光の玉
「フーーーッ」
息を大きく吐き出して呼吸を整える。
「よし!・・・一体こいつらなんなんだよ。」
ユウは懐から汗ふき用に持っていた手拭いを出して、刀身の血を拭いとる。
そして刀を腰の鞘にもどす。手拭いは気持ち悪いのでその場に棄てた。
周りを見回すと巨大ネズミが4体、骸になって地面に横たわっていた。
見た目はネズミそのものだ。しかし体躯は1メートルはこえるだろう、5、6歳の幼児程はある。
「うわ!?なんだ」
突然、ネズミの体が赤く光りだした。その光は体から抜け出すと小さな玉のようになり死体の上を浮遊している。
「なんだろうこれ?ってうわ!?」
いぶかしながら浮遊する赤い光を指でつつくと、4つの赤い光はユウめがけて飛びこんできた。
必死にたたき落とそうとするが、手が光にさわったと思うと、ユウの手をすり抜けた。そしてそれはユウの胸にぶつかり、4つの赤い光の玉は心臓の中に溶け込んでいってしまった。
「気持ちわりい。なんだよ、変な細菌とかじゃないよな。病気とか伝染してないよな?」
あまりの気持ち悪さに自分の胸をかきむしっていたが、急に全身を悪寒が走り抜け、全身の毛孔が開き、鳥肌が立つ。
言葉にできないほどの恐怖を覚えたユウは必死になって走り出した。そうして鉄の扉を閉めると階段を転げるように昇り、道場の床に横たわった。
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!アガーー!」
得体のしれない光が自分に取り込まれた。そして自分の体に何かが起きた。一体自分の体に何が起きているのだろうか?いったいどうなってしまうのだろうか?
頭をかきむしりながら、鉄の扉を開けてしまった自分の行動に後悔をした。
しばらく道場の床をのたうち回っていたユウであったが、とてつもない空腹を覚えて2階に向かって走り出した。
そして、荷物の中からインスタントメンをあるだけ取り出すと、お湯も沸かさずに乾麺にむしゃぶりついた。
それを食べ終わると、次にソーセージの缶詰をこじ開けて、中の液体ごと喉にかき込みだす。
その後ユウの暴食は続いた。
結局、残りの2日分の食料をすべて食べきってしまった。
腹を満たしたユウは、強い眠気を感じる。
そしてしばらくすると大きないびきをかいて眠ってしまった。
昼。
ユウは空腹で目を覚ました。
腹は減っているが食い物がない。仕方がないので、裏山にいってフキノトウ、ノビルなどの山菜を採りそのまま食べた。
「まじい!にげえ。」
暴食の後、正気に戻ったユウは軽トラに乗って村まで買い出しに行くことにした。
村へ向かう軽トラの中でユウは思案にふけっていた。
「一体俺の体に何がおきたんだ?あの赤い光を浴びた後、ものすごい腹が減っているし。やっぱり変な病気じゃないだろうな?」
ユウは村で大量の食糧を買い込んで帰ってきた。
村唯一の商店にいって、その棚に置かれていたほとんどのものを買い込んだ。受付にいたおばあさんには「なんだらあんちゃん。仰山食いもん買い込んで。祭りでもあんのかな?」といぶかしがられた。
その日は一日空腹が収まることはなかった。一日食事を続けたユウは、満足すると眠りについたのであった。
翌朝、ユウは目覚めると違和感を感じた。
「あれ?なんか寝袋がきつくなったか?俺1日で太ったのか?」
服をめくって腹回りを確認するが、太っているようには見えない。それどころか昨日よりも引き締まっているように見える。うっすら六つに割れていた腹筋は、今ではくっきりと割れているのがわかる。
「悩んでも仕方ないか。とりあえず剣を振るか。・・・うぎゃ」
立ち上がって階段を降りようとしたとき、頭をハリにぶつけてしまった。
「痛てえ。昨日は普通に通れたのに。1日で身長が伸びたのか?」
庭にでて剣を振り始める頃にはすっかりと悩みも消えて、ただ剣を振ることのみに集中できた。