洞窟
階段を降り続けること5分、大きな洞窟のような水平な床の空洞に出た。
「ここならば刀を思い切り振りまわしても問題なさそうだ。」
幅は人間が5人は並んで通れるほど、高さは3メートルぐらいだろうか。床は多少湿っているがしっかりと踏み込めるほどに固い。その空洞を少し進むと大きな鉄製の扉があった。
「へ?なにこれ?」
ユウははじめここをモロ(食物を保管しておくための洞穴)か何かと思っていた。しかし今、目の前にある頑丈な扉を見るとそれとはまったく異質のもののように思える。
「もしかして、ご先祖様の財宝が隠されているとか!?」
ユウの父親の話では、彼の先祖は武士の家系で、すくなくとも江戸時代にはここに住み着いていたという。
もしもご先祖様が大豪族で、何かしらの理由でここに隠れ住んだとして、もしも多くの財産を隠したとして・・・
「お宝とかあったら、俺、一生働かないで生きていけるんじゃないか?」
そんなことを呟き、期待に胸を膨らませながらユウは扉に手をかけた。
少し押すと、簡単に扉は開いた。
鍵はかかっていないようだが、それにしてもあまりにスムーズに開いていく扉に違和感を感じた。
この扉はどうみたって長い間使われていない。ならば金具などがさびて固くなっているはずである。
ここまで軽いなんておかしい。
ユウは茫然と立っていた。
扉はキイーと音を立てながら開いていった。
扉が完全に開いた瞬間、ユウに向かって黒い影が飛び込んできた。我を忘れて突っ立っていたユウは、その影が発する殺気によって我に返るが、慌てたため、懐中電灯を落としてしまう。
影はユウまであと少しのところまで近づいていた。ユウは危険を感じると、咄嗟に右手を刀の柄にかけた。
そうして重心を沈ませながら腰を後ろに引くと、同時に後ろに引かれた鞘の勢いを利用して、刀身を弾くようにして抜刀をする。
―刹那―
刀身の鋭い煌きの後、ユウの眼と鼻の先で影が二つに分かれ、ポタリと音を立てて地面に落ちた。
鉄くさい血の匂いがユウの鼻を刺激する。
すぐに懐中電灯を拾い上げ地面に落ちた影を観察した。
「うわっ!なんだよこいつ。」
そこには体長1メートルほどの巨大なネズミが真っ二つになり横たわっていた。
どうやら、すでに息は止まっているようだ。ネズミが死んでいることを確認し、安心したユウであったが前方になにかが動く気配を感じ、そちらに光を当てる。
すると6つの丸い反射があった。
そこにはユウに向かって襲い掛かってくる巨大なネズミが3匹、彼等の6つの目が赤々と輝いている。
1匹目がユウの首に噛みつこうとする。
刀を右下から袈裟に振り上げてそれを切ると、2匹目が振りあがったユウの右手首にくらいついてくる。
その頭を柄で叩き落とすと、続いて3匹目がガラ空きになったユウの右足にくらいつく。
ユウは右足首を引いて3匹目のネズミとの間に少しの距離をとると、右膝を地面に着くことで腰を落とした。
その勢いを使って3匹目を縦に一閃した。
「クソ!もう切れ味が落ちてる。」
3匹の巨大ネズミの血と脂が刃に付いたために、刀の切れ味が落ちてしまったのだ。
周りを見ると先ほど柄で叩き落とした2匹目の巨大ネズミが立ち上がろうとしていた。ユウはそのネズミの首に刀身を突き刺して息の根を止めた。
「はあ はあ はあ」
短時間の戦闘であったが、殺気をぶつけられ緊張は頂点に達していた。それにユウは初めて生物を切った。
そして生き物の生命を初めて刀で奪った。
その興奮がユウの心臓を締め付け、呼吸を困難にしていた。