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魔王は魔王の座を目指す  作者: ぷっつぷ
第9章 アプシント山の戦い
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第9章2話 クリスマスという宗教行事

 ダイス城会議室での会議は、ヤクモの言葉により中断。最終的に魔王は、書簡の内容にあった日付にアプシント山へ向かい、ヤクモの魔力を取り戻すという決断をした。

 書簡に書かれた日付――会議の翌日、魔王たちはケーレスを出発。現在、魔王はヤクモ、ルファール、ダートと共に、マットとベンの操縦するスタリオンに乗ってアプシント山へと向かっている。


「ラミーさん、大丈夫、かな?」


 スタリオンの機内。細かい振動に揺られながら遠くを見つめ、ラミーへの心配を口にするダート。


 これから魔王たちは、騎士団の本拠地へ攻撃を行う。これによる盟約交渉への悪影響を最小限に抑えるため、ラミーはキリアンと共にコヨトへ向かった。この出発の際、一悶着があったのだ。

 出発前、魔王と離れるのを嫌ったラミーは、まるで幼児のごとく駄々をこねた。これを解決したのは、ダートが土魔法を使い即興で作り上げた『魔王人形』。ラミーは魔王人形を抱きしめ、魔王の出発を見送ったのだ。ダートがラミーを心配するのも当然である。


「交渉はラミーの得意技。心配は無用」


 魔王は楽観的であった。たしかにラミーが時折見せる、幼児のような行動は目に余るものがある。だが彼女は、ああ見えて自分が魔王の部下でしかないことを理解しているのだ。それを知る魔王は、ラミーに関しては楽観的でいられるのである。

 一方で、魔王に心配事がないわけではない。今の魔王が心配するのは、ラミーではなくルファールだ。


「アプシント山は騎士団の本拠地。つまり、ルファールよ、お主の古巣だ」


 座り心地の悪い椅子にどっしりと座った魔王は、対面の椅子に座り腕と足を組んだルファールに向かって、そう言った。魔王の言葉にルファールは反応を示さない。魔王は言葉を続ける。


「ルファール、躊躇いはないか?」


 古巣に攻め込むとなれば、誰しもある程度の躊躇いを抱くものだ。だがその躊躇いは、敗戦を呼び死を引き連れることもある。もしルファールが躊躇いを抱いているというのなら、魔王にとっては問題だ。

 魔王はルファールの答えを待つ。ルファールは魔王の質問を聞いて、冷たい表情を魔王に向け、首を傾げた。


「質問の意味が分からない。私の古巣と今回の攻撃、関係はないだろう」

「ほお、予想外の答えだ。古巣への恩や愛着、知った顔が思い浮かぶ、ということが、お主にはないのか?」

「騎士団は今は敵だ。敵に恩も愛着もない。知った顔は敵の顔でしかない」


 どうやら魔王の心配は杞憂にすぎなかったようだ。ルファールにとっては、相手が古巣であろうと何だろうと、敵は敵なのである。敵を倒すのに躊躇いなどないのである。これには魔王も衝撃を受け、思わず声を上げて笑ってしまった。


