プロローグ
「魔王様、今期の売上高にございます」
「うむ……三ヶ月前に新規オープンした店舗の経過をくれ」
「はい、ただいま――こちらになります」
「うむ、狙い通り順調のようだ」
「はい。魔王様が進言した通りにございます。上半期時の顧客はどうやら近く浅くで生計を立てているようですね。主な理由としては、バルアラン帝国軍の大将が老衰により逝去なされたのが原因で、国家規模で士気が低下しているからだと思われます」
「ふむ……バルアラン帝国の城下町で大規模な火事があったと一昨日に言ったな? ならば、近場の店から剛力系の駒を五十数体派遣し、火事が発生した区域の補修不可能な建造物を破壊しろ」
「燃えかすを……?」
「そうだ。帝国の軍の要であり象徴でもある大将が死んだ影響が残っている内にこの規模の火事だ。帝国の城下町はさぞや陰鬱な雰囲気に飲まれているはずだ。町というのは一度不安が広がれば、それを払拭するまでには幾日もの月日が必要になる。だが、ここで軍が総出で五十にも上る駒を討伐したとあれば――」
「――更なる不幸を上書きし、それを払拭させることで帝国軍、更にはその勇姿を見届けた民の士気を著しく回復させる事になる。さすがです魔王様」
「よい。では、その様に。くれぐれも死人を出してはならんぞ。全員生きてこその奇跡だからな」
「はい。かしこまりました――ところで、焼け跡を攻撃するというのは……?」
「ふふ。なに、幾度我が店舗に来店してきた、大将へのせめてもの手向けだ。復興の後押しをな」
「……! 左様で。では、行ってまいります」
「うむ。道中気をつけるがいい」
「ははっ」
この世界は二つの勢力を中心に二分化していた。
一つは人間族。様々な国や人種を持ち多種多様な文化を発展させ、この世界において確固たる礎を築き上げてきた。
そして、もう一つは魔神族。その数もさる事ながら何百種というあまりにも多様な形態を持ち、人間と唯一無二相対している好敵手。
人間族と魔神族は、一進一退の攻防を繰り広げ、幾千年もの間、お互いを血で洗う戦争を繰り返してきた。
現在、時はファリナス歴。魔神族と人間族との戦争は停戦状態となり、早十六年。この、戦争のない平和な世界を、人々は神々の奇跡だと称し、神々の凪と呼ばれるようになった。
だが、人間族は知る由もない。
戦争を停戦させ、ファリナス歴を生み、人々が神々の凪と呼ぶ時代を作り上げた人物が。
――現代魔王だと言うことを。