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問題の考察点

(魔神族と人間族との共存……だが)


相も変わらない書斎にぽつんとある机に向かい、魔王は一人ぼうとしていた。


自分の夢をリーリスに打ち明けたあの夜から一ヶ月。


特に何も進展がないまま時間だけが過ぎていっていた。


魔王が掲げた最終的な目標である、魔神族と人間族との共存に関しても、同様だ。


何もしないという事ではなく、何も出来ない――出来かねていると言ったほうが正しい。


口にするだけならさほど難しくはない。


だが、行動するとなると話は別だ。


この件の問題に関しては、この世界の常識を変えるという事。


忌み嫌う者同士が互を認め合うというのは、理想論に過ぎない。


一ヶ月経った今でさえ――いや、この夢を心に決めたあの戦争以来、何年、数十年経とうが、魔王は答えを見いだせずにいる。


そもそも、共存の為に何をしたらいいのかという行動源さえも見当がつかない今の時点では、そちらの方が合理的なのかもしれない。


という考えを只管に繰り返している。


一体何をすればいいのか。


最初に打つはずの手が見つからない。


魔王は自分の無力さ、理想を語るだけの愚かな様を、少しだけ後悔していた。


戦争を主体としてきた世界は、既に魔神族と人間族で回っている。


その中心に戦争があった時代をいくつも乗り越えてきた結果、お互いの種族の軸にあたる部分には、戦争が中心になっている。


両種族を構成している世界の中心が戦争。


魔王はその世界を壊したい。だが、軸を壊すという事は、両種族における世界を破壊するのと同義であり、食器を割って壊す程度の話なんかじゃない。


生活基盤すら戦争依存だった過去に牙をたてるには何もかもが足りない。


案があったわけではない。


いくつかの候補はあったが、どれも根本的な解決には至らないという考えに行き着いてしまう。


例えば、このままダンジョンシステムを維持して管理する体制。


これが今のところマシだと言える。


ダンジョンシステムにより、争いを管理することで、戦争の様な大規模戦闘を発生させないように調整し、管理することで戦争をなくすのではなく管理する方法。


だが、いつかは種としての数が増えれば、それだけダンジョンも増る事になる。


そうすれば、いつか必ず資源不足に陥り、人間に提供出来る財産を生産できなくなり、それに満足しなくなった人間は片っ端からダンジョンの攻略をし、供給に追いつかなくなったダンジョンは閉鎖に追い込まれ、溢れかえった人間族の欲望はそのままに魔神族に向けられる。


ダンジョンシステムで人間の個数を管理すれば、今度は魔神族の数が増え、ダンジョン不足に陥り、雇用問題が発生して溢れた魔神族は財産確保の為に人間族を襲い始めるだろう。


現在の状況は、ダンジョンシステムの基本運用が確立されつつあり、業務携帯の効率化と安全性が年々向上している。このままだとどちらかの結末を迎える事になってしまう。


結局は、種としての数が問題だ。


種としての数を減らすには、どうしても管理するのは不可能という結論になる。


自然災害に任せたり、疫病等の大量死等のもしもの話を仮定にすることはできない。


そう、逆に言えば戦争とは、両種族の軸であると共に、この世界を守る為にある種としての数の調整の役目を担っているとも言える。


食物連鎖の枠組みから完全に外れた両種族は、その数を調整するには両種族で争って個体数を減らすのが効率がいい。


世界はそれを見越して魔神族と人間族の天敵を作らなかったのだろうか?


