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第四話:それは友達から

第四話

 何も友達が同じクラスの奴だけとは限らない。

 隣のクラスにも友達はいるわけだ。その友達はきょうも休みのようで、いつもだったらやってくるお昼休みにも顔を見せなかった。

「千鶴たん、一緒にお見舞いに行くか?」

「パスだ。今日もおれは重要な用事があるからな。あいつによろしく言っておいて」

「わかった」

 千鶴たんがどのような用事を抱えているのかも気になるが、今は休んでいる人物の方を優先しよう。病気が治ってお見舞いに行ってもあまり意味がなさそうだし。

 今度は吸血鬼に襲われないよな……あり得ないなと考えつつ、下駄箱を開けるとそこには少しばかり膨らんだ封筒が入っていた。

「これは……」

 すぐさま封筒を開けるとそこには予想通りのものが入っている。

「放課後、校舎裏まで来てください……か」

 呼び出されたのなら行くしかない。封はラブレターを思わせるハートマークだった。

 他の生徒が部活や帰宅に勤しむ中、俺は後ろめたい空気を出しながら校舎裏へと向かう。途中、何人の生徒かが俺を見てにやけた面を向けてきた。

 おそらく、俺の立場を知っての事だろう。

「やっぱり亜子か。調子はどうだ」

 俺の質問に対して手紙の差出人、そして風邪をひいていた隣のクラスの友達は首を振った。

「違うじゃん。教えたのはそうじゃないよ冬治君」

「悪かったよ……こほん、なんだ、亜子だったのか」

 俺の言葉に亜子はシリアス全開の表情になる。右手を胸の前で握りしめ、少し濡れた目をこちらへ向ける。どうやら棒読みなのは気にしないらしいな。

「ごめんね、冬治君。帰るところを引きとめちゃって……手紙の内容と、あれ、受け取ってくれたんだよね」

「ああ、あんなものが入っているなんて驚いたよ」

「そっか、必勝テクニックだって教えてもらったんだよ? まずは相手の出鼻をくじくって。男の子、ああいうの好きなんでしょ?」

「人による……そうだな、少なくとも俺は大好きだよ」

 一月の寒風が俺と亜子の間を通り過ぎて行った。亜子はただその風を感じているようでこの姿を見るだけだとまるで告白をしている女子生徒に見える。

「あのね、冬治君……わたし、君の事が好き」

「え?」

「隠してたけど君の事を考えると、もう駄目なんだ。一緒に居てくれるならそれでもいいかと思ったけれど、もう片時も離れたくないっ。わたしを冬治君の彼女にしてくださいっ」

「そうか、亜子……お前、俺の事が好きだったのかよ。わりぃ、これまで全然気付かなくって。亜子は気兼ねなく話せる女友達って感覚だった。ああ、これが親友なのかなーってさ。だけど、こんな風に告白されて凄く嬉しいぜ? 俺もお前の事が好きだったんだな。亜子、俺からも言う。俺の彼女になってほしい」

「と、冬治君……冬治くーんっ」

 走ってくる亜子に俺は右手をつきだす。

「Freeze or I’m going to shoot!」

「っと、そうだったね。冬治君、今日もありがとう」

 後頭部をかきながら近寄ってくる亜子に俺はさっき封筒の中に入っていた物をとりだし、差し出す。

「え? 冬治君……女性物のパンツをわたしに渡すなんて刺されたいの?」

「違うだろ。これ、お前のだろうがよ。しかも、何で刺されるんだよっ」

「あ、そうだったね。いやー、こんな紐みたいなパンツ一度履いたっきりで忘れちゃってた」

「あのなぁ、亜子。俺はラブレターの中にパンツを仕込む奴を見た事がないよ」

「でも、ある人が『これで男子生徒は正常な判断を必ず失う』と言ってたよ」

 そりゃ一回目はな。こういう事が立て続けに……そうだな、今回で記念すべき十回目だからいい加減もう慣れるわ。

「……黒の紐パンはさすがに驚いたけどな」

「え?」

「気にするな。些細なことだよ。そんな事より風邪ひいて学園休んでたんだろ? 大丈夫なのか」

「うん、この通り元気っ」

「そっか、悪いな。本当は今日お見舞いに行くつもりだったんだよ」

 元気ならもう行く必要はないな。そう思っていたら亜子がショックを受けていた。

「何だ、どうした?」

「くそーっ、今日無理して来なければよかったっ。そうしたら冬治君がメロンをもってきてくれたのにっ」

「メロンは……そうだな、亜子が入院したら考えてやるよ」

「そうだね、期待しておくよ。あ、そうだ、今日わたしの家に来る?」

 もしかしたら家に吸血鬼関係の人が来るかもしれないし、風をぶり帰らせるかもしれない。

「やめとく」

「そっか、じゃあ一名様ご案内だね」

「俺の意思は関係ないのな」

 その強引さはRPGでよく見かける二択に見せかけた一択のようだった。恐るべき一本道にお使い勇者……。

「今日はね、家に自慢のお姉ちゃんがいるんだー」

「へぇ、自慢のねぇ……」

「自称、座敷わらしなんだよ?」

 自称座敷わらし……その響きを聞いて俺は戦慄するのだった。吸血鬼がいるんだからもしかして、本当にいるんじゃないのだろうか。

 逃げようにも、亜子が俺の腕に絡めてきたので逃げられるはずもない。

「……思ったより亜子って胸があるんだな」

「そりゃあ、女の子ですから」

 ま、まぁ、家の前で離れた時に逃げればまだ大丈夫だろ。


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