第三十一話:友への相談
第三十一話
四季小春にしては珍しく、今日は部屋が片付けられていて綺麗だった。
しかし、片づけ下手な小春のベッドには脱ぎ散らかした下着や読みかけの雑誌が既に散乱していたりする。
「あー……何なんだろ」
パステルピンクのクッションを抱きしめながら右へ左へ、ベッドの上を転がる。
「ううー……ああ、もうっ」
少し唸ったかと思うと携帯電話へ手を伸ばす。
数度の操作を終えると何処かへ電話をかけるのだった。
『もしもし? 小春が電話かけてくるなんて珍しいじゃないの』
「あの、さ……相談したい事があって」
『そうだしたい事?』
「うん……」
話していいものか、どうやったらうまく伝わるかと悩みながら、小春は黙りこんだ。
『もしかして吸血鬼が?』
「へ? 吸血鬼?」
『ああ、いや。違うんならいいんだ、うん』
友達である天田志枝は吸血鬼だ。彼女が吸血という事を小春は知っており、何度か彼女の都合とやらに巻き込まれた事もある。
『それで、どうしたの? あたしにも話しづらい事?』
「ちょっとだけ話しづらい事」
『あっそう、だったらわざわざ電話してこないでよ。忙しいから』
「わー、ごめん。言うよっ。言うからっ」
吸って、吐いてを繰り返し、志枝がそろそろ電話を切ろうかなというタイミングで切りだす。
「えっとね、うーん、何と言うか……志枝ちゃんって年下の男の子……好みだったりする?」
『生徒に恋したのね。あの真面目ちゃんがねぇ……』
電話の向こうからちょっと呆れた感じの声が聞こえてきた。付き合いの長い友達だ。何となく伝わるらしい。
「あ、べ、別にそういうのじゃないの。ちょっとだけ、いいかなーって思う子がいて」
『それで?』
「えっと、結構優しいし……何かにつけてわたしに協力してくれるの」
『あんたの身体が目的なんじゃないの……は、ないわね』
志枝は一蹴した後、軽く笑うのだった。
「酷いよ志枝ちゃんっ!」
「いや、でも全然成長してないじゃん。そいつ、特殊性癖者なんじゃないの?」
「ううん、冬治君は……あ、えっと、その子はそんなんじゃないと思うよ」
『……ちょっと待って。今、何って言った?』
「そんなんじゃないよ」
『男の名前。冬治って言わなかった?』
「うん、言ったよ」
少年か……志枝の独り言が小春側にも流れてくる。
「知ってる子?」
『ただの知り合いっ。何でもないわ』
「志枝ちゃん……さ、年上の人が好きって言ってなかった? 結構、年上の男の人と一緒にいる事多かったよね」
『あれは別の意味で付き合ってた。あたしも年下の子が好みよ。とは言っても、少年はちょっと好きなタイプじゃないから安心しなさい』
「そっか」
その言葉にほっとした事に気づき、小春は顔を真っ赤にしてしまう。
『それで、急に好きになったの? ま、小春じゃ少年が卒業するまでに家の中へ連れ込めないでしょうけど』
うへへと下品に笑う志枝にむっとしてしまう。
「こ、この前なんてお酒飲んで部屋にあげたんだから」
『うっそ……あんた意外とやるわね。あの少年がねぇ……』
何やら感慨深げに声を出す志枝に更に小春は得意げに答える。
「それでね、どうやら掃除までしてくれて、わたしをベッドに寝かせてくれて鍵をかけて帰ったみたいなんだ」
『……帰った? 朝まで一緒じゃなかったの?』
不思議そうな声を出す志枝に詳しく小春は説明を始める。
「うん、帰ったよ」
『信じられないわね。あんた、お酒飲んでダウン状態だったんでしょ?』
「そんな、ダウン状態になるわけないよ。冬治君をちょっと驚かせようってセーラー服を引っ張り出して着替えてる途中に寝ちゃっただけだから」
『……半脱ぎの小春を見てもムラッとせずにベッドに寝かせたのか。据え膳食わぬは男の恥って言葉を少年は知らんのかね』
呆れたような友達の声に小春は自慢するのであった。
「どう? すっごく、紳士的な子でしょ?」
『……あんたにはちょうどいいかもね……というか、さ』
「何かな?」
少しだけ静かになって志枝は遠まわしに表現するのだった。
『ごめん、率直に言うわ。多分、少年は小春の事を女と思ってないね』
「え、そ、そんなことないよっ」
学生時代の頃、志枝より小春の方がもてていたのでここぞとばかりに志枝は攻撃するつもりであった。
『少年さ、もー、あれね。亜子がいきなり連れてくるから部屋着で対応するしかないでしょ? そうしたらあたしの身体を食い入るように見つめてるわ。ま、魅力的な身体だからみられるのはしょうがないわね』
「……あ、あれって志枝ちゃんの事だったんだ」
『へ?』
「この前さ、友達の家に行ったらすっごくだらしない姉がいたって冬治君が言っていたんだ」
『……少年は後で説教が必要ね』
電話の向こうから聞こえてくる声は凄く暗いものだった。
『それで、あんたどうするつもり?』
「どうするって……」
そんな事もわからないのか、志枝はじれったそうにため息をついた。
『相手は生徒。あんたは教師……考えないと二人とも不幸になる……といいたいところだけどそもそも付き合ってすらいないわね。ま、頑張りなさいよ』
「あのさ、何かあったとき……志枝ちゃん、何とかしてくれる?」
小春の言葉に電話の相手は沈黙した。
沈黙も数秒、笑い声が聞こえてくる。
『勿論よ』
「うん、ありがとう」
小春は何だか背中を押された気になったのだった。




