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異世界召喚されたら、ipadの通信速度が10Gbpsだった件について

『おい、さっさと起きてくれよ』


誰かに乱暴に揺すられ、俺は目を覚ます。

確か、バイトの帰り道で、電車にのってうたた寝していたはずだ。

だが、そこは見慣れた山手線の風景では無かった。

ど田舎を走っているような、1両編成の電車の中。

窓の外は、典型的な田舎の風景。ただ、人の姿が全く見えない。

ガタンゴトン、ガタンゴトン と単調なリズムの電車音がする。

電車の乗客は、俺と、目の前にいる大学生くらいのひょろひょろした男だけ。


『ケケケ、お前、電車事故で死んだんだよ 残念だったな』

「はぁ?じゃ、ここは天国なのか?俺は鉄ちゃん趣味は無いんだが・・・」

『ちげぇよ』ひょろ男は、向かいのシートに腰を落とす。

『お前、まだ寿命が残ってたからな。他の世界で寿命を全うしてもらうのさ』

「じゃ異世界転移ってやつか」

『あぁ。ラノベとかでよくあるだろ? ちなみに、俺、神な、この世界の』

(ラノベ知ってるんだ 最近の神様は)

ちゃちゃちゃちゃらちゃちゃちゃ~ん 軽快な電子音が車内に響く。

『おう、あともそっとでそっちつくわ、あとよろしくな え 伝えとくわ』

(最近の神様は、iphone4使ってるのか、ゴッドファーザーの呼び出しで)


『こういう場合、なんか加護を与えてやるんだけど、ほしいもんあるか?

あっちの世界の会話と読み書き能力は、向こう側の神さんが、くれてやるってさ』

「うぉぉ!それってもしかして、チート能力ってやつがもらえんの?」

『ま、そういうもんだ』

「じゃ、最強の魔力くれ、あとハーレムやりたい、あとは……」

『待て待て。そりゃ無理だ。俺、魔法しらねぇもん、魔法無かったろ?この世界』

(言われてみると、確かに魔法なんざ見たこと無いな)

「じゃ、ハーレムか、金だなぁ」

『わりぃんだけどさぁ、俺、エンジニアっていうの?理系なんだよ。

だから、そういうのは無理。理系は、女や金には縁がないのは常識だぞ。

だけど、他の神からは知恵の実(アップル)作れるのはお前んとこだけだ ってよく言われるぜ

あいつ(ジョブズ)は、俺の最高傑作だね』

「いや、それは俺もそう思うし、ipad持ってるけどさぁ。

どうせ、向こうの世界じゃ圏外になるんだろ?」

『ぷっ お前しらねぇの?神専用の中継機があんだよ。最近は神のあいだで艦これが大人気でさ、

俺の世界に繋ぎてぇ って言うから、作ってやったのよ』

「知るかよ!あと、俺は、パズドラ派だ」

『まぁ、いいや。そろそろ時間だ。チート能力だっけ?くれてやるよ、じゃあな』

「おいちょっと待て」

突然、強烈な睡魔が襲ってきた、くそうぅぅぅぅ。



『起きてください』

誰かに乱暴に蹴られ、俺は眼を覚ます。

またか、これ。目の前には、20半ばの女性が、PCデスクの前にいた。

『あのさ、ギルメン待たせてるから、手短にね?これからボス戦なんだから。

はい、これ飲んで』

彼女は、どこからか液体の入ったカップを取り出す。

『それ飲んだら、言葉わかるようになるから。さっさとそっから出てってね』

こっちには全く視線を合わせようとしない。彼女が釘付けになっているPCの画面は、

何かのMMORPGのようだ。

「はい、わかりました」

大丈夫か?この世界の神さま、ネトゲ廃人にしか見えないぞ。

おとなしくカップの中身を飲んでから、ドアを開けて外に出る。

カップの中身は、ミロのような味がした。


ドアの外は、雪国だった。

吹雪が吹き荒れている。振り返っても、もうドアは無い。

(やばいやばい、これマジで死ぬ。隠れる場所探さないと)

