第二十三話:求む、セクシー系女教師
第二十三話
それまで一人暮らしだった俺にとって、百々という存在は意外とプラスな存在だったらしい。
「やったっ。じゃあ、約束通り肉まん勝ってきてくださいね」
「ちくしょー……まさか、負けるとは」
時代遅れのゲーム機を引っ張り出して二人で格ゲーをやっていた。負けたほうが肉まんという事で三本勝負の最後……殆ど土俵が同じであったからか非常に白熱した戦いが繰り広げられていたわけだ。
まぁ、そんな闘いも永遠に続くはずがなく、俺の負けで勝負は終わる。
「気をつけて行ってくださいね。遅れるときはちゃんと連絡ください」
「ああ。んじゃ、行って来る」
一月の夜は当然、寒い。
コートの前をしめて、マフラーに顔を埋める。それでもまだ寒い。
時刻は十一時を過ぎており、後一時間経たないうちに明日がやってくる。
明日もどうせ、さむいんだろうなぁと思いながらコンビニを目指して歩く。
「ん?」
一瞬、見間違いかと首をかしげる。しかし、見直してもこの寒空の下、倒れている人がいた。
まさか、行き倒れかよ……慌てて駆け寄って肩をたたく。
「え? 四季先生……」
身体が凄く冷たかった。車にでもはねられたのだろうか。
「四季先生っ、四季先生っ」
「ん~? 何?」
「うわ、酒くさっ」
顔を逸らそうとすると四季先生が重そうなまぶたを押し上げた。
「誰~?」
「冬治です。夢川冬治です。先生の教え子の」
「あ~夢川君かぁ。そっか、夢川くんなら大丈夫だぁ~」
よっぱらいに何を言っても無駄か。警察に連れて行くのも何だか可愛そう(後で先生がこっぴどく叱られそうだ)なので住所を聞き出すことにした。
「日本に住んでいるでありますっ」
びしっと敬礼されて答えてもらった。その幸せそうな顔にチョップを喰らわせたい。
「というか、寒いんだけど」
「そりゃあ……コートか何か持ってないんですか?」
「もってるよ、夢川君が。入れてー」
「っと……」
あっという間に俺のコートの中に入り込んでくる。凄く、身体が冷えていた。
「ほら、いこ~よ~」
「どこに?」
「家だよ。送っていってよ~」
意識がはっきりしているのかは分からないが……歩けば此処に行けと指示をくれて(これだから酔っ払いは嫌いなんだ)その通り進むと少し立派なアパートに着いた。
鍵は既に渡されており、一応、百々に事情を伝えて遅くなる事、肉まんは明日にするので先に寝ておくように伝えておいた。
「付きましたよ」
「うーん、御苦労っ」
本当に俺、お疲れ様。
やれやれ、ようやくこれで帰れるよと思ったら腰に何かがひっついていた。
なんだ、酔っ払いか。
「ねー、連れ帰ってきてくれたからお礼をあげるよー」
「はぁ、お礼ですか?」
「そーそー。だから、こっちに来てよー」
「わかりましたよ」
リビングの方を指差すのでそっちへ歩いて行く。その間もずっと、四季先生は腰にぶら下がったままだった。
「それで、お礼は何をくれるんでしょうか」
「何とっ」
「何と?」
「このリビングを片づける権利、あげちゃいますっ」
リビングに明かりがともった。
開口一言、うわ、きたねぇ。
「お願いしまーすっ」
「……え、マジですか」
「まじです。おおまじなのですっ」
じゃあ、お願いねと四季先生はおそらく寝室と思われる部屋へ入っていった。
「しないと、駄目なのか? うーん、したほうがやっぱりいいよなぁ」
いいのかなと思いながら俺はリビングを片づけ始めるのであった。
「ま、ざっとこんなものだろう」
片づけ始めて約一時間。ようやく、リビングが綺麗になってきた。下着類とかは扱いに困ったが百々と生活していたのでブラジャーとパンティーはまとめてネットに入れて洗濯機に投入しておいた。
「これがセクシー系女教師ならやばかったな。というか、四季先生もう二十五なのにクマさん履いてるのかよ」
特殊な趣味の人には受けるかもしれないなぁ。
腐った野菜とかは無かったのでほっとしながらフィルターの詰まってしまったコーヒーをひとつ失敬して飲ませてもらう。
「まじぃ……っと、時間が時間だな。そろそろ帰らないと明日起きられねぇわ」
時計を見てため息をつく。
まだ起きているかなと思って四季先生が消えた部屋をノックする。
「四季先生? 入りますよ?」
ノックに反応が無いので確認し、扉を開ける。
そこには血まみれの四季先生が……だったら、ミステリーに移行するのにな。まぁ、犯人は吸血鬼だろうが。
「すー…」
「この人、セーラー服がパジャマなのか?」
押し入れから引っ張り出したのか衣装ケースが転がっている。半脱ぎ状態の四季先生がベッドにダイブしていた。
黒いパンツが背伸びしているなぁというほほえましい気持ちを俺に与えてくれる。前もきちんと閉めていないのでブラジャーとか見放題だ……ああ、見ていて凄く寂しい気持ちになった。先生、背伸びして黒いブラジャーだなんて……大人を夢見ているんですね。
「……ああ、この人二十五だったな。しっかし、セーラー服でも十分通用するなぁ」
あどけない寝顔を見て俺はため息をつく。全く、俺が特殊な趣味の持ち主だったら今頃大変な事になっていただろうよ。
綺麗にベッドへ乗せ、毛布と掛け布団を上に乗せる。
明日の朝、先生が遅刻しないように一時間は余裕が出るであろう時間帯を目ざましにかけておく。
衣装ケースも簡単に片づけて俺はアパートの一室から出ようとする。
「ん? 鍵は……どうやってかければいいんだ」
帰らないわけにはいかないのでどうするかと考える。開けっ放しはまずいだろう。
結局、書き置きを残して鍵を借りて行くことにした。テーブルの上と、玄関に残しているので気付くであろう。