 魔王とルファールの会話が終わると、大きなあくびをしたヤクモがルファールに質問する。


「ねえルファさん、ケシエバ教の祭日ってなに?」


 あまり脈絡のない質問。ヤクモは単に、たった今抱いていた疑問を口にしただけだ。ルファールは彼女の質問に、再び首を傾げる。


「私もよく知らない」

「え!? ルファさん元騎士でしょ? ケシエバ教徒でしょ? 知らないの?」

「騎士になるためにケシエバ教徒になっただけだ。詳しいことは知らない」

「うわぁ……」


 平気で知らぬと答えたルファールに、唖然としてしまったヤクモ。魔王はやはりルファールを笑い、ヤクモの疑問に答えを与えた。


「今日の祭日には、2つの側面がある」

「なんであんたが答えるの……?」


 元騎士が知らぬ祭日の内容を、人間ですらない魔王が答える。これにヤクモは理解が追いつかぬようだが、魔王は気にしない。


「ひとつは、本来の祭日の姿。神の使いであるミードンが、はじめて人間に神の言葉を伝えた日だ。ケシエバ教徒はこの日を、神に感謝し祈る日として、祭日とした」


 ケシエバ教にとって最も重要な日。それが今日の祭日なのである。この祭日は、約1000年間も続く伝統あるものだ。


「もうひとつは?」

「2つ目は、貴様の世界が大きく関わってくる」


 祭日のもうひとつの側面は、ケシエバ教とはほとんど関係のないものである。魔王は過去に殺した勇者の記憶を思い浮かべながら、口を開いた。


「貴様の世界には、クリスマスという宗教行事が存在するであろう」

「おお! あんたの口からクリスマス? すっごい似合わない!」

「いいから話を聞け」


 どうにもヤクモは、『魔王』と『クリスマス』というギャップが面白くて仕方がないようだ。大笑いするヤクモに、魔王は不愉快さを抑えながら淡々と説明を続ける。


「我はクリスマスとやらを、何かしらの宗教行事だということ以外、よく知らぬ。我が殺してきた勇者の記憶では、『恋人の日』『クリスマス粉砕』『リア充爆発しろ』といった情報ばかりであったからな。これがクリスマスの正しい認識でないのは、明白であろう」


 クリスマスプレゼントに喜ぶ記憶、サンタという人物の存在を信じた記憶、クリスマスの日の嫉妬の記憶、クリスマスの日に憎しみを爆発させる記憶――殺してきた勇者たちのクリスマスの記憶は、どれも雑多だ。魔王にはクリスマスの本来の姿が見えてこない。

 魔王の説明を聞いていたヤクモは、うずくまり震えている。どうやら、必死で笑いを堪えているようだ。


「リア充爆発しろ……魔王が……リア充爆発しろだって……プッ」


 堪えきれていない。ヤクモが噴き出した笑いは魔王の耳にも聞こえている。魔王の説明は、ますます淡々としたものになっていった。


「だが、約40年前ほど、転生者が『ヘイセイ』の人間になってからだ。1人の転生者が、これまたハーレムとやらを満喫するために、ケシエバ教の祭日に『恋人の日』であるクリスマスを重ねたそうだ」


 本来のクリスマスが恋人の日ではないのは、魔王も分かっている。つまり、転生者がはじめたクリスマスは、転生者の考えるクリスマスであって、本来のクリスマスではない。


「この『恋人の日』が、ケシエバ教徒ではない者たちに流行。今やケシエバ教の祭日は、クリスマスとして恋人の日となったのだ」

「へぇ~」


 つまり、本来の宗教行事という面を失ったクリスマスが、ケシエバ教の祭日から本来の宗教行事という面を失わせている、ということだ。ある意味、異界の文化の侵略ともいえるだろう。


「で、なんでそんな祭日の日に殴り込むの?」


 さらに続いたヤクモの疑問。魔王は淡々とした口調のまま、半ば授業をする教師のように説明をはじめた。


「ケシエバ教の祭日、ケシエバ教徒たちは午前中に祈りを終え、それからは家に帰り平穏な1日を過ごし、神に感謝する。つまり、全員がケシエバ教徒である騎士団は、この日だけは全員が家に帰るということ」


 敬虔な信者たちは、ケシエバ教そのものが危機にでも陥らない限り、本来の祭日を祝うのだ。これは魔王たちにとって都合が良い。


「一方で、午後からは『恋人の日』としての祭日がはじまる。ケシエバ教徒ではない恋人たちが集い、教会で恋人の時間を楽しむ。つまり、教会は恋人たちで混雑する。特にアプシント山はな」


 騎士団とは入れ替わりに、ケシエバ教の教会は『恋人の日』を楽しむ(・・・)者たちで溢れる。これもまた、魔王たちには好都合だ。 


「とすると、アプシント教会に騎士はおらず、いるのは恋人の集団だけ。敵は無防備ということだ。殴り込むには最適」


 ヤカモトもそれを知り、勇者の魔力を取り戻すならば今しかないと、書簡で伝えてきたのだ。ケシエバ教の祭日とは、それほどまでに重要な日であるのだ。アプシント山に攻め込むのであれば、祭日以外の好機はないのである。

 説明を終えた魔王は、椅子の固い背もたれに深く寄りかかった。そんな彼に、ヤクモは怪訝な面持ちをする。


「……ねえ、教会にいるのって、恋人ばっかりなんでしょ?」

「ああ」

「じゃあさ……恋人に紛れ込まなきゃいけないってことじゃん」

「うむ」

「まさか、恋人のふりして潜入、とか言わないよね」

「残念だが、我はそう言うつもりだ」


 アプシント山は『恋人の日』を楽しむ恋人たちで溢れているのだ。そこに紛れるためには、恋人のふりをするしかない。これに、魔王は何の感情も抱いてはいなかったのだが、ヤクモは体に虫が這うのを感じたような、あからさまに嫌そうな表情をしていた。

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