幸い、山の影に出現したので吹雪の直撃は受けていないが、

このままだと凍死しかねない。冬だったので、コートを着ていたのが幸運だ。

山肌に沿ってしばらく歩くと、洞窟を見つけた。

洞窟には、以前だれかが使ったのか、焚火の跡と、たくさんの枯れ木が置いてあった。

一息ついて、持っていたナップサックからタオルを取出し、体の雪を払い落とす。


「とりあえず火を起こさなきゃ」

ナップサックの中身を地面に広げる。

わかってはいたけど、タオルとipadしか入っていない。

火の起こし方か。確か、枯れ木をすり合わせるんだよな。

手ごろな木をこすり合わせる、木が熱を持つが、火をつくところまでにはいかない。

何十分か挑戦したところで、手の皮が剥け、血が出てきた。

火は、つかない。


「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!」

涙が出てくる。いったい何だっていうんだ。なんでこんな目にあうんだ!

枯れ木を蹴り飛ばし、絶叫する。だが、何の返事もない。

一通り暴れたら、疲れてむなしくなってきた。

「どうせ死ぬなら、最後に好きな音楽でも聞くか」

ipadを立ち上げる。右上に電池残量を%表示させているが、

ふと見ると、そこには「3那由多%」と書いてあった。

「那由多って、いくつだっけ?」

那由多をぐぐると、10の60乗との答えが返ってきた。

1時間で100%使うとしたら、1年で87万6千%になる。電卓様様だな。

一生使い続けても電池切れが起きない。ということまでは理解できた。

「ん、ネットつながってる?」

なんとなく、いつもの癖でぐぐったけど、通信がつながっていたぞ!

回線速度は・・・・上下ともに10Gbpsか って元の世界より速いじゃねぇか!

「火の起こし方」でぐぐると、動画がひっかかってきた。

早速動画をまねてみる。

木くずを作り、大きめの木にタオルを巻く。しっかり足で確保してタオルを動かす。

しゅこしゅこしゅこしゅこ、さっきよりも楽だ、そのうち煙が出てきて種火ができた。

種火を育て、たき火を作る。体の奥底までが暖かくなり、火のありがたみを感じる。

体が温まってきたので、もういちどipadを確かめてみた。

外見的に変化は無い。だが、CPUだのメモリ量といった諸元が桁違いに跳ね上がっていた。

「チート能力って、もしかしてこれか?神器になった的な話か・・・」

(おとぎ話では、時折あるよな。とりあえず、スレでも立ててみるか)


【俺のiPad 電池残量が3那由多%なんだが、どう思う?】

2:%は、100までしかねぇよ 乙

3:マジレスすると、それ30恒河沙年は使い続けられるな

4:3> それって、ぶっちゃけ何年くらい?

5:4> 宇宙誕生どころの話じゃない

6:そうか、1のiPadは原発搭載型か

7:つ「ニュートロンジャマー」

8:6> 原発以上にやばいもん積んでる

(なんか、ふたを開けると地球崩壊しそうだな)



「おう、邪魔するぜ」

やることもないので、いつものように動画を見ていたら、熊のような男がやってきた。

毛皮に覆われた巨体で、弓矢と狩の獲物らしいたくさんのウサギや鳥をぶら下げている。

「お前、ずいぶん軽装だな。山をなめてると怪我するぜ」

ガハハと笑いながら言う。

「まぁ、ここからなら、アッチ村は目と鼻の先だもんな。

こんな吹雪で無けりゃ、足を伸ばしてるところか。ところで、何してんだ?」

「音楽聞いてヒマつぶし。聞いてみるか?」

イヤホンを外して、内臓スピーカーに切り替える。

すると、タナカ電機で9,800円もしたイヤホンよりも遥かに高音質で、

「歌ってみた」ランキングが洞窟に響き渡った。

「うぉぉぉ なんだこれ?魔法なのか!?

お前、もしかして、すんげぇ魔法使い様なのけ!?」

熊男はとても驚いていた。

「いやいや、それほどでも。どうせ吹雪なんだし、ゆっくり聞いていけよ」

「は~、上手い歌だな。お礼といっちゃなんだが、ウサギでも喰わないか?

