第二十七話:プライベート
第二十七話
四季先生が酔っ払うと非常に面倒な性格だと言うのを知ったとしても、俺にとって先生は先生である。鍵を元新聞部に嗅ぎつかれる事無く返せたのは日ごろの行いがよかったからかな。
「頭痛いー」
「センセー、授業しろよ」
千鶴たんのヤジが飛んでもどこ吹く風であった。
これは四季先生のピンチではないだろうか。
「とりあえず保健室に連れて行って来るわ。自習でどうだろうか?」
「おおーいいなそれ」
「先生お大事に―」
率先して教壇に立った俺は周りの歓喜に流されず黒板にちゃちゃっと自習の文字を書いた。
この前、担架を出して非常に怒られた為、今回は俺が付き添うことになった。
「先生、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫……気分悪いけど」
肩を貸して歩くには身長の差があるためおんぶだ。百々とか千鶴たん、亜子をおんぶした事が一度ぐらいあるが、その中でも突出して……胸が当たっていなかった。
四季先生の弁護のために言わせていただくが、一応、胸は当たっているんだ。何だ、その、あれだ……まな板をおんぶしている気がしてならないだけだ。
もう少しで保健室……そういったところで四季先生が急に声をかけてきた。
「あのさ、冬治君は……あ、ごめんね。夢川君は」
「別に下の名前でいいですよ。担任なんですから」
「うん、そっか。そうだよね。冬治君は前の学園からこっちに転校してきたんだよね。女子更衣室に入ったって事で」
俺がこっちに転校してきた事をいきなり言われた。
「そうですね。入りましたよ」
「女の子の着替えに興味とかあったの?」
実際は友達にはめられた単なるおふざけだったんだが、問題が少し大きくなりすぎたんだよな。
しかし、ここで否定したら何だか違う方向で心配されそうだったので頷いておいた。
「少しは」
「でもさ、わたしの家に……」
「あれ? 四季先生じゃないですか」
「あ、保健室の先生」
四季先生が何かを言おうとしたところで、保健室から先生が出てきた。四季先生の事を話すとちょうどベッドが開いているとのことだ。
「じゃ、お願いします。先生、気分がよくなったら戻ってきてください」
「うん、冬治君ありがとね。あと……」
「何ですか?」
俺の顔を見て四季先生は困ったように笑った。
「えーと……ううん。みんなにちゃんと自習しておくようにって伝えておいて」
「ああ、それならきっと真面目にしてますよ」
担任を不安にさせるのはよくない生徒の例だ。俺は自分の限界を超えた安全安心の微笑みを四季先生へと向ける。
「……すごく、不安なんだけれど」
積み重ねてきた実績というのは安心なんて言葉じゃ、覆い隠す事が出来ないようだな。
その週の日曜日、街中で偶然志枝さんに出会った俺は突然おつかいを任された。
「亜子から頼まれたものだから。夕方までにはあたしんちに持ってきてね。忘れたら少年の身体中の血、抜いて代わりにコーラ詰めるから」
「コーラ!?」
財布を渡されたのでぱしりではないと思う。あと、コーラ人間には成りたくないので頑張らなくては……。
ちょうど俺も百々から買い物を頼まれていたので、ついでに買ってくればいいかなという気持ちでスーパーへと俺は向かうのであった。
その途中、繁華街によるとどこかで見たような光景を目の当たりにする。
「んん? あれは……」
チャラい男に囲まれて困っているのはどう見ても、四季先生だ。ふむ、一応ああいう人たちにも絡まれるんだな。
他に助けてくれそうな人もいないし、面倒を起こしそうな新聞部もいない。ここは俺が出しゃばるしかないようだ。
勿論、暴力で解決しようなんざこれっぽっちも思っちゃいない。
「ねぇねぇ、いいじゃん。暇なんでしょ? だからおれたちと遊ぼうってばぁ」
「いや、あの……」
「いーじゃん。超楽しいよ? 奢っちゃうからさ」
「あのー、すみません」
「あ? 何。俺らマジ忙しいんだけど?」
茶髪の男が俺をねめつけた。
「……あの、その子の年齢わかっててナンパしているんですか?」
「ああ? 十七……十八……いや、十九だろ」
四季先生は微妙に嬉しそうな顔になったりする。やれやれだ。
「俺、その子の知り合いなんですけど……まだ○学生ですよ」
「ぶっ」
「マジかよっ……ありえ……なくないか」
四季先生をじっと上から下まで眺めていた。
「としちゃんの妹も○学生でこの子より大人びてるもんな」
「あ、ああ……最近のはマジぱねぇな」
「日本はどこに向かってんだろ」
「いやー、またポリに追っかけられるところだったわ―」
