ぷっつぷ
第9章 アプシント山の戦い
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第9章6話 アプシント教会の戦い II

 普段であれば鼻をすすることすら躊躇われる静かなアプシント教会。今日ばかりは魔界軍と騎士団の戦闘により、悲鳴、怒号、雄叫び、断末魔に溢れ、混乱の渦に巻かれている。この混乱を、魔王が逃すはずがない。

 今すぐにでも敵に襲いかかろうとしていた魔王とヤクモ。ところが、ヤクモの行く手をリルが邪魔をする。


「ああ! ヤクモ姉! 見つけた!」


 追い求め続けた人の発見に、リルは満面の笑みを浮かべ、戦闘など忘れてしまったようである。彼女は付近の敵を水魔法で吹き飛ばすと、その隙を利用しヤクモの目の前までやってきて、頬を赤くしながらヤクモに抱きついた。


「あたし、リル・マーリン! 覚えてる? やっと会えたね!」

「ちょ! ちょっと! できれば覚えてたくなかったし、会いたくもなかった!」

「やっぱり近くで見ると綺麗。ああ……このままずっとヤクモ姉の側にいたい……」

「誰か! 助けて!」


 リルに強く抱きしめられたヤクモの、心の底からの叫び。これに応えたのは、少し離れた位置で魔族を叩き斬っていたルファールだ。ルファールはヤクモの叫びを聞くや否や、ブリーズサポートを利用した跳躍でリルに剣先を向ける。

 対してリルは、ルファールの攻撃に感づくと、氷魔法で壁を作り、ルファールの攻撃を防いだ。ルファールが氷の壁を突き破った頃には、リルは数十メートルも後方に下がってしまっている。それでも、ヤクモはリルから解放されホッとしていた。


「ルファさん、ありがとう」

「礼はいらない。早く片付けよう」


 魔族と騎士が入り乱れる教会内部。ルファールの言葉にヤクモも頷き、2人は剣を振り上げた。彼女らに続き、魔王もマントをひるがえし、戦いに身を投じる。


 逃げ惑う200人以上の人々、38人の魔族たち、45人の騎士団、13人の第3魔導中隊、そして4人の魔王たち。彼らは、ミードン像が見下ろすアプシント教会の、荘厳かつ広大な聖堂で、容赦も慈悲もなく命を奪い合う。

 数の上では騎士団が有利だ。だが騎士団は、奇襲を受けた上、200人以上の民間人を守らねばならない。そしてその民間人も、その場にうずくまる、石を手に魔族に殴りかかるなど、予測不能な動きをするものだから、騎士団は混乱。旗色は魔族に有利である。


 数百人レベルが斬り合う中、最も異質な存在はやはり魔王たちだろう。魔王とヤクモであれば、攻撃魔法で敵を一掃することも不可能ではない。それでも戦場は、大規模な攻撃魔法を使う暇すら、魔王とヤクモには与えなかった。


「ああ! もう! 魔法が使えない!」


 ミノタウロスの重い一撃を受け止めながら、ヤクモはそう叫んだ。大規模攻撃魔法のために腕を突き出し、体に溢れる魔力の流れに集中、属性を意識し魔法を打ち出す。この一連の流れが終わる前に、敵の攻撃を受けてしまうのだ。

 同じ理由で、魔王も大規模攻撃魔法は使えない。敵1人を襲う魔法が精一杯である。今の魔王に必要なものは、戦うための剣であった。


 武器すら持たずマントをひるがえすだけの魔王。そんな魔王を魔王とも知らず、カモと認識し、彼に向かって剣を振るハーピー族の1人。魔王からすれば、ハーピー族の1人こそカモだ。

