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第十七話:寒い夜の始まり

第十七話

 頭を抱える事態って言うのはいつだって起こるもので寒いと言うのに暖房が壊れ、ストーブがいかれ、こたつユニットが爆発した。

「最後のカイロが破れました」

「こっちはハロゲンがおしゃかだ」

 百々と二人で顔を合わせ、ため息をつく。

「せめてこたつを買いに行きませんか」

「そうだな、そうしよう」

 マフラーとコートを準備して二人して外へ出かける。風が強いのでとても寒い。

「うう、寒いっ……」

「吸血鬼も寒いって感じるのかよ」

「環境適応能力が高いと言うわけではありませんし、私は特に寒いのが嫌いです」

「そうか、とりあえず電気屋を目指すか」

「はい」

 寄り添うようにして歩いて辿り着いた。三十分はかかっただろうか……。

「申し訳ございません。その型番のユニットは生憎売り切れておりまして……商品がこちらに届き次第、ご連絡差し上げましょうか」

「どうしようか」

「まだ寒いですし、お願いしましょう」

「そうだな。お願いします」

「畏まりました。それではお電話番号をお伺いしてもよろしいですか?」

 ついでに修理依頼やらハロゲンやら購入した(父ちゃんの輝くカードで一発だぜ)。

「うう、さびーなぁー」

「はいー」

 外へ出ると先ほどよりも更に寒く感じ、風まで強くなっている気がした。

 途中、コンビニを見つけて中に入るも、小銭は百円とちょっとしか入って居ない。

「……百々、お前が食えよ」

 とりあえず一個買った肉まんを百々に渡す。

「え? いいんですか」

「ああ、寒がりなんだろ。まぁ、スズメの涙程度だろうが温かくはなると思うぜ」

「ありがとうございます」

 えっちらおっちらちんたら歩いて何とかアパートまで戻ってきた俺達は早速ハロゲンに近づく。

「ふー、これ一個あると違うもんだな」

「外は極寒でしたからね。」

「北海道の人達も羽津の冬はきっと寒いって言うだろうよ」

 くだらない話をしながら風呂の準備を始め、溜まったので先に入るよう促す。

「入って来いよ。外、寒かっただろ」

「冬治さんからどうぞ。私はまだ少し肉まんが残っていますのでそれを食べてます」

「そうか。んじゃ、お先に失礼するよ」

 鼻歌を歌いながら冷たい廊下を歩き、脱衣所へと入る。

 寒いのでさっさと全裸になり、俺は湯船に直行した。

「ふいー……」

 冬場にお年寄りが風呂場で危険な目に遭うのも納得できるなぁ……このまま気が緩んだら大変な事になりそうだぜ。

 気が緩んでぼーっとしていたら脱衣所の方で音がし始めた。

「何だ、百々か」

 このアパートは脱衣所からしかトイレに入れない為、最初は百々がトイレに行っていると思っていた。

 しかし、トイレに行くのなら断続的に音はしないし、トイレの扉が開いたり閉まったりする時の音もしない。

「何なんだ?」

 まさか、限定的な金曜日にしか現れない化け物がやってきたわけでもあるまい。

 もしかして強盗でも入ってきたんじゃないのか……鍵、そもそも閉めたっけと頭の中で考え始めた。

 大声で百々を呼べばいいかもしれない。そうすればたんなる人間くらい、百々なら片手で何とかできる。

「百々―っ、ちょっと来てくれ」

「え? あ、えーっと、いいんですね。失礼します」

 すぐさま浴室の扉が開いてバスタオル一枚姿の百々が入ってきた。

「……え?」

「あれ? 今呼びませんでしたか?」

「呼んだけどさ」

「じゃあ、隣失礼します」

 ちょっと待てよと言う前に湯船に入り、俺の隣に腰掛けた。二人入ればお湯は当然こぼれるわけで、決して狭くはない湯船は殆ど密着状態だ。

「……なぁ」

「はい?」

「何で風呂に入ってきたんだよ」

「それは一緒に入れば仲良くなれるじゃないですか」

「はいはい、どうせ血だろ」

 百々は吸血鬼だ。そして、彼女は俺の血を気にいっている。俺達の関係を簡単に言うなら捕食者と食われる側ってことだな、うん。

 じゃあ、俺から百々を見た場合、それはどう映るんだろう。

「冬治さんは……」

 百々が何か言おうとしたとき、リビングの方から窓ガラスが割れる音が確かに聞こえてきた。


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