第5章2話 荒くれ者たち II
騒ぎが落ち着き、キリアンは経歴紹介を再開させた。ラッタスの次に紹介されるのは、ラッタスと同じゴブリン族。ただし、ラッタスとは違って活発そうな女性だ。
「次に行きます。参加番号4番、サーラ・ノウネット、ゴブリン族。彼女は強盗団のリーダーです。ダイスの街で強盗団のリーダーを務められるのですから、腕は確か」
「魔王様、勇者様、よろしく! あたし、強盗が本職だからね。力も技も頭も、全部、凄いんだから!」
無邪気な自慢に参加者の男たちの頬が緩む。一方、参加者の女性たちがサーラに向けた目には、非難の感情が込められていた。強き者を求める魔王は、強盗団のリーダーという肩書きと、身軽そうな体つきに注目し、戦闘員としての素質を見定める。
サーラに続いて紹介されるのは、少し汚れながらも白銀に輝く鎧を身につけた、無口な人間の女性だ。
「参加番号5番、ルファール・ノール、人間。今でこそ風俗街の用心棒である彼女ですが、元共和国騎士、かなりの腕利きです。彼女のおかげで、風俗街の治安は良くなりました」
「……自己紹介などどうでも良い。それが採用試験の結果に影響するとは思えない」
キツイ印象を与える表情から飛び出した、冷淡な口調による言葉。自己紹介の否定自体が自己紹介であると受け取った魔王は、ルファールにヤクモと同じものを感じながら、しかし現実的な視点を感じ取り、今後の採用試験での彼女の活躍に期待する。
「参加番号6番、ヌス・ユータイ、ケンタウロス族。大陸南部で起きている戦争にも参加し、多くの戦果を挙げた傭兵。共和国と魔界双方から、その腕が認められています」
「これは商談だ。金さえ払ってくれれば、俺は魔王様と勇者様を裏切りはしない。あんた方が望む以上の闘争を見せてやる。あんた方の願いを叶えてやる」
鎧に包まれた立派な馬の下半身に、戦闘服とロングコートを着た人間の上半身を持つヌス。馬の脚も人間の腕も筋肉に覆われ、全体的に逞しい。落ち着いた口調と低い声も相まって、頼れる男の匂いがする。
「あいつ、結構良いんじゃない?」
「悪くはなさそうですね」
審査員たちの、ヌスに対する第一印象は良好だ。魔王もまた、傭兵という経歴から戦闘経験豊富な可能性、金さえ払えば裏切らないという信用度の高さを評価し、ヌスに大きな期待を寄せる。
次に紹介されるのは、ヌスの隣に立つ、足を生やした魚のような姿の男。ルファール以上に無口な彼は、暗い雰囲気に包まれていた。
「参加番号7番、リューム・エシウス、ディープワン族。ケーレス漁師団の用心棒。彼がいる限り、漁師団は安心して漁ができます」
「某は、ただの用心棒。語ることはない」
リュームの印象は『ミステリアス』の一言で片付く。彼が強いのかどうか、どのような性格なのか、何も分からない。ただ、そのミステリアスさに、魔王たちは興味を惹かれた。
「参加番号8番、ヴィーナ・イェスニック、コボルド族。彼女は酒場の店主ですが、ダイスの酔っ払いをねじ伏せるだけの戦闘能力を持つ、街のマドンナ」
「私、こう見えてもぉ、いろいろと強いのよ。だから、魔王様のどんなお相手にもなれるわ。フフ、よろしくね」
ブロンドの長い髪をかきあげ、ふっくらとした唇を突き出し、前かがみ気味に胸を強調させた上で、自己紹介をしたヴィーナ。人化をした美女のそんな行動に、採用試験参加者の男たちは一斉に目の色を変え、ヴィーナに夢中だ。
「なんですかなんですか、あざとい女ですね。魔王様に色仕掛けなんて、あいつは不合格で良いでしょう」
「落ち着けラミー」
ヴィーナへの敵愾心を隠そうとしない女性たちの中でも、ラミーのそれは群を抜いていた。彼女の表情は、決して厳しいものでも冷酷なものでもなく、笑顔なのである。笑顔のまま、ヴィーナを不合格としたのである。