それとも、どちらかの種族の天敵を作り出す為に、どちらかが生まれたのか。


答えは神のみぞ知るとはよく言ったものだが、世界はそれで上手く回っているのも事実。


だが、戦争は悲しみの連鎖でもある。


こんな不幸な輪が世界の中心だとは、魔王は認めたくなかったのだ。


魔神族と人間族の共存という世界の中心である軸を共生という軸にすげ替えれば、確実に戦争はなくなる。


数の問題が残るが、それでもお互いを憎しみ合い、殺し合いを繰り返す世界を、分かっていて止めないのは許せなかった。


だが、種の個体数の問題と、それ以前に共生の問題という難問がある限り、どちらにせよこのままでは戦争はなくならないだろう。


魔王からしたら頭が痛すぎる話だが、自分がこの世界にいる間にどうにかしないといけないというのは、もはや使命感にも駆られた行動であった。


それを解決できるかできないかを差し置いても、やるかやらないかの決断はとうに下っている。


それでも――どうすればいいのか。


相も変わらずの思考の堂々巡りに、ため息と暇だのセットが口から零れ出る日々は、まだ続いてしまうのだろうなと、魔王はため息を吐く。


「魔王さん~、い~ま~す~よ~ね~? いますよね!? 緊急事態ですよー!?」


なぜ疑問形なのかはさて置いて、何やら慌てた様子で書斎のドアを突然蹴破るリーリス。


事が事なのか、口調と裏腹に顔は緊迫しているのが見て取れた。


「どうした?」


「《どうした?》じゃ、ないですよ!? 大変です! 大変なんです! 大変なんですよ!? どうしてくれるんですか!?」


(え? 我のせいなのか?)


と突っ込みたくなるのを堪え、興奮冷めないリーリスを落ち着かせ――。


「これが落ち着いていられますかー!!」


どうやら冷静にさせるのは無理そうだ。


「落ち着かんでも良い。で、どうした?」


「人間族が攻め込んできました!!」


「!!」


「こちらです魔王さん! 早くしてください! 殺しますよ!?」


(人間族よりリーリスに殺される前に早く行こう……!)


殺気立つリーリスに半ば脅され、魔王はやれやれと重い腰を上げ、その後を追いかけた。



★✩★



「でだ」


「はい!」


「人間族が攻め込んできたと言ったのはこの口か? ん?」


「いひゃい! い、いひゃいです魔王はまっ!?」


「攻め込んできたと言うからには、この城が陥落する程の猛者が暴れまわっておるのかと思いきや……」


「ら、らって! 人間族ですよ!? あっ! いはいですっ、いーはーいーれーすーっ!!」


ぐぐぐとリーリスの口端を魔王はつまみ上げる。涙目になりながら、リーリスは「らって! らってぇ!」と、言い訳がましい表情で訴えてくる。


「それで、これはどういう状況だ? 説明しろ」


「はっ!」


魔王が事の顛末を求めると、一人の魔神族が前に出て片膝を地面につける。


この魔王が住む城の門番である《リザードマン》と呼ばれる全身がトカゲの姿をした身の丈二メートルの男が説明をし始めた。


「私が城の周囲を巡回警備している所、居住区の東側にて倒れている所を発見した次第です。容態が危険だと判断し、リーリス殿に魔王様への言伝を頼み、すぐに手当の為にこの部屋に運びこんだ次第です。指示を仰がず、勝手な行動をし、申し訳ありません。この処遇については、なんなりとお申し付け下さい」


「よい。むしろ、一人の命を救ったんだ。相手が人間族だと言うのに、な」


「……この件に関しては、私個人の判断では測りかねるとの判断の上での処置です」


「うむ。それでこそ我が城の兵士だ。個人の感情を表に出さなかったのはさすがと言える。この件については、別途通達する。下がって良い。ご苦労だったな」


魔王の指示を受けると、門番は立ち上がり一礼をした後に、踵を返して部屋を出て行った。


「ま、まおうひゃ……」


「おっとすまん。忘れていた」


「あうう……」


ようやく魔王の手がリーリスの口端から離れると、余程痛かったのかつままれた箇所をさすりながら目に涙を滲ませていた。


門番の後ろ姿を見送ると、魔王は件の原因に目を向ける。


「魔王さん、痛いですよ! 乙女の柔肌に傷を付けるなんて鬼ですか!? 魔王ですか!?」


「……そんな事よりどうするか」


「そんな事って!? ひ、ヒドイですっ! このっこのっ!」


(ふむ。どうしたものか。だが、まずは話を聞く以外にする事もないだろう。回復を待つしかないか)


人間族が容易くこの城にたどり着けるはずがない。


というのも、この城を構えている場所が辺境も辺境で、山々を超えた先にあるからだ。


ここは敷いていえば人間族でいう人間族の王が住む城だ。


人間族には、様々な国があり、その国にそれぞれ王が存在するものだが、魔神族は違う。


魔神族の王である魔王は一人だけだ。


故に人間族とは違い、魔神族の王の命は尊く、何に変えても守護しなければならない最重要人物だ。


何百種もの種族がいる魔神族を、たった一人の王が管理している現状で、その頂点が失われた時の魔神族へのダメージは半端なものではない。


だからこそ、その王が住まう場所は誰にも脅かされない場所になければならない。


城の周囲は高低差が激しい山脈の間に存在するのもその理由だ。


ここまで行軍するだけでも危険だというのに、侵入してきた人間族はたった一人でここまで来たことになる。並大抵の事ではない。


(理由があるにせよ、ここはあくまで魔神族の長である我がいる城。人間族に容易く侵入されたとあってはならない。この事は伏せる様に通達するとして、当面の間は捕虜という名目で拘束しておくとしよう)


