表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王は魔王の座を目指す  作者: ぷっつぷ
第5章 採用試験
33/131

第5章2話 荒くれ者たち II

 騒ぎが落ち着き、キリアンは経歴紹介を再開させた。ラッタスの次に紹介されるのは、ラッタスと同じゴブリン族。ただし、ラッタスとは違って活発そうな女性だ。


「次に行きます。参加番号4番、サーラ・ノウネット、ゴブリン族。彼女は強盗団のリーダーです。ダイスの街で強盗団のリーダーを務められるのですから、腕は確か」

「魔王様、勇者様、よろしく! あたし、強盗が本職だからね。力も技も頭も、全部、凄いんだから!」


 無邪気な自慢に参加者の男たちの頬が緩む。一方、参加者の女性たちがサーラに向けた目には、非難の感情が込められていた。強き者を求める魔王は、強盗団のリーダーという肩書きと、身軽そうな体つきに注目し、戦闘員としての素質を見定める。

 サーラに続いて紹介されるのは、少し汚れながらも白銀に輝く鎧を身につけた、無口な人間の女性だ。


「参加番号5番、ルファール・ノール、人間。今でこそ風俗街の用心棒である彼女ですが、元共和国騎士、かなりの腕利きです。彼女のおかげで、風俗街の治安は良くなりました」

「……自己紹介などどうでも良い。それが採用試験の結果に影響するとは思えない」


 キツイ印象を与える表情から飛び出した、冷淡な口調による言葉。自己紹介の否定自体が自己紹介であると受け取った魔王は、ルファールにヤクモと同じものを感じながら、しかし現実的な視点を感じ取り、今後の採用試験での彼女の活躍に期待する。


「参加番号6番、ヌス・ユータイ、ケンタウロス族。大陸南部で起きている戦争にも参加し、多くの戦果を挙げた傭兵。共和国と魔界双方から、その腕が認められています」

「これは商談だ。金さえ払ってくれれば、俺は魔王様と勇者様を裏切りはしない。あんた方が望む以上の闘争を見せてやる。あんた方の願いを叶えてやる」


 鎧に包まれた立派な馬の下半身に、戦闘服とロングコートを着た人間の上半身を持つヌス。馬の脚も人間の腕も筋肉に覆われ、全体的に逞しい。落ち着いた口調と低い声も相まって、頼れる男の匂いがする。


「あいつ、結構良いんじゃない?」

「悪くはなさそうですね」


 審査員たちの、ヌスに対する第一印象は良好だ。魔王もまた、傭兵という経歴から戦闘経験豊富な可能性、金さえ払えば裏切らないという信用度の高さを評価し、ヌスに大きな期待を寄せる。

 次に紹介されるのは、ヌスの隣に立つ、足を生やした魚のような姿の男。ルファール以上に無口な彼は、暗い雰囲気に包まれていた。


「参加番号7番、リューム・エシウス、ディープワン族。ケーレス漁師団の用心棒。彼がいる限り、漁師団は安心して漁ができます」

「某は、ただの用心棒。語ることはない」


 リュームの印象は『ミステリアス』の一言で片付く。彼が強いのかどうか、どのような性格なのか、何も分からない。ただ、そのミステリアスさに、魔王たちは興味を惹かれた。


「参加番号8番、ヴィーナ・イェスニック、コボルド族。彼女は酒場の店主ですが、ダイスの酔っ払いをねじ伏せるだけの戦闘能力を持つ、街のマドンナ」

「私、こう見えてもぉ、いろいろと強いのよ。だから、魔王様のどんなお相手にもなれるわ。フフ、よろしくね」


 ブロンドの長い髪をかきあげ、ふっくらとした唇を突き出し、前かがみ気味に胸を強調させた上で、自己紹介をしたヴィーナ。人化をした美女のそんな行動に、採用試験参加者の男たちは一斉に目の色を変え、ヴィーナに夢中だ。


「なんですかなんですか、あざとい女ですね。魔王様に色仕掛けなんて、あいつは不合格で良いでしょう」

「落ち着けラミー」


 ヴィーナへの敵愾心を隠そうとしない女性たちの中でも、ラミーのそれは群を抜いていた。彼女の表情は、決して厳しいものでも冷酷なものでもなく、笑顔なのである。笑顔のまま、ヴィーナを不合格としたのである。