 凶悪な笑みを浮かべて向かってくるハーピー族の1人に、魔王は右手を突き出しサフォケーションを発動した。ハーピー族の1人は窒息し、動きを止め、その場に崩れ落ちる。


「その剣、借りるぞ」


 苦しみに悶えるハーピー族の1人を見下ろし、魔王は彼の持っていた剣を奪い取った。魔王自身が剣を振るい戦うのは、何年ぶりだろうか。


 剣を手に入れた魔王の最初の標的となったのは、ガーゴイルと鍔迫り合いをする騎士だ。魔王は騎士の背後に近づき、剣を振り下ろし騎士の背中を鎧ごと割る。

 謎の男に獲物を横取りされたガーゴイルは呆然とするが、そんな彼は、第3魔導中隊の攻撃魔法に腹を貫かれ、血を撒き散らした。


 すぐに別の騎士が魔王に斬り掛かる。騎士の剣を魔王は己の剣で受け止め、騎士に向かってアクアカッターを発動、騎士の首を落とした。

 振り返った魔王は、その勢いのまま、剣を振り上げるハーピー族の女の胸を切り裂き、女の隣にいたゴーレム族の男に剣先を向ける。

 魔王が剣先を向けた男は、同じく魔王にも剣先を向けていた。2人は剣を3合打ち合うが、この隙に男の背中をヤクモが斬り、男は倒れた。


 ヤクモに獲物を取られてしまい、魔王が残念がる頃。教会入り口に巨大な影が現れ、数人の騎士、魔族、民間人が吹き飛ぶ。


「クソッ! ゴーレムまで来やがった!」

「退却は許されぬ! ここは聖地! 決して魔族に奪わせるな!」


 ダートの到着だ。彼はその見た目から魔界軍と認識され、騎士からは一斉攻撃を仕掛けられ、魔族からは謎の援軍として警戒されている。ダートは気にせず、暴れるだけだ。


 忠実な僕の到着に喜ぶ魔王。そんな彼に、ミノタウロスと騎士が同時に襲いかかった。魔王はミノタウロスの棍棒を避け、かすめた剣にマントのファーを飛ばしながら、騎士の一撃を剣で受け止める。

 騎士の剣を払うと、魔王はミノタウロスの喉に剣を刺した。そしてミノタウロスの喉に刺さった剣は抜かず、足元に落ちる尖った木片を手に取り、騎士の左脇の下、鎧の隙間に破片を突き刺し、騎士の心臓まで貫いた。

 魔王は騎士の剣を拾い上げ、背後に立っていたガーゴイルの、腰から左肩までを切りつけた。ガーゴイルは倒れ、魔王は床に倒れるガーゴイルの胸に剣を刺し、引導を渡す。


 ガーゴイルの死体から魔王が剣を抜いた直後、死体の上に気絶した騎士が重なった。騎士を気絶させたのは、パンプキンである。


「なんなんッスか! なんで僕までこんな目に会わなきゃならないんッスか!」


 不満を吐き散らしながらも、パンプキンは襲いかかる魔族の剣を瞬時に避け、相手の手首を掴む。そして魔族の顔面に強烈なパンチを見舞った。

 さらに別の魔族に襲われるパンプキン。パンプキンは魔族に気づくなり、高く足を上げ、魔族の側頭部に打撃を加える。魔王は驚きを隠せない。


「パンプキンよ、お主、よく生き延びているな」

「昔、戦士を名乗るジイさんに格闘技を教わったんッス! こんなところで役に立つとは思わなかったッス!」

「フン、それは幸運であったな。野垂死にせぬよう気をつけろ」


 会話を終えると、魔王は祭壇に向かった。途中で斬りかかる騎士はサフォケーションにより動きを止め、襲いかかる魔族はルファールが片付ける。敵をいなし、死体を踏みつけ、マントをひるがえし堂々と進む魔王の姿は、教会内でも異彩を放っていた。


「ミードン様、神よ、私をお助けください!」


 祭壇の側では、リザードマンが振り上げた棍棒を前にして、教会関係者が聖書を抱え震えている。魔王はリザードマンの背中を斬りつけ、結果的に教会関係者の命を救った。

 ところが、リザードマンの固い鱗に剣は折れてしまい、剣は使い物にならなくなってしまう。ここにミノタウロスが襲いかかった。魔王は咄嗟に教会関係者の持つ聖書を奪うと、その聖書でミノタウロスの剣を受け止める。


「人間界の聖書も使えるものだ」


 ミノタウロスの剣が刺さった聖書を見て、そんなことを呟いた魔王。彼は氷魔法を発動させ、ミノタウロスの胴体に無数の氷柱を突き刺し、ミノタウロスを排除した。


 時を同じくして、ダートが振り上げた拳が教会の柱に命中。根元を破壊された大木よりも太い石の柱は、ゆっくりと教会内部に倒れる。


「うわっと! やばいッス!」


 柱が倒れる先にはパンプキンの姿もあった。パンプキンは近くの騎士を殴りつけ、必死に逃げようとする。だが足元の死体に躓いてしまい、パンプキンは倒れた柱の土煙の中に消えてしまった。

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