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囚われた女中

私としたことが甘かったというか、抜けていたというか……つまり、ドジを踏んでしまった。


咄嗟の判断で、クゥちゃん(リーリスの騎乗用ドレイク)を滑空させ、そのまま地面すれすれになったところで低空飛行に切り替えて、山賊たちを間を通過すると同時に、颯爽と背から飛び降りてからの着地。何者だ!? と慌てふためく山賊たちをばったばったとなぎ倒し、首根っこ捕まえて「攫った人たちの居場所を吐かないとお尻の穴に棒状の何かを突っ込んで奥歯ガタガタ言わせちゃいますよ?」とにっこり笑顔で恐喝するはずだったのに――。


「どうしてこうなっちゃったんでしょうか」


「自分の胸に聞いてみろ」


「ですよねー」


困った。非常に困りました。


クゥちゃんを低空飛行させたところまでは良かった。けれど、そこから飛び降りて着地は流石に無謀過ぎました。


そりゃ、普通に考えてあんだけ速度出てる乗り物から飛び降りたら地面の上転がっちゃいますよ。アホですか私。


ですけど、ですけどね? 私にだって魔王さんの代わりに華々しくここで活躍しておいて、奴隷の様に扱われていた村の人々からの歓喜にまみれてみたいとかちょっとだけ思うくらいいいじゃないですか!


そうすれば、助けに来た私を慕う村人達は、私が魔王さんを紹介しても、恩人の連れてきたお客さんなら大歓迎ですよーってなって、あれよあれよの間に魔王さんは人間の村になんの違和感も無く溶け込んでしまうという私の作戦が!!


クゥちゃんを低空飛行させて、格好良く(ちょっと小声でとうっとか言っちゃったし)飛び降りたら、実際はそのままの速度でごろごろ地面を転がって、ぴくぴくしてる私をまるで物を運ぶようにせっせと盗賊たちに運ばれて手馴れた手つきで小屋にあった椅子に両手を後ろで椅子ごと縛られるとは。


薄目で奴隷扱いされてた村人の人間達からも、「え、なにあれ」とか言われちゃうしもおおおおおおおお!! 魔王さんのばかっ!


と、悔しさを顕にして足をばたつかせていると、目の前にいた男が剣を床に突き立てた。


「お嬢ちゃん。これから言う質問に正直に答えろ。俺としてはすぐにでも切り捨てる所だが、頭からの命令でな。ちょっと知りたいんだが――」


「なんでしょーか」


「……お前、魔神族の仲間だろ? さっきのドレイクの背から転げ落ちてきたって事は、魔神族じゃなきゃありえねぇ。だが、そこでどうにも引っかかる。そのなりだ」


土まみれになっているリーリスを、下から上へと指先でなぞる様にして人差し指で男は指す。リーリスは、今回は偵察という形のみでの行動を前提にしていたので、服装は魔王を世話する時にいつも着ている普段着――メイド服だ。上からすっぽり被れば着られるワンピース型で、エプロンも一体化している珍しいタイプで、着るのが簡単でいいというリーリスらしい発想の元、彼女自身で縫い合わせただけなのだが。


お陰で、魔改造にされたメイド服は、肩、胸元、腰周りが無駄にひらひらしており、スカートの丈が膝がギリギリ見える位置という短さも相まって、妙に違和感が滲んでいる作品に仕上がっている。


本人的には気に入っているらしい。実はさっきからも土まみれで結構ショックだったりしている。


「変な服だが、それは貴族達を世話している女中が身に付ける正装だろう? とすれば、お前はそういう種類の魔神族の仕えているって事になる」


「それがなにか?」


「《それが何か》だと? お前、自分で今肯定した理由、分かってんのか?」


リーリスがしまったという顔をすると、男はすかさず床に突き刺さっていた剣の柄を右手で掴み、左手でリーリスの瑠璃色の髪の毛を持ち上げると、剣の刃を白い首元に当てる。


「頭の読みは正しかった。魔神族の王はただ一人だ。魔神族に、人間みたいないくつもの国を持っているという情報は無い。ましてや、魔神族の派閥戦争で、人間でいう所の公爵級の貴族の大半は根絶やし、今は一部の穏健派が台頭していると聞く。これに、魔神族の王がたった一人という事実を当てはめれば、お前が魔王城に仕えている女中だということは容易に推測出来る」


「……人間族って、思ってたほど馬鹿じゃないんですね」


「盗賊に身を落としているとは言え、俺たちは元は軍人だ。そこらへんの山賊紛いの素人と同じにされては困るな。さて、斬られたくなけりゃ質問に答えろ。とは言え、聞きたいことは山ほどあるからな。お前を楽しみながらでも十分時間はある」


男はリーリスの首の当てていた剣を離すと、その鋩を股座に潜らせ、刃を立てる。


リーリスはその行動を目で追いながら確認すると、両目から僅かに光が消えた。


「……それ以上すると、どうなっても知りませんよ」


「この状況で、でか?」


男は、口元を歪ませて嘲笑する。


「馬鹿にしている人間に弄ばれるんだ。お前は。今ここには十二人いる。夜も近い事だ、お前が壊れるまで遊んでやるよ。魔神族相手ってのには虫唾が走るが、見た目は人間と大差ないから問題ないだろ。あいつらも、女を目の前にして今までおあずけ喰らって溜まってんだよ。質問は、お前で遊びながらじっくりしてやるよ」


尋問や拷問を経験している元軍人だ。この場所だけで、この男を含め十二人いる。そんなのがこの村を襲ったんだ。きっと、襲撃時にはもっと人数がいたに違いない。きっと連れ去られた女性たちも、今私がされている尋問の様に恥ずかしめを受け、為す術もなく連れ去られたに違いない。


恐怖だったはずだ。だけど、私は違う。


――リーリスは鼻で笑った。



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