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プロローグ

プロローグ

 俺、夢川冬治が羽津学園に転校してきて気がつけば正月が過ぎていた。

「うー、さぶっ」

 彼女の一人でもいれば初詣にでも行っていただろう。残念ながら、そんないい人は見つけることが出来なかった。

 文句を言っても仕方がないし、俺みたいな一人身の連中は他に居る。ま、この歳で別に彼女を作る必要もないだろう。成るようになるさ。

「最近の若者はなってないね。全く、年賀状が超少ないじゃねぇか」

 殆どがメールで送られてきた明けましておめでとう。あけおめ、という四文字が殆どで女子から来たものはそれなりに豪華ではあるものの、中にはあけおむと打たれたものが混じっていたりする。しかも、題名のところに打たれているではないか。

 とりあえず送信しようと考えていたら父親から電話が入った。

「もしもし?」

『明けましておめでとう。そっちは今日正月だろう?』

「そうだけど、今どこに?」

『迷子だ』

 小さい頃から一人の正月が多かった我が家。最近になって余計に両親が家に寄りつかなくなってしまい、自宅はほぼ空き家状態……俺が一人で各地を転々としている状況が続いていたりする。

「それで、どうしたの? もしかして返って来れるとか?」

『無理だなぁ……実はアホらしい話なんだが……』

 たまには冗談の一つでも言う父親だ。しかし、こんな真面目な声で冗談を言った事はない。

『お前の所に吸血鬼が向かってる』

「吸血鬼って父ちゃん……」

 正月早々よくわからない事を言われた。この前見た『AB型の血が不足しています』という看板を思い出す。

「遠まわしに献血に行けと?」

『ま、何とかなるだろうから気にするな』

 会話になって居ない会話があっという間に終わり、チャイムがなった。

「……まさかな」

 電話してすぐに吸血鬼がやってきたのだろうか。それはないだろう。出来過ぎている。

「にんにくはあっただろうか。十字架って聞く……聞かなかったらそれで殴ればいいか」

 一般家庭に十字架が落ちているわけでもないし、杭をもって玄関を開けるわけにはいかないだろう。

 しかし、正月早々遊びに来るような人間が俺の友達にいるだろうか。

「おーい、冬治っ。遊びに来てやったぜ―」

「……なんだ、千鶴たんか」

 一人称がおれという変わった女子生徒が乱暴に玄関の扉を叩いていた。あいつが吸血鬼だったら笑っちまうな。

 二学期から出来た友達を警戒する必要もない。俺はあっさりと扉を開け、彼女を中へと招き入れるのだった。

「ふー、寒かったぜ」

 すぐにこたつに入った千鶴たんは思い出したかのように俺へ視線を向ける。

「なぁ、お前の知り合いに金髪の女はいるか?」

 目の前の知り合いに指を指す。

「これは茶髪だよっ。金髪だよ、金髪っ」

「金髪……? 多分、いない」

「黒いマントつけてたんだよ。裏地が赤の」

「……黒いローブを纏った人なら親戚に居るぜ。魔女じゃないのか?」

「あれは吸血鬼だ。間違いねぇよ」

 俺の話を聞かずに勝手に結論付けて蜜柑へと手を伸ばす千鶴たん。

「吸血鬼ねぇ」

 窓の外を眺める。雪が降っていて、風もそれなりに強い。今の季節やってくるなら吸血鬼よりも雪女の方が適切ではないのか……。

 俺の新年はこんな感じで幕を開けた。


どうも作者の雨月です。今回は題名の通り吸血鬼が出たりします。以前吸血鬼物を書いていたので大まかな設定はそっちを踏襲しようかなと。今回も四分割方式で行く予定です。キーワード欄に書くほどじゃありませんがメインの子の話ではちょっと残酷な表現をするかもしれません。するする詐欺で終わりそうですがね。

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