 一方で魔王は、まだヴィーナを不合格にさせる気はない。色仕掛けに引っかかったわけではなく、単純に、戦闘能力が未知数であったからだ。ヤクモやダートも、魔王と同じ意見であった。


「参加番号9番、マーシャン・チューズ、オーク族。彼はオーク族の中でもとりわけ、力が強い。ケーレスで彼に喧嘩は売る者はいない、とまで言わしめる方です」

「俺様が最強だ! 俺様が魔王と勇者の新しい仲間だ! いいか、勇者のおっぱいは俺様のもんだ!」


 参加者10人の中で最も巨大な図体を持つ、見た目だけでも怪力の持ち主であることが分かるマーシャン。戦闘能力は申し分なさそうだが、彼の言葉に対しては当然、ヤクモの怒りが沸き立つ。


「……あいつが味方になったら、次の戦闘では同士討ちが発生するからね」


 これはヤクモからの警告であった。しかし、魔王は気にしない。マーシャンが猛者というのであれば、彼の言葉など、今は重要ではないのだ。

 次に紹介されるのは10人目。8本のタコ足に2本の腕、青い肌の、ふくよかな体型をした魔族の女性。彼女が採用試験参加者紹介最後の人物である。


「参加番号10番、ウイア・ネップ、クラーケン族。漁師団の元締めの妻で、事実上の元締め。漁師団がマフィアと対等でいられるのは、彼女のおかげです」

「どいつもこいつも、坊やと嬢ちゃんばっかりじゃないかい! 魔王お坊っちゃまと勇者ちゃんは、あたいが支えてやるよ!」


 肝っ玉母ちゃん体質ではあるが、どことなく他人を馬鹿にしたようなウイアの視線を、魔王は見逃さなかった。正直、この手の女性は苦手だ、夫の漁師団の元締めが可哀想だ、などと魔王は思ってしまう。


「以上10名が、採用試験に臨む方々です」


 キリアンの締めの言葉により、参加者の経歴紹介と自己紹介は終わりを迎えた。魔王たちは改めて10人の参加者全員の顔を眺め、各々に感想を口にする。


「ふむ、なかなかに面白そうな者たちではないか。期待はできる」

「問題がありそうなのもいますがね」

「私が間違って殺しちゃいそうなヤツもいる」

「みんな、強そう。試験の結果、楽しみ」


 魔王とダートは参加者への期待を口にしたが、ラミーとヤクモは、ヴィーナとマーシャンへの不満が尽きないようだ。現状、ヴィーナとマーシャンは第一印象で不利、ヌスとプラートが有利といったところである。

 ただし、これは経歴紹介と自己紹介の結果でしかない。採用試験の本番は、これからなのだ。


「それでは、採用試験の方法をお伝えします。非常に簡単なルールです」


 キリアンはそう言って、参加者たちが再度騒がしくならぬよう気をつけながら、採用試験の説明を事務的に行う。


「大広場の範囲内で、皆さん殺し合ってください。試験は3回戦となります。1回戦は5人が生き残るまで、2回戦は2人が生き残るまで、3回戦は最後の1人が生き残るまで。殺し合いのルールは特にありません。以上です」


 事務的で淡々としたキリアンの口調が、採用試験の内容をさらに恐ろしく感じさせた。これから殺し合え、と無感情に言われれば、通常であれば誰もが躊躇し、この場を逃げ出してしまってもおかしくはない。ところが、この場に通常な者は1人もいないのだ。


「こりゃ、俺様の勝ちだな!」

「いいえ! 技と優れた頭脳の持ち主である――」

「坊ちゃん嬢ちゃんには負けないよ!」

「殺し合いなんて、興奮しちゃう」

「俺は勝つ。金もがっぽりいただく」 

「俺の筋肉を見ろ!」


 乗り気でない者は1人もいない。最後の1人になるまで殺し合えということは、数時間後には、ここにいる9人が死んでいるということなのだが、参加者たちは皆一様に、自分が殺し合いに勝利すると信じているのだ。

 一体誰が生き残るのか、まったく予想がつかない魔王たち審査員。殺し合いに勝ち残った者が新たな仲間となるのだから、採用試験からは目が離せない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