「リーリス」


「このっこのっ」


「……リーリス」


「このっこのっ」


「………………」


さっきからいつまでもぽかぽかと体を叩いてくるリーリスを落ち着かせるため、とりあえずぐぐぐとほっぺをつねる魔王。


「いっ!? いっひゃい! いっひゃいれす!!」


「聞けリーリス。当面の間この人間は我が捕虜として拘束するとし、場内の者にはその旨を通達。部屋には立ち入りを我と我が許可した者以外禁止し、この人間族が回復するまでは誰とも話をさせるな。目が覚めたら我に言え。良いな?」


「ま、まおうひゃま! おほめのやわはだにいいいいい!」


「…………」


いつまでも言うことを聞かないリーリスに少し苛立った魔王は、リーリスの頬をつまんでいる行為を、つかみあげる行為に変更する。


「ああああああ!? いひゃっ、いひゃいいひゃいいひゃい~~~! わかっ、わかりまひたぁぁぁぁ!! わかりまひたからぁぁぁぁ!!」


「ふむ。よろしい。ではそうしてくれ」


「…………ひっぐ」


真っ赤に腫れ上がった頬を両手で押さえながら、涙を流した目つきを細め、魔王をきっ、と睨み「魔王さまのばかああああああっ」と台詞を吐き捨てて部屋を駆け出るリーリスを見て(少しやりすぎてしまったか)と反省しながらも、横目でベッドに横たわる意識のない人間族を目で見ながら思う。


(魔神族の王の城のベッドに人間族が寝て、それを介抱するなどと今までの魔王から殺されてもおかしくはないだろうな。だが、人間族との共生を謳っておきながら無碍に殺す等我自身が許さん)


意識のない人間族に近づくと、魔王はふむと興味津々で見る。


「女……か? 髪が長くて細いな。ふむ。着の身着のままだったはずだが、金属類が一切見受けられん。武器になりそうな物もないな。《冒険者》ではないという事か? だとすればどうやってここまで……?」


独り言の様にぶつぶつつぶやきながらじろじろとベッドで寝ている人間族を観察する。


見れば見るほど疑念が湧いてきている魔王だが、それ以上に人間族を間近で見るのは初めての事で、好奇心や興味本位という感情の方が強いのもあり、魔王は容赦なく体の隅々まで調べる。


「体の至る所が傷だらけだな。門番が一応の応急はしたと言ってはいたが、傷よりも衰弱の方が激しいな。蒼白な顔に、浮腫んだ手足……ふむ。中度の高地病の可能性も――」


と、魔王が人間の手を触診していた――時。触っていたその手を、握り返される。


同時に、意識のなかった人間の目がゆっくり開き、掠れるような声で、虚ろとした目で、魔王になにかを訴えかける。


「――て……た……けて」


一言二言小さく呟くと、人間は再び意識を失う。


「……助けてか。ふむ」


この人間は、助けを求めた相手が魔神族だとはよもや知る由ではないだろうな。と、皮肉交じりに微笑すると、魔王は身を翻して部屋を後にした。

【リーリスの後日談】

人間族が一人、意識不明で運ばれたのを侵略と勘違いしたリーリス。


間違えた罰と、聞き分けのない態度のせいで、頬を二回もつねられてしまっていた。


「ううううう……うううー」


唸るリーリスの目には、涙が溜まり、その表情は魔王に対する恨み辛み嫉み僻みで怒りに満ち充ちていた。


「《少し》大袈裟に勘違いして、《ちょっと》叩いただけなのに……魔王さんのばかぁああっ!!」


場内に響く恨みの怒号。


けれどその感情もすぐに収まる。


自分のやった事と言えば、人間族の侵略という重大な事案を誤報し、更にはその場で反省もせずに魔王のせいにしてぽかぽかと逆ギレした事だ。


少し後悔の表情を浮かべて少しだけ、ほんの少しだけ反省したリーリスは、しょげくれながらも、魔王から任された仕事をするべく、場内を駆け回ったのだった。

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