ごまかすようにチャラ男達は去っていった。
「……冬治君」
「何でしょう。あ、お礼なら要りませんよ? 当然の事をしたまでですから」
「何で邪魔するのーっ。すっごくいい感じだったんだからっ」
「え? ナンパされてたんすか」
「そうだよーっ……駅前にできたスイーツ屋で奢ってもらうはずだったんだから」
ちらっと見てきて俺はため息をついた。
「あの、教え子に……いや、何でもないです」
ありがた迷惑か。良かれと思ってやったことが裏目に出るなんてよくあることだよな。やれやれ。
「うわーっ。これすごいね、冬治君っ」
「そうっすね……」
機嫌の悪かった四季先生も御満足になって頂けるスペシャルなパフェであった。盛り付けもスペシャルながら、値段もスペシャルである。
「じゃあ、食べちゃうね」
「どうぞどうぞ」
特にする事もないので(何か頼もうとは思ったよ……思ったけどさ、スペシャル分は抑えないと夕飯のグレードが落ちるわけよ)ぼーっと四季先生の顔を眺めていた。
一生懸命食べている姿はなんだろなぁ、生命の神秘とかそう言うのを思わせる。それに、普段は幼い顔立ちの四季先生だけれど、結構、綺麗だ。
「……綺麗だなー」
「え?」
「あ、何でもないです。食べててください」
俺の言葉がどうやら聞こえてしまったようで、勢いがかなり落ちた。
「そ、そんなにみられてたら食べられないよ」
「あ、すみません」
もっともだ。俺も他人からじっと見られながら何かを食べたくはない。
携帯電話を取り出していじり始めると視線を感じた。
「ん?」
「あのさ、冬治君……誰かと一緒にいる時にケータイとか触るの、マナー違反だよ。あ、この人わたしよりスマホの方がいいんだって思っちゃうよ」
「……すみません。あの、参考までに聞きますけど、何すればいいんですかね」
「話そうよ。たまには二者面談もいいんじゃないかな」
食べながら話すのも行儀が悪いのではないか。
しかし、突っ込んだらまた何か言われそうなので黙っておこう。
四季先生とどんな話をすれば盛り上がるか考え抜いて、俺はとある質問をした。
「四季先生、セーラー服、似合ってましたよ」
「んぐっ」
盛りに盛ったスプーンを口に突っ込んだまま、四季先生は動かなくなった。
「せ、先生っ。大丈夫ですか」
「ぷはっ……危なかった―」
何とか飲み込んだのか四季先生は荒い声を続け、息を整える。
「嘘、あれって夢じゃなかったの?」
どうやら約一週間前の事を夢だと思っているようだった。
「いや、次の日鍵を返しましたけど?」
「それを含めて、夢かと思ってた」
「……どんだけ夢心地で日々を過ごしているんですか」
「ご、ごめんね」
四季先生が凹んだ姿は非常に気分の悪いものだ。頭ごなしに怒ってしまったんじゃないかと錯覚させてしまう何かがある。
「まぁ、いいんです。でも、すごく似合ってました」
「からかわないでよっ」
「いやいや、本当です。今度出来ればまた見せてくれませんか」
「えっと……そうだね、冬治君なら口が堅そうだし、いいかなー」
その後、俺と四季先生は来週の日曜日に会う約束をして別れたのだった。
最後に別れた時、どことなく照れていた四季先生の顔を思い出す。
「……あれ? 何か忘れている気がするぞ」
夕焼けを眺めて思う。はて、一体何を……。
「買い物だっ」
俺の顔はおそらく、真っ青であろう。
まぁ、ここらで報告を。悩みに悩んだ末、百々の話は結論付けました。二通り用意して「百々ちゃんがんばって」的なメッセージが来ればAルートを、スルーされればBルートを投稿する方法を考えました。うん、駄目ですねこれは。百々に失礼です、はい。そのせいで悩んだというのもあったのですが結果としては……ここまであとがき書いて気づいたんですがね、今回四季先生の話だったんですね。いかんいかん。気を取り直してあとがきを。四季先生の話には特にばたばたしたようなことが起こらないってのは言っていたと思います。比較的話もライトで……ここらで一つぶっこむか……という欲望も抑えています。ちなみに、作者的書いてて楽しい順番は百々、小春、志枝です。百々はもう、これって感じで突き進んでますし、四季先生はほっときゃ出来る。志枝は……こっちもあれですね。というか、百々よりこっちのほうが……ああ、相棒も忘れてましたね。山野千鶴。方針的にこれもきまってましたし、どれもクライマックスに近いのかな。次回も決まりましたし、終わったら投稿できるよう頑張りますんで読んでくれている方、ありがとうございます。今後もよろしくお願い致します。




