第三十四話:それは確かに愛しくて
第三十四話
何だか知らんが、千鶴が俺の家にやってきたので中に入れてお茶を入れる。いつ、吸血鬼の話を切りだそうか考えつつ、千鶴の様子を見ることにした。
「わりぃな」
「おいおい、今日はどうしたんだよ。まるで借りてきた猫じゃないか」
吸血鬼の話をしたいのだけれど、していいものかと考える。
「お、おれは別にいつもこんな感じだろ」
「はは、まさか……寝転がってパンツ丸見えでも気にしてねぇだろ」
「冬治っお前……そんなスケベな目でおれを見てたのかよっ」
「おいおい、落ち付けって。何だ。本当に今日はどうしたんだ?」
青くなったり赤面したり、激昂したりと忙しいなぁ。
これも吸血鬼化の前段階かもしれない。
「ちょっとした冗談で言っただけだよ」
「じゃ、じゃあ、あれか。おれのパンツには興味がねぇって事かよ」
「はぁ?」
言って後悔したのか千鶴はそのまま顔を俯いてしまう。
「冬治さん……いえ、千鶴さん。頑張ってください」
「……百々は廊下から半分だけ顔を出して何してるんだ? こたつに入ればいいだろ」
「いいえ、今そちらに行くと修羅場に早変わりです」
「よくわからないな」
自分で入れた茶をすすり、テレビでもつけようかとリモコンを探す。
「あれ?」
「駄目です。ちゃんと千鶴さんの話を聞いてください」
「はいはい、わかったよ……」
ため息をひとつ。
いじいじもじもじを何度も繰り返して、顔をあげたかと思うと俺の顔を見てすぐに下げてしまう。
一体、こいつは何がしたいのだろう。
百々に視線を飛ばすと百々何だかイライラしているようだったが……。
「千鶴、用が無いんなら……」
俺から話があるんだが。
そう言おうとしたら急に立ち上がった。
「帰れってのか? ああ、帰ってやるよっ。もう半年ぐらい一緒にいるって言うのに、おれが冬治のこと好きだってわからねぇのかよっ。くたばれっ」
「え?」
すぐさま回れ右をして玄関を一直線に目指す。
「させませんよっ」
「がっ……」
まぁ、当然ながら廊下に百々がいてそのまま二人とも壁にぶつかった。
おいおい、吸血鬼が本気出して腰に飛びついていいのかよ……あれはラグビー部がふざけてしてくるようなタックルじゃなくて試合で見るようなものだったぞ。
「だ、大丈夫か?」
引き締まったお尻をこっちに向けている千鶴に聞いてみる。
「いててて……」
「ほら、捕まれよ。ったく、百々も手加減してやれ」
「わ、悪い……壁壊しちまった」
「気にしないでいいって」
千鶴の手を引っ張って起こしてやる。
「冬治さんっ」
その時、声は聞こえなかったけど百々の言いたい事がわかったような気がした。
こうすればいいんじゃないか……千鶴を抱きしめてみた。
「お、おい、冬治っ……」
「……あー、何だ。一緒に居ても言ってくれなきゃわからないよ。俺も千鶴の事が好きだ」
「冬治……」
「ああ、それで、最近のお前おかしかったのか。もしかして嫉妬してたのか」
「……ち、ちげぇ……ってわけでもない。そうだよっ。こんな感情初めてだけど、たぶん、嫉妬だよ」
千鶴は自分の額を俺の胸にこすりつけてくる。
「……もしかして、嫌いになったか?」
「いいや、すごく可愛い奴に目をつけられたなって思った」
「冬治っ……」
思いっきりぎゅーっとされる。
出来たての彼女にこんな事をされたら嬉しい限りだろう……だが、俺は一つ忘れている事があった。
「ぎゃああああああっ」
「と、冬治っ?」
「あ、そういえば忘れてました」
背中の骨がすんごい音を立てて砕けたような気がした。
その後、俺はすぐさま病院に運ばれる事態となったのだった。