せっかく火もあるんだしな」

「おおう、いいねぇ」

ウサギは手早くさばかれ、薄切りの肉となって、石の上に並んでいく。

肉の焼けるいい匂いが洞窟の中を漂う。

2人で歌を歌ったり、この世界のことを聞いたり、肉を食いながら夜を明かした。

寝たら死にかねないもんな。


彼の名前は、グト・マートリー。

ここから少し離れたところにある、ソッチ村の出身。

アッチ村までお使いに来る途中、急な吹雪にあって立ち往生していたところ、

この洞窟で火が見えたので、ここに来た というわけだ。

「この山は、女神さんが住んでるらしいからなぁ。

女神さんの機嫌が悪くなると、いきなり吹雪くんだわ」

(あぁ、それ、俺のせいだ。ボス戦邪魔したっぽいからな)

夜が明けるころには、吹雪はやんでいた。

(ボスに勝てたんだな)

「よっし、村までいってから一眠りしようや、案内するぜ」

「あぁ、頼むよ」

彼の案内で村まで歩く、1キロも歩かないうちに、村の周りを囲む柵が見えた。

この村までは、吹雪の影響は無いようだ。局地的な迷惑吹雪だな。


「よぉグト。久しぶりだな」「とっつあんも元気だな」

「グトがきた~ 遊ぼうよ~」「後でな。吹雪かれたから、徹夜で眠い」

熊男は、この村では人気者のようだ。彼に案内されて少し大きめの2階建ての家に行く。

「村長~来たぜ。あと客人だぞ~」

彼が家の中に呼びかけると、白髪白髭の爺さんが出てきた。

「おぉ、グト、久しいな。お客人もいらっしゃい。

だが、すまんな、実は息子が妙な病にかかってしまってのう」

「ほほ~、だが、この方は、すげぇ魔法使いさまだぜ。

ちっと見てもらいなよ」

(俺か?俺はそんなことできないんだがなぁ)

「おぉ!女神様のお導きじゃ。すまんが、息子を診ていただけんかのう」

「まぁ、見るだけなら」

村長の後から、家の2階に上がる。その中の一間で、男が苦しんでいた。

「ぐ、オジャジ、イジャガ」

声を出すのもつらそうだ。しかも高熱があるように見える。

彼の手足には赤いぼつぼつが出ている。

喉はごつごつと腫れ上がっており、扁桃腺が千切れそうだ。これは痛そうだな。


手足と喉の写真を撮影し、ネットにアップする。

正直、ここまで鮮明に撮影できるとは思わなかった。一眼レフも真っ青だ。

個人情報保護のため、顔は出さない。出しても問題無さそうだが。

しばらく待つと、親切な人がいろいろ教えてくれる。

「病院行け」はノーサンキューだ。行けたら苦労しねぇよ。

信頼できそうなものをピックアップし、病名をぐぐる。

これは、手足口病っていうのかな。治療法もあわせて調べておく。

彼の奥さんに、病気のことをきちんと説明してやる。

子供がかかる病気だが、子供の時にかからず大人になってからかかるとこうなること。

無理せず、柔らかい食事を続ければ3日くらいで熱が落ちること。

そういったことを丁寧に説明したら、彼女は嬉し泣きしながら病室に戻っていった。


ネットで見つけた「マスクの作り方」を奥さんに教えたら、早速作っていた。

村長の息子は、ものすごく喜んでくれた。よほど喉が痛かったんだろうな。

次に調べたのは「病人食」台所に行って、食材を教えてもらい、

それを使った病人食レシピを奥さんに教える。日本語が読めないから、俺が通訳。

なぜか、薬 と勘違いされているのが怖いな。

村長の息子は、病人食ならなんとか食べることができたらしい。

飲まず食わずは、心配になるよなぁ。またもや、泣きながら感謝された。



それは後に、神のヒエログリフ、エメラルドタブレット、神書とも呼ばれ、

魔法使いの最終目標点となる「賢者の板」伝説の始まりだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アイディアはとてもいいと思います。 [気になる点] もうちょっと膨らましたらいいと思います。
2017/03/29 15:20 退会済み
管理
[一言]  あらゆるものが長方形の板で調べられて、しかも多種多様な機能を搭載しているなんて、ファンタジー世界はおろか、現実世界でも十数年前には大多数の人は予想できなかったであろう話でしたからね……。改…
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