第5章1話 荒くれ者たち I
ルーアイの戦いから1週間。魔王とラミーは、ダイス城の廊下を歩いている。今日は、魔王たちの仲間を増やすための採用試験の日であり、魔王とラミーは審査員として、試験に参加する者たちが待つ、城の玄関に向かっているのだ。
「この前のルーアイでは、強い強い魔王様とヤクモさんでも、結構苦戦しましたからね。ヤクモさんが魔力を取り返したからといって、油断もできません。採用試験で、とっても強い味方が見つかれば、良いですね」
「そうであるな。最低でも、マットよりは強い者がいなければ困る」
「でもでも、マットさんもなかなかに強かったですよ?」
「ああ。だが、我はさらなる力を求める」
前回のルーアイの戦いで、魔王は確信したのだ。全ての力を取り戻すまでは、単独では勝てぬと。兵隊が必要であると。
「混沌としたケーレスの豪傑は、果たして我を満足させてくれるだろうか」
3週間近く待ち続けた採用試験。加えて、バジーリ・ファミリーとの抗争によって、試験の日程は2日ほどずれている。一体どのような強者が集められているのか、魔王の期待は膨らむばかりであった。
しばらくして、ダイス城の玄関に到着した魔王とラミー。土砂降りの雨の音が響く玄関では、シンシアと、彼女のペットであるスライムのスーダーエ、そしてキリアンが待ち構えていた。シンシアは魔王とラミーに気づくなり、尻尾を立てて挨拶する。
「魔王さん、ラミーさん、おはようニャ!」
「スラスラ~おはよう~イムイム~」
「おはようございます」
朝から元気に、満面の笑みを浮かべるシンシア。バジーリ・ファミリーを壊滅させて4日しか経っていない彼女は、機嫌が良いのである。彼女に抱かれたスーダーエは、シンシアに抱かれるのがよっぽど落ち着くのか、少し眠そうである。
ラミーがシンシアの挨拶に答え、魔王は片手を上げて挨拶を返す。するとすぐに、シンシアの隣に立つキリアンが口を開いた。
「あちらの席へ」
そう言ってキリアンが案内したのは、玄関に置かれる長机に並べられた椅子。そこにはすでに、ヤクモとダートの姿があった。
ヤクモは長机に肘をつき、頬杖をして、大きなあくびをしている。ダートは、椅子が小さすぎて座れなかったのであろう。土魔法で作った、自作の椅子に座って、いつも通り外をぼうっと眺めていた。随分と脱力した光景に、魔王は苦笑してしまう。
「ヤクモさん、ダートさん、おはようございます」
「おはよう」
「お、おはよう、ございます」
苦笑するだけの魔王と違い、ラミーはしっかり者である。彼女はヤクモとダートに挨拶し、ヤクモは眠そうに、ダートは照れたように挨拶を返した。
左からダート、魔王、ラミー、ヤクモの順で席に座った一同。魔王は挨拶がてら、ヤクモに質問してみた。
「ヤクモよ、今回の採用試験、貴様はどのような人材を望む?」
「強いヤツ。それと、マントひらひらさせてオーラで人に圧力かけないヤツ」
頬杖をしたまま、魔王に視線を向けて、そう答えたヤクモ。冗談なのか本気なのかは分からぬが、真面目な表情を見る限り、ヤクモの答えは本気だと魔王は判断した。だからといって、魔王が何か特別な反応を示す訳でもないのだが。
長机に並んだ、魔王とヤクモ、ラミー、ダート。4人の姿を確認したシンシアは、元気よく、大声で叫んだ。
「審査員は揃ったようニャ。ってことで、『緊迫! 魔王様と勇者様の味方は誰に!? 決定戦!』はじまるニャ~!」
「どうぞ皆さん、こちらへ」
まるで祭りの催しでもはじまるかのような、シンシアの掛け声。同時に、キリアンは採用試験参加者一同を、玄関に招き入れた。
「ああ、あれが魔王と勇者か」
「すごい! すごい! すごい! 魔王だ! 魔王のあのマントだ!」
「今度の勇者、美人だなぁ。おっぱいもデケぇし。グヘヘ」
「魔王もイケメンね。これは、勝ち残らないと」
キリアンに招かれ玄関にやってきた採用試験参加者10人。性別や種族は様々で、表情や体型も、誰1人として似通った者は存在しない。唯一共通しているのは、誰もが一目見ただけで、一筋縄では行かないと分かる者たちであることだ。
「見た感じ見た感じ、クセのありそうな方ばかりですね」
「というか、ロクでもなさそうなヤツばっかり。マントとオーラが本体みたいなヤツがいなくて良かったけど」
興味津々な様子で参加者たちを眺めるラミーと、どこか不安げな表情ながら、魔王への嫌味を口にしたヤクモ。ダートはぼうっとしているだけ。魔王は、参加者1人1人の顔をじっと見て、それぞれに第一印象での評価を与えた。
玄関、審査員の前に横一列に並べられた参加者たち。ここで、採用試験の司会であるキリアンが、口を開いた。
「では皆さん、私が皆さんの簡単な経歴を紹介しますので、経歴を紹介された方は、魔王様と勇者様に自己紹介をお願いします」
魔王たちにとって、採用試験参加者10人は、全員が赤の他人であり、経歴どころか名前も知らぬ相手。経歴紹介と自己紹介は必要なものだ。ただ、血気盛んな参加者たちにとっては、自己紹介など退屈なようである。
「なんだそりゃ? ここは学校か?」
「あたいは暴れ足りないんだ! さっさと拳勝負と行こうじゃないの!」
一挙に騒がしくなった参加者一同。魔王は動じず、ヤクモはあくびをし、ラミーは苦笑、ダートはぼうっとしたまま。荒くれ者の扱いに慣れているキリアンは、参加者の騒ぎなど気にしない。
「焦る気持ちは分かりますが、拳勝負は自己紹介の後でお願いします」
それだけ言って、キリアンは早速、参加者の紹介をはじめた。
最初に紹介されたのは、魔王から見て右側の参加者。石のような肌に黒い翼を生やし、鋭い牙をのぞかせた、他者を常に睨みつけるような表情をする、黒服の魔族。
「参加番号1番、プラート・ウイエム、ガーゴイル族。マフィアの間でも名の知れた、優秀な暗殺者です。9歳の頃から暗殺任務に従事していたベテラン」
「自己紹介か……俺は今まで、180人を暗殺してきました。狙った獲物を逃すことはない。魔王様、勇者様、どうぞよろしく」
プラートは穏やかな口調で、礼儀正しいお辞儀をし、自己紹介を終える。それでも、暗殺者らしい獣の目は隠せない。裏と表の顔を使い分ける、根っからの暗殺者だと、魔王は感じた。
次に紹介されるのは、プラートの隣に立つ男。なぜか上半身は裸で、山脈のように盛り上がった筋肉を強調するためポーズをとり続ける人間だ。
「参加番号2番、レッティ・ジュープ、人間。ダイス人間筋肉大会で、毎年1位の座を奪ってきた、ケーレスの筋肉自慢。重さ100キロを持ち上げる筋力は折り紙付きです」
「俺の筋肉を見ろ! どうだ? なんとも美しいだろ? 俺の体は彫刻だ! 筋肉は芸術なんだ!」
戦闘能力の自慢というよりは、純粋なまでの筋肉自慢。筋肉を強調するポーズと暑苦しい口調、そしてテカった筋肉が、審査員たちの脳に焼きつけられる。少なくとも、人間とは思えぬその体型は、魔王の興味を引くことに成功していた。
「参加番号3番、ラッタス・ドー、ゴブリン族。マフィアの雇われ工作員。元は工具屋で、様々な小道具の扱いに優れた、器用な男です」
「戦いは力じゃぁない! 技、技、技! そしてぇ! 頭の出来! それが重要だ! 俺はこいつら馬鹿どもとは違う。魔王と勇者の味方になるのは、僕さぁ!」
低い背に緑の肌、嫌味な顔つき。これで口調や性格まで嫌味かつねちっこさを感じさせるラッタス。当たり前ではあるが、彼に挑発された他の参加者たちは皆、一斉にラッタスのセリフに反発する。
「なんだと! おいテメェ、今なんつった!?」
「私たちが馬鹿ですって? 道具に頼ることしかできない、非力な、坊やらしい意見ね」
「筋肉は全生物の力の源だ! 筋肉を愚弄するヤツは生物を愚弄するのと同じ!!」
またも騒がしくなってしまったダイス城の廊下。今にもラッタスに掴みかかろうとする参加者たち。彼らをなだめたのは、審査員席とは別に用意された、レザーチェアに座るシンシアである。
「こらこら、喧嘩しニャい。喧嘩だったら、後でたっぷりやらせてやるニャ」
彼女の言葉のおかげで、参加者たちはとりあえず落ち着いた。この事態に魔王たちは、ラッタルの器用さを期待しながらも、首をひねってしまう。場を乱し混乱を呼び込む人材は、必要ない。
自己紹介後にいちいち喧嘩をしていては、参加者紹介はいつまでも終わらない。参加者の紹介はまだ半分にも達していないのだ。