一方で魔王は、まだヴィーナを不合格にさせる気はない。色仕掛けに引っかかったわけではなく、単純に、戦闘能力が未知数であったからだ。ヤクモやダートも、魔王と同じ意見であった。
「参加番号9番、マーシャン・チューズ、オーク族。彼はオーク族の中でもとりわけ、力が強い。ケーレスで彼に喧嘩は売る者はいない、とまで言わしめる方です」
「俺様が最強だ! 俺様が魔王と勇者の新しい仲間だ! いいか、勇者のおっぱいは俺様のもんだ!」
参加者10人の中で最も巨大な図体を持つ、見た目だけでも怪力の持ち主であることが分かるマーシャン。戦闘能力は申し分なさそうだが、彼の言葉に対しては当然、ヤクモの怒りが沸き立つ。
「……あいつが味方になったら、次の戦闘では同士討ちが発生するからね」
これはヤクモからの警告であった。しかし、魔王は気にしない。マーシャンが猛者というのであれば、彼の言葉など、今は重要ではないのだ。
次に紹介されるのは10人目。8本のタコ足に2本の腕、青い肌の、ふくよかな体型をした魔族の女性。彼女が採用試験参加者紹介最後の人物である。
「参加番号10番、ウイア・ネップ、クラーケン族。漁師団の元締めの妻で、事実上の元締め。漁師団がマフィアと対等でいられるのは、彼女のおかげです」
「どいつもこいつも、坊やと嬢ちゃんばっかりじゃないかい! 魔王お坊っちゃまと勇者ちゃんは、あたいが支えてやるよ!」
肝っ玉母ちゃん体質ではあるが、どことなく他人を馬鹿にしたようなウイアの視線を、魔王は見逃さなかった。正直、この手の女性は苦手だ、夫の漁師団の元締めが可哀想だ、などと魔王は思ってしまう。
「以上10名が、採用試験に臨む方々です」
キリアンの締めの言葉により、参加者の経歴紹介と自己紹介は終わりを迎えた。魔王たちは改めて10人の参加者全員の顔を眺め、各々に感想を口にする。
「ふむ、なかなかに面白そうな者たちではないか。期待はできる」
「問題がありそうなのもいますがね」
「私が間違って殺しちゃいそうなヤツもいる」
「みんな、強そう。試験の結果、楽しみ」
魔王とダートは参加者への期待を口にしたが、ラミーとヤクモは、ヴィーナとマーシャンへの不満が尽きないようだ。現状、ヴィーナとマーシャンは第一印象で不利、ヌスとプラートが有利といったところである。
ただし、これは経歴紹介と自己紹介の結果でしかない。採用試験の本番は、これからなのだ。
「それでは、採用試験の方法をお伝えします。非常に簡単なルールです」
キリアンはそう言って、参加者たちが再度騒がしくならぬよう気をつけながら、採用試験の説明を事務的に行う。
「大広場の範囲内で、皆さん殺し合ってください。試験は3回戦となります。1回戦は5人が生き残るまで、2回戦は2人が生き残るまで、3回戦は最後の1人が生き残るまで。殺し合いのルールは特にありません。以上です」
事務的で淡々としたキリアンの口調が、採用試験の内容をさらに恐ろしく感じさせた。これから殺し合え、と無感情に言われれば、通常であれば誰もが躊躇し、この場を逃げ出してしまってもおかしくはない。ところが、この場に通常な者は1人もいないのだ。
「こりゃ、俺様の勝ちだな!」
「いいえ! 技と優れた頭脳の持ち主である――」
「坊ちゃん嬢ちゃんには負けないよ!」
「殺し合いなんて、興奮しちゃう」
「俺は勝つ。金もがっぽりいただく」
「俺の筋肉を見ろ!」
乗り気でない者は1人もいない。最後の1人になるまで殺し合えということは、数時間後には、ここにいる9人が死んでいるということなのだが、参加者たちは皆一様に、自分が殺し合いに勝利すると信じているのだ。
一体誰が生き残るのか、まったく予想がつかない魔王たち審査員。殺し合いに勝ち残った者が新たな仲間となるのだから、採用試験からは目が離せない。




