第二十話:日中の吸血鬼会議
第二十話
一カ月ぶりに学園とか、職場とか……果ては公園復帰なんてものは知り合いに会うのが少しだけ気恥ずかしいもので何と声をかけてもらえるのかドキドキしたりする。
「おはよう」
「あ、おはよう」
「おはよう」
以上が俺の友達の反応である。
まぁ、何だろう……いてもいなくてもいいって事なのだろうか。
学園の友達の反応はとりあえず置いておくとして、あれから俺のところに狼男は現れなかった。
「あたしに恐れをなしたのかな」
退院時に後頭部を掻きながらも真面目な顔をして空を眺めていた志枝さんの表情が印象に残っている。
昼休み、屋上で百々と一緒に昼食をとっていると志枝さんが現れた。どこから湧いたのかは知らないが、何故だか女子生徒の制服を着用している。
「どう?」
「どう、とは?」
「似合っているか、似合っていないのかと言うことだと思いますけど」
百々からそう言われなくてもわかっちゃいるさ。
ただ、何歳だったか……たしか、二十五歳ぐらいの人が学園の制服を着るのは間違っていないだろうか。
「年齢の概念を捨ててください」
「ちょっと百々、余計な事を言わないっ」
「……そうだな、年齢の概念を捨てよう。二十五歳の志枝さんではなく、単なる志枝さん。志枝さんは志枝さん……」
いい感じで眉が吊りあがっている中、俺は志枝さんの年齢概念を捨てた。
「うん、似合ってますよ」
「何だか素直に喜べない」
でしょうね、二十五歳の人が……。
「いや、待てよ……? 二十五歳でも十分似合うと思うな」
「え? 本当? それ心からの言葉よね? あたしの目を見て話してごらん、少年」
「はい、嘘じゃないですよ」
曇りなき俺の眼は一切そらすことなく志枝さんの瞳を見据えていたのだった。
「俺の担任の四季先生ならいけるかと」
「少年~あたしが似合ってないと意味がないっ。罰ゲームっ」
俺は屋上から投げ捨てられたのだった。
「……えーと、話は変わりますがあの狼男についてです」
百々によって救出された俺はフリーフォールからの生還をかみしめていた。そのまま、彼女の説明を聞きながらため息をつく。
「何でこういうことになってしまったんですかねぇ」
「それはあの男が勘違いするからでしょ」
「それはまぁ、そうですね」
「あくまでそれはきっかけでしかないからね。あいつの誤解を解いたところでもうどうしようもないわよ。見す見す逃がしてくれるような奴では、ないから」
百々も頷いてため息をついた。
「御老体ですから遠慮はいりませんよ」
この手でねじ伏せますよと口元を歪めて百々が笑っている。
「恐ろしい事を言うなぁ」
「老齢の狼男ってやつは狡猾になってくるの。少年にはグロイところを見せないようにするのもあたしたちの仕事よ」
「ですね、出来るだけスマートにしないと」
百々が日直の用事があると言って先に行ってしまい、俺と志枝さんだけになった。
「あの、志枝さんって前からこんな仕事を?」
「仕事かどうかはわからないわね。確かにお金はもらっているけど。あ、知ってる? ニートって部屋の開け閉め、排泄、冷蔵庫の開閉が主な仕事らしいわよ」
「話を逸らさないで下さいよ」
噛みつくようにして言うと困ったように眉根を寄せて笑っていた。あまり喋りたくない事なのだろうけど、俺からしてみたら聞いてみたい事だ。
「やれやれ、せっかちねぇ。あのね、少年。確かに可哀想だと思うこともあるけれど基本的には襲いかかってきた相手を露払いしているだけなのよ。それに、やらないと……」
黙って俺を見てきた。
「こっちがやられる?」
「それだけならいいわ。あたしなら亜子が巻き込まれるかもしれないし、百々なら……そうね、少年が巻き込まれるかもしれない。自分の居場所に居る人が怪我とか、嫌じゃない? あたしは嫌だからね。重くても四肢一本でけじめをつける努力はしてる。ただ、あいつは駄目よ。野放しにしておくと必ず少年を……やりにくるわ」
やると言う漢字がどうなのか、想像するまでもなかった。
「そうすることであたしに復讐しようとしているんでしょ」
「でも俺は彼氏でも何でもありませんよ」
「もう何でもないって事はないでしょう? 知り合ってそれなりに仲良くなったとあたしは思う……そんな相手が、ある日突然何も言わなくなっても少年は何も感じないの?」
そんなわけはない。志枝さんもそれはわかっているようで優しい表情になった。
俺の頭の上に手を乗せ、撫でる。
「だから、少年はあたしが守る。勿論、百々も守ってくれてる。まかせといてよ」
「はい……」
「さて、ニートさんは家でごろごろでもしてこようかな。じゃあね、少年」
屋上の淵に立った志枝さんが飛び降りようとしたので俺は声をかける。
「あのっ、志枝さんっ」
「何?」
「後ろ姿、すっごくかっこいいです」
「……かっこいいか。その言葉じゃ、女の子は落とせないわよ」
そういって志枝さんは屋上から飛び降りたのだった。
きっと志枝さんなら俺をあの狼男から守ってくれるはずだ。今は信じて日常を送るしかない。




