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第四十一話特別編:亜の子のバレンタイン

第四十一話

 二月十四日……それは、彼女の居ない男子生徒にとって非常につらい一日である。

「チョコとかさ、もらう方がおかしいんじゃね(今年はせめて一個……)」

「超言えてる。お前、天才(他の奴と、僕は違うんだっ)」

「はは、おれもそう思うわ―(この際、独身の三十を超えた先生からの本命でいいっ……)」

 そんな声と、心の悲痛な叫びが聞こえてきた気がした。

 俺もまぁ、二月十四日には期待していたりする。百々からは既にチョコを貰っているし、とりあえず男の尊厳は保たれた。

「ん?」

 上履きへ履きかえようと思ったら下駄箱が封印されていた。

 黄色に黒字の『Keep Out』と書かれたテープが厳重に貼られていたのだ。

「こんなことするのは……」

「そうです、天田亜子ちゃんです」

 てっきり千鶴たんだと思ったら亜子が影から姿を現した。

「ふぅ、もてない冬治君の為にわたし、本命作ってきちゃったよ。下駄箱にチョコなんて入ってないよね?」

「そりゃあ、これだけ厳重に封印を施されてたら無理だろうなぁ」

 通りすがりの男子生徒もうんうんうなずいている。

「わたしね、冬治君……大切な事に気がついたんだ」

「何だ? 自分の不遇さか?」

「それもだけどね、冬治君が何故、わたしに振り向いてくれないのか……おそらく、積極性に欠けていたんだと思う」

「自分のパンツを俺に渡す奴は積極的だと思うよ」

「うん、そういうの。自己満足だったよ。ぶっちゃけ、冬治君なんて身体で釣ればほいほい付いていくかと思ってた」

 凄く失礼な事を言われた気がした。

「でも、本当は違うんだよね?」

「あたりまえだ」

「というわけで、超特別なチョコレイツッを準備させて頂きましたー」

 がさごそと鞄から出てきたのはびっくりするほど大きな包み……ではなく、手のひらサイズの四角いあのチョコレートだった。

「……えーと、本命?」

「本命です」

「義理だと思わせて、実は手作りって……」

「わけでも御座いません」

「じゃ、じゃあ、『別に、あんたの事なんて好きじゃないんだからね? ほら、あんたなんてこれだけの価値しかないんだからっ。別に、手作り失敗して困ったわけじゃ、無いんだからねっ』って言うのか?」

「言いません。わたしは内角高めの直球っ娘ですから」

 言っている事はよくわからないが、それでは一体?」

「とりあえず、開けてみて?」

「……ああ」

 開けてみろと言うのだから開けてみる事にしよう。

 おそらく、開けたら爆発するとか、チョコじゃない何かが入っているとかそういうことなのだろう。

 包装紙をはがすと次に銀紙……それも外すと茶色い四角の固形が姿を現した。

「普通のチョコ……だよな?」

 人差し指と親指で掴んでみていると軽く伸ばされた腕によって奪われた。

「ぱくっ……てね」

 亜子がそのまま口に放り込んでしまう。

「あっ」

「そんで、ぶちゅーっ」

 驚きの声をあげた俺の口をふさいだのは亜子の唇だった。

 そのまま抵抗する暇もなく、口の中に何だか甘い何かが入れられていく。

 朝の登校時間……俺達の周りに人だかりが出来て行った。

「どうだった? すごく、甘かったでしょ?」

「……びっくりするぐらいにな」

「そっか、よかった……夢川冬治君、わたしと……付き合って下さい」

 望めばもう一度口づけを交わせる距離に亜子はいる。

「亜子、俺は……」

「夢川君っ、天田さんっ」

 そんな俺たち二人を引き離す人がやってきた。

「げ、四季先生だっ」

「職員室に来なさいねっ」

 そして、俺と亜子は仲良く職員室でしぼられるのだった。

 まぁ、叱られるのは当然のことなんだが……こんなバレンタインも悪くはないな。


お詫び……いや、自分でまとめてて忘れるなんて恥ずかしい。よく考えたら亜子の話を投稿するの忘れていました